働き方

後ろ向きに生きるのはそんなにダメなことなのか

投稿日:2016年6月6日 / by

ベストセラー続編であえて王道に背いたワケ

『千円札は拾うな!』。私がこれまでに書いた本の中で、一番売れた本です。累計で33万部も売れました。その次に書いたのが『下を向いて生きよう』という本です。これが全く売れませんでした。一応、5万部は売れたのですが、ベストセラーの続編としては異例の低売上らしいです。

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『千円札は拾うな!』は、端的に言えば「常識を疑え」というテーマです。でも、そのままだと面白くないので、ちょっとひねったタイトルを考えたのです。

通常、これだけのベストセラーになると、そのまま続編を作るのだそうです。つまり、『続・千円札は拾うな!』とか『千円札は拾うな!2』とか『千円札は拾うな!実践編』とかです。

明らかな続編は前作よりは絶対に売れないそうですが、必ずその半分は売れるのだそうです。つまり、16.5万部。これを確実に拾いにいくわけです。

しかし、です。そもそも「目の前の千円札を拾うな!」とか言っているのに、明らかな続編など出すわけにはいかなかったのです。それはもう、私自身の美学のようなものでした。

下をみて満足する生き方だっていいだろう

そこで考え出したのが、「下を向いて生きよう」というテーマだったのです。これは、ひとつには前作に対するアンチテーゼです。拾うな!と言っておきながら、下を向くことをすすめている。そして、もうひとつは、自分自身へのアンチテーゼ。その頃の私は、自分自身のことが大嫌いだったのです。

上ばかりめざし、競争ばかりして、一体何が手に入ったのか。その頃の私は人生で一番お金を持っていて、独身で、自由で、社会からも成功者として認められ、それでいて人生で一番孤独と空しさを感じていました。

財布の中にはいっぱいお金が入っている。ポルシェも持っている。高層マンションの大きな部屋に住んでいる。でも空しい。毎日酒を飲まないと眠れない。自分は一体何を手に入れたというのだろう。そう、自問自答する日々でした。

そんな苦悩の中から生まれたのが、あの本だったのです。小さな丘でも、下を見ればきれいな景色が広がっている。上ばかり見上げていてもキリがない。勇気を持って立ち止まり、下を見て満足する自分を肯定しようじゃないか。そんな、後ろ向きの本でした。

正直言って、今でも私はこの本が大好きです。千円札は拾うな!よりも、ずっとずっと好きです。でも、まったく売れませんでした。確かに、ビジネス書を買う人に下を向くことを奨めるのはナンセンスですよね。

でもいつか、この本が売れるといいな、と思います。本が売れて、後ろ向きの講演依頼が殺到する。その光景を想像しただけでワクワクします。


<プロフィール>安田佳生(ヤスダヨシオ)
yasuda21965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブを設立。著書多数。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、個人で活動を続けながら、2015年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。最新刊「自分を磨く働き方」では、氏が辿り着いた一つの答えとして従来の働き方と180度違う働き方を提唱している。同氏と差しで向き合い、こだわりの店で食事をし、こだわりのバーで酒を飲み、こだわりに経営について相談に乗ってもらえる「こだわりの相談ツアー」は随時募集中(http://brand-farmers.jp/blog/kodawari_tour/)。

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