企業風土

月100キロ走ったら手当を支給する制度の狙い

投稿日:2015年8月26日 / by 瓦版編集部

pax1ランニング手当に込められた思い

(株)旅と平和

走ったら手当支給します--。(株)旅と平和では、従業員が一定距離を走れば手当を支給する。シンプルかつ従業員の健康にいい、その名も「ランニング手当制度」。確かにユニークだが、実はそれだけではない。同社の事業との連動性もあり、さらに社員の成長も考慮した、深いいい制度なのだ。代表の佐谷恭氏に、導入の狙いを聞いた。

なぜ走ることに手当てをつけたのか

ランニング手当で支給されるのは、月8,900円。走ったらもらえる額とすれば、なかなかありがたい金額だ。ただし、走行ノルマは、一か月100キロ以上。月間100キロ以上という走行距離は、全くのランニング初心者にすれば、なかなかの高いハードル。逆に、それなりにランニングに取り組んでいる人にとってはやや少なめといえる距離だ。

「金額については、多過ぎず、少な過ぎずというラインでこの額にしました。一見ハンパな額ですが、実は弊社がこだわるパク(PAX)にかけています(笑)。距離は走る楽しさを知るためにはこれくらいかなと。目的は、私どもが普及啓もうしている『シャルソン』の楽しさを知ってもらうことです。ウチは接客を通じてたくさんの人と話をして成長することができる場所。接客は世界を拡げるすばらしい手段だと思っています。その上でさらに自分の経験値を上げるためにランニングをしてほしいと思っています。その楽しみも知ってもらい、さらに健康になってもらえば、一石三鳥じゃないですか」と佐谷氏は狙いを明かす。

楽しみながら走るシャルソンをまさに実践するように笑顔で快走する佐谷氏

楽しみながら走るシャルソンをまさに実践するように笑顔で快走する佐谷氏

「シャルソン」は、佐谷氏が考案した新たなマラソンの形で、ソーシャルマラソンの略。同社が業務提携するオーストリア企業のランニングアプリ「Runtastic」を使い、大会報告会の乾杯時間に間に合うようゴールするということだけが決り事の、自由奔放なマラソンの新しいスタイルだ。長距離を黙々と独走するストイックなマラソンを、楽しく「パーティするように」というコンセプトでアイディアを絞り出し、2012年2月に具現化した。

「パーティするように」をキーワードに発想を拡大

「パーティするように」は、佐谷氏にとってのキーワードだ。というのも、佐谷氏、東京初のコワーキングスペースをオープンした人物で、その時のコンセプトがまさに「パーティするように」だったのだ。

「会社は仕事をする場所だけど、そうはいってもストイックに黙々とやるというのも何か違和感があったんです。リラックして楽しみながら充実して仕事をする。そんなスタイルがあっていいと思っていました。そんな時、ロンドンでまさにパーティをするように仕事をしているシーンを目にしたんです。それがコワーキングスペースだったんです。シェアオフィスでもない、もっと自由な働き方。これだ、と思い、情報収集しながら、コワーキングスペースを東京で初めて開設したんです」と佐谷氏。

すっかり飲食店経営者としても様になっている佐谷氏

すっかり飲食店経営者としても様になっている佐谷氏

なぜ、「パーティするように」、なのか。それは、同氏が場の重要性を重視しているからだ。「会社員時代に新卒採用担当になり、あえて待機場所を用意したんです。それは私自身の就活の際、控室で他の学生との情報交換をすることで、すごくプラスになったから。同じ空間にいるのに、黙々と各自が作業をするのは、もったいないというのが、その時からありました。ではどうすればいいのか、という一つの答えが、『パーティのように楽しくリラックスして仕事をする』、だったのです」と佐谷氏は振り返る。

確かに、会社で毎日のように顔を合わせているのに、飲み会の場で思わぬ素顔を知り、急速に距離が縮まるという経験はよくある。裏を返せば、会社では、それぞれが、作業に集中するあまり、本来の良さや可能性を十分に引きだせていないということだ。それを打破するキーワードが「パーティのように」だったのだ。

否定されるほどにやる気に火が付くアンチ思考

自らを「アンチ」と認める佐谷氏は、一般的にいわれていることに疑問を持つ習性がある。そうした物事に対する問題意識が、佐谷氏のビジネスのアイディアや行動に結びついている。パクチー専門店を東京に開設したのも、「アンチ」ゆえだ。あまりにニッチ過ぎ、「絶対にうまくいかない」とほとんどの人に否定されたのがその証といえるだろう。

だが、いまやパクチー専門店は広く認知されるまでになり、メディアでもたびたび取り上げられている。「ダメだ」、「うまくいくはずがない」といわれるほど、佐谷氏のやる気に火が付く。それは、学生時代から世界中を旅で回っている経験により、確立されたといえる。世界では日本の常識などまるで関係ない。旅を積み重ね、視野が広がるほど、むしろ、常識に捉われることが、発想を貧困にしてしまう。佐谷氏は、そのことを肌で理解している。

アンチ思考でユニークなビジネスモデルを考えだす佐谷氏

アンチ思考でユニークなビジネスモデルを考えだす佐谷氏

「旅」とえいば、どこかへ行くというイメージだが、佐谷氏にとっては、他人、そして未知の体験や異文化に触れることも旅と変わりはない。だから、それが国内であってもそうした場でさえあれば、「旅」は成立する。だからこそ佐谷氏は、運営する店舗を、知らない人同志が出会えるよう“相席型”にし、貸切にしないというポリシーを貫いている。従業員にあえて手当まで支給してランニングを勧めるのも、そうした理念を頭でなく、体で体験してもらうためだ。

 「制度までつくって従業員に勧めていますが、実は私はランニング否定派だったんです。あんな長距離を走るだけのものがなにが楽しいんだろうと。ところがあるきっかけで始め、ハマってしまったんです。頭を真っ白に出来るランニングは素晴らしいと。結局、きっかけは何でもいいんです。でも、始めることで新しい世界が広がれば、その人にとってそれは後々、大きな財産になる。それを感じてもらいたいんです」と佐谷氏。単に走ったら手当を支給するだけの制度にみえるが、実はこれだけの深いメッセージが込められている。このことは、働くことの意味を考える上でも大いに参考になるメッセージといえるだろう。

インタビュー後編では、佐谷氏の「アンチな」生き方が、いかにして育まれ、そして、どんな人生を歩んできたのかをもう少し掘り下げる(後編へ続く)。


【プロフィール 佐谷恭 さたにきょう】

1975年生まれ。大学卒業後、富士通、リサイクルワン、英国の大学院、ライブドア報道部門を経て、独立。2007年8月、「旅と平和」設立し、代表に就任する。同年11月、東京・経堂に世界初のパクチー専門店「パクチーハウス東京」をオープン。2010年8月には東京初、日本では2番目となるコワーキングスペース「Pax Coworking(パックス コワーキング)」を同ビル上階に開設する。2012年からは新しいカタチのマラソン「シャルソン」を企画し、その普及啓もうを進める。

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