企業風土

パワハラ、長時間労働はなぜ生まれるのか【瓦版書評】

投稿日:2016年10月19日 / by

社員を追い込むムードが醸成される原因

パワハラ、長時間労働、過酷なノルマ、過労死…。社員を追い込むムードに支配される企業がなぜなくならないのか。売り上げがなければ、会社が立ち行かなくなるから。その通りだろう。ではなぜ、社員が身をすり減らすほど働き、ノルマを達成しなければならないのか。給料を支払っているから。とんでもない。それはズバリ、ビジネスモデルやサービスに問題があるからだ。

さらば価格競争(坂本光司&坂本光司研究室:商業界)

さらば価格競争(坂本光司&坂本光司研究室:商業界)

顧客が満足する質の高い製品やサービスなら、高価でも売れる。必要以上の労働がなくとも十分な売り上げを確保できる。売れない、売れても利益が確保できない。そうだとすれば、ライバルとの無意味な価格競争に巻き込まれてしまっている可能性がある。確かに、同じものなら安い方が売れる。だが、自信をもってつけた価格なら、下げる必要ない。変えるとすれば、売り方だ。

理由はいたってシンプル。モノづくりは想定価格に基づいて原材料や人件費等が決まる。いいものをつくるには、どうしてもコストがかさむ。それだけの価値があるからだ。だから売値を変えるなら、原料費や人件費を設定し直す必要がある。そこを抜きに実施するプライスダウンとなると、どこかにしわ寄せがいく。それが冒頭に挙げたような過酷な労働環境を醸成する。経営努力とは程遠く、会社都合の帳尻合わせでしかない。

売り上げ至上主義の悲しき宿命

「なにがなんでも売れ!」という上司や「1万以下でつくれ」と原価1万円の原料を突きつけるマネージャー…。なぜこんな無茶苦茶な要求を平気でするのか。売れるはずのプロセスを経て出来あったものが売れないからだ。だから頭が混乱し、理性も消失。感情にぶちまけるしかなくなる。こうした管理職の頭には、ただただ、目先の結果のことしか詰まっていない。原点に立ち返り、ビジネスモデルやサービス改善に取り組むのが健全だが、もはやそんな余裕はどこにもない。

その元凶は先の見えない景気低迷にあるのか…。それもそうだろう。だが、根本は、そうした状況にひたすら価格競争をベースにした戦略で臨んでいることにある。好んでそうしてわけではもちろんないハズだ。とはいえ、理性を失い、とにかく結果が欲しい時、価格を下げることは“特効薬”になる。だからついつい服用してしまう…。

タイトルの「さらば価格経営」は、そうしなければ日本企業に幸せは訪れないという、著者らの危機感を表現したメッセージが込められている。すぐにでも“服用”をやめなければ、大変なことになる。多くの企業を直接ヒアリングした肌感覚だけに警告の重みが違う。実際、著者らの調査では、8割を超える企業が価格競争型と回答したという。そのほとんどは赤字にあえいでいるというから切実だ。同書では、その逆である「非価格経営」を推奨。その実例や実践のポイントが詳細に記されている。長時間労働の問題点を正確に把握しきれていない、もしくは目を向けてこなかった経営層は、目を皿にして読むべき一冊といえる。

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