企業風土

簡単だがやれていない社員のスキルアップ法

投稿日:2013年11月21日 / by

改善報告制度の本当のすごさとは

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(株)TMJ

社員のスキルアップは企業にとって、永遠の課題である。続々と優秀な人材を採用できれば問題はないが、そうでなければ既存社員のスキル向上が、業績アップの生命線となるからだ。コールセンター運営をメイン業務とするTMJでは、個人のミクロレベルの改善報告を仕組み化し、全スタッフのスキルアップを自然な形で実現している。そのメカニズムに迫る。

ミクロレベルの改善報告を仕組み化

日々業務を行う中で、“もう一工夫するだけで仕事が効率的になる”、“顧客が喜ぶ”…など、改善点に気付くことは少なくない。しかし、吸い上げる仕組みが無ければ、多くの場合、同僚との雑談レベルで話は終わり、せっかくの“気付き”も活かされることなく、事実上消滅する。

同社ではそうした現場に無数に散らばる、ミクロなアイディアを吸い上げる仕組みを構築。業務改善にフィードバックしている。その仕組みはいたってシンプルだ。

(1)改善に気付く(2)フォーマットに従い報告(3)審査(4)採用(5)奨金支給(1件につき300円)という流れ。

改善報告告知

※イラスト工房のフリー素材使用 http://www.illust-factory.com/

非常にシンプルだが、同社の場合、全国に従事するスタッフの数は約8,000名(雇用形態関係なし)。チリも積もれば、ではないが、決してバカにはできない“改善案”の数々が、中枢部に集積することになる。その数、なんと年間6,000件以上。例え小さな改善でも、通常やり過ごされているようなことが、確実に活かされるとなれば、会社力がアップすることはあれ、悪くなることはないだろう。

改善報告制度の狙いとは

tmj-3「もともと2006年にスタートした『小さな改善活動』がベースにあります。こちらはチームで改善成果を競うものですが、それを更に個人レベルにまで裾野を広げたのがこの制度になります。どちらもそうですが、根底には個人が主体的に考える習慣を身に付けることにつながることを期待しています」と同社事業推進本部の野上真裕氏は説明する。

例えば、業務でホチキスを使っていて、芯を換えているときに「芯なしホチキスなら、換える手間も不要で資源の有効活用になる」と感じたとする。それを報告手順に従い、申請する。一応、報告書には導入の理由ともたらされる効果も記入する。細かく記載する必要はないが、それでも単なる思い付きを報告レベルまで落とし込むことにはなる。わずか数分程度で終わるレベルの作業だが、こうしたことを日々繰り返すことで確実に習慣として身体に染み付いていく。

制度浸透を実現する2つのポイント

報告にはノルマも義務もないが、未だに申請ペースは衰えていない。その理由は、少ないながらも奨金がでることはもちろん、なによりも自分の意見が会社に反映されるという喜びが、大きいようである。

もうひとつ大きなポイントは、同制度に人事評価との連動性が全くないということである。人事評価に影響するとなれば、その瞬間からどうしてもある種のやらされ感が充満する。それでは、制度の意義は形骸化する。もっとも、改善活動で目立つ人が昇格する傾向にはあるという。これは、常日頃問題意識を持っている人だからこそ、と考えれば当然の結果といえるだろう。

効果は業務面にも波及

同制度による効果は、業務面にも出始めている。日々の改善習慣が身についたことで、顧客への提案力がアップし、売り上げアップにもつながっているのだ。クライアントへの提案は、付き合いが長くなればなるほど、杓子定規になりがち。ところが、全スタッフに主体的に考える習慣が身についたことで、先方への提案に関する問題意識も向上。その結果、優れた提案がなされ、顧客満足度のアップにも繋がっている。

「クライアントとの定例の月次ミーティングで毎月社長が出席する会社があるのですが、その場は即断即決。あるチームがそこに上手く提案をしていって契約に結びついた事例がありました。日々改善報告で問題意識を持つようしていることで、報告においても改善点を探る目が養われた結果といえるかもしれません。こうしたことは、当初そこまで想定していませんでしたが、すぐに社内共有し、他でも同様に展開される事例が広がりました」(野上氏)。

制度がもたらした意外な効果

着実に社員のスキルアップにも繋がっている同制度は、意外な効果も生んでいる。スタッフが全国に点在する同社では、離れて勤務するスタッフ同士の直接的なコンタクトはほとんどない。だが、この制度では、全員が対象であり、情報はすぐに共有される。従って、接点はなくとも、改善報告を通して、社員間につながりができ、全体の一体感の醸成にも間接的ながらも貢献している。

賞の数々

改善活動に関連し、数多くの受賞歴がある

この効果は「VOICE」と呼ばれる自前のコミュニケーション促進システムとも連動し、一層のコミュニケーション円滑化を促している。「VOICE」は、業務終了後に社員が当日の出来事や得られた気付き、不満などを書き留めるツールで、上司が確認するのはもちろん、その声は社長にまで届き、風通しの良い下意上達を実現している。

8000人近いスタッフに、全国に点在する拠点。情報共有はもちろん、全スタッフの意志統一、スキルアップなど至難の業だが、やりようによっては、上手くいきわたらせることも不可能ではない。同社の事例からは、そのヒントが透けてみえる。

キーとなるのは、個々の声の吸い上げだ。質を問わず、気軽な報告機会を与えることで、モチベーションの維持と主体性を養う。吸い上げるだけでなく、管理者は提案を実現したりセンター運営に参加している一体感の醸成反映することが何より重要だ。こうしたことは業務を煩雑にしがちだが、実はそれらの蓄積による業務改善へのリターンの方が大きい。そこをどう判断するかが、成否の分かれ目となる。


コンタクトを科学する

tmj-6コールセンター業務を追求する同社は、よりよいCSを目指しさまざまな取り組みを行う。例えば「話を聞いてもらえない」「話が長くなる」などの高齢者の傾向に対し、高齢者の聴こえを研究し、スクリプトなどのオペレーションを改善。心地よい電話対応を限りなく模索する。もちろん、伝わりやすい話し方なども徹底して追求する。今後ますます重要性が増す分野だけに、同社の“改善イズム”にもより力が入っている。

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