企業風土

ABCマート書類送検のブラック企業撲滅への効力【瓦の目】

投稿日:2015年7月3日 / by

ABCマート書類送検の影響力とは

blackcABCマートが違法長時間労働の疑いで書類送検される。厚労省がブラック企業対策のために2015年4月に設置した組織、東京労働局過重労働撲滅特別対策班(通称:かとく)が、同社の複数の店舗で指導したものの、改善が進まないことから、方針を固めた。

悪質なブラック企業に対し、“一発レッド”を予告していた厚労省だが、今回の動きは、その本気度を示すものといえそうだ。もっとも、これにより、長時間労働抑制の方向に働くかは別問題といえるだろう。なぜなら、今回のABCマートの様な“ブラックな働かせ方”をする企業は、いわゆる全国展開する飲食、アパレル系などでは、レベルの差こそあれ、ほとんどが該当する。少しは青ざめているとしても、即座に抜本解決するのは現状では極めて厳しいからだ。

問題の本質は、ビジネスモデルにある。多数の店舗展開は、利益の入り口を増やすため。つまり、各店舗で何としても売り上げを上げさせ、全体の売り上げを高める。しかし、店舗の増加は、製品のコモディティ化でもあり、自ずと価格競争へと進まざる得なくなる。そうすると、店員はサービス残業で長時間働いてでも、その日の売り上げをキープせざる得なくなる。

こうした仕組みでは、店員は定着しづらく、慢性的に人手が不足する。結果、マネージャーや一部の店員に重い付加がかかることになる。おまけに価格競争で単価は下がり、さらに多くのセールスが必要となる--この負のスパイラルが発生するため、該当企業は、お上に注意されたとしても、簡単には状況を改善できない。行き着くところまで行ったすき家の事例で、労働者が決起し、営業不能となる店舗が発生したのは記憶に新しいところだ。

抜本解決にはビジネスモデルの見直しが肝要

つまり、刺された企業は、違法労働を反省する以前に、ビジネスモデルの改善を真剣に考えなければ、ごまかすことはできても再発は防げないのだ。同社は「再発防止のための措置を講じている」と殊勝に語っているが、長時間労働を解消するだけでは、抜本解決にはならない。

店舗出店を慎重に吟味し、待遇を厚くし、商品力を上げる。そうやって経営努力し、スタッフのやる気を刺激し、優秀な人材を集めなければ、企業は疲弊し、やがて消耗するだけだ。該当企業は、現在の真逆ともいえるビジネスモデルへと転換しなければ、いつまでも負のスパイラルから抜け出せない。そうなると、せっかくの政府の本気の対策も、空回りに終わりかねない…。

とはいえ、今回の書類送検で、ABCマートが受けた影響は甚大だ。以前からささやかれてはいたが、メディアにさんざん取り上げられ、一夜にして「極悪ブラック企業」のレッテルが張られることになった。人材確保をはじめ、経営に多大な影響が及ぶことは必至だ。この劇薬が、単にブラック企業撲滅にとどまらず、まだまだ社会にはびこる、すでに破たんしたビジネスモデルそのものを改める契機になることを願う。

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