職業

日本の玄関口で働く人の最上ランクの接客術

投稿日:2015年12月14日 / by

「空港旅客係員」のやりがいとは

日本航空
田島由佳里氏 福島英峰氏

空港旅客係員(グランドスタッフ)の業務は、空港カウンターで国内外の乗客を迎えること。海外からの乗客にとって、いわば日本の玄関口が職場となる。日本の印象を大きく左右する責務を担うといっても過言ではないだろう。先ごろ都内で行われた、日本航空社員の接客スキルを競う「空港サービスのプロフェッショナルコンテスト」。そこで、見事優勝した同社空港旅客係員の田島由佳里さん、準優勝 の福島英峰さんの2人に、仕事のやりがいや目標を聞いた。

左から福島さん、植木社長、田島さん

左から福島さん、植木社長、田島さん

見とれるようなおもてなし接客でつかんだ頂点

コンテスト本選のカウンターチェックイン実技でのある場面。外国人の対応となり、緊張が高まる中、田島さんはその後ろに並ぶ乗客に気付くと、「少々お待ちいただけますか」とさりげなく声をかけた。その気遣いと視野の広さだけでも見事だったが、目の前の外国人への対応もよどみない英語でスムースにクリア。見とれるようなおもてなし溢れる接客に、審査する側の空気が一瞬で変わった。

危険物を知らずに持ち込み、保安検査場からカウンターへ誘導されたビジネスマンに対しても、田島さんは絶妙な接客をみせた。乗客の気分が高まりがちなことを察し、穏やかに丁寧に対応。やるせない乗客の気持ちをうまく受け止めながら、手際よく手続きを済ませ、最後は気持ちよく送り出した。

接客で心がけているのは心を尽くすこと

繊細さと気配りで搭乗客を気持ちよく送り出す田島さんの接客

繊細さと気配りで搭乗客を気持ちよく送り出す田島さんの接客

日本人相手や通常の流れ通りなら、接客も比較的しやすい。想定外の事態が起こったり、文化や慣習の違う外国人への対応時こそ、接客力の真価が問われる。まさにそうした難しい場面で、ごく自然に、流れるように対応した田島さんの接客は、予選を通過したハイレベルな参加者の中でも際立っていた。日本の玄関口で多様な人種を相手にしても、安心して任せられるだけの器量が備わっていた。

「私には特別な能力も才能もありません。でも、数ある中からJALを選んでくれたお客さま に心を尽くすことだけは忘れないよう頑張ってきました。どんなに頑張っても普段以上の力が出るものではありません。ですから、きょうはいつも通りやることだけを心がけました」。優勝が決まった直後のあいさつで田島さんは、目を潤ませながら、あくまで控えめに振り返った。

まさに「心を尽くす」という言葉がピタリとハマる気づかい溢れる接客。もはやテクニックを超えた次元の、人間力に優れるからこその能力といえるだろう。その一端がうかがえるのが、外国人に接するときの田島さんの心がけだ。

「私は決して英語力があるワケではありません。だからといって、外国のお客さまに対して、その国の言葉を使わないと失礼だと思っています。もしも日本語で話しかけたら、やはりいい気はしないと思います。例え完璧でなくても、英語で対等に話すことを常に意識しています」。

こうした思いは、言葉や文化の違いを超え、必ず伝わる。本人は謙遜するものの、その英語力は、出場者の中でもかなりのハイレベルだった。それは、田島さんの心を尽くそうとする思いが、言葉に宿ったということなのかもしれない。

福岡から駆け付けた仲間に祝福される田島さん

福岡から駆け付けた仲間に祝福される田島さん(左から3人目)。その左は3位の緒方さん

コンテストで見事、頂点に上り詰めた田島さん。彼女にとって、この仕事のやりがいは何なのだろうか。「今年で入社7年目になりますが、その間に会社はいろいろなことがありました。それでもJALを選んでくれるお客さまがいる。そういうお客さまとの時間がとにかく楽しいんです」と田島さん。どこまでも模範的だが、この言葉には、大きな意味が詰まっている。

2010年1月、JALは経営破たんした。田島さんの入社から1年も経たないタイミングでのショッキングな出来事だった。新人の田島さんは当然、大きな不安に覆われる。利用者も離れていった。そんな窮地でもJALを信頼し、選び続ける乗客がいる。そうした人々への感謝の思いが、田島さんの希望となり、心を尽くし続ける原動力となり、心の底からあふれ出るやりがいにつながっている。

“黒一点”をエネルギーに転換し、堂々の準優勝

準優勝に輝いた福島さんは、予選を勝ち上がったコンテスト本選出場13人中、唯一の男性。 必要以上にプレッシャーのかかるムードの中での実技となったが、臆することなく持ち味を全開。カウンターチェックインの審査では、現場の空気を明るく一変させる接客で、審査員の厳しい表情を思わず緩ませた。

独特の距離感で搭乗客と接した福島さん

独特の距離感で搭乗客と接した福島さん

ハキハキと聞き取りやすい声やトーン。機敏な動き。大きめのジェスチャー。柔和な表情…。いわゆる堅苦しさとは一線を画す、独特の接客は不安や緊張のある乗客を癒し、親近感を感じさせる。空港旅客係員の接客にお手本があるとすれば、もしかすると少しズレているのかもしれないが、それを上回る陽性エネルギーあふれる接客は、「してもらいたい」と素直に思えるような、さわやかで魅力的なものだった。

複数パターンの接客術を使いこなす器用さが武器

「普段もこんな感じの親しみやすい接客をしています。実は上品バージョンもあるのですが、そうするとお客さまと距離ができますし、気負ってしまう。ですから仲間のような親しみやすい雰囲気を今日は心がけました」と福島さん。この日の対応以外にもいくつかの接客の引き出しを持つという柔軟性もまた、空港旅客係員としての福島さんのポテンシャルの高さを示しているといえるだろう。

堂々とした振る舞いをみせる福島さん。だが、実は社歴はまだ1年半。しかも、この日は、紅一点ならぬ“黒一点”。さすがにプレッシャーもあったはずだ。「確かにプレッシャーはありました。でも、男性なら何ができるかを考えてコンテストに臨みました。自分には女性のような繊細さがあるワケではありませんから。だから、男性らしさをうまく押し出し、安心してもらえるような接客を意識しました」と福島さんは、振り返った。

全国から集結した精鋭

全国から集結した精鋭

逆境をチャンスに転換できる強かさを持つ福島さんは、模範的な空港旅客係員に収まるつもりはない。「国境を越え、世界中の人に喜びや感動を与えられる仕事がしたい。日本航空はチャレンジしている会社。だから入社しました。将来的には機内や空港において、新鮮で革新的なサービスなどを企画し、思いを実現したい」と福島さん。まさにその言葉を体現するような独特の接客は準Vにふさわしく、「革新」を期待させるものだった。

技術を超え、心を尽くすことで頂点をつかんだ田島さん。女性にないものを前面に出し、斬新ともいえる柔軟な接客で準優勝に輝いた福島さん。ある意味で対極といえる2人がコンテストで示したものは、まさにグローバル社会の中で、日本に必要とされる要素といえる。日本人の良さである「心を尽くすこと」。そして、日本人に足りないとされる「柔軟性」。日本の玄関口で、多様な国籍の乗客を迎える空港旅客係員のこれからを担う2人が頂点に君臨したことは、必然の結果だったといえるのかもしれない。


プロフィール【田島 由佳里】
福岡空港勤務。カウンター業務、ゲート業務、バックオフィスで手荷物担当業務、前日プリパレーション業務、ラウンジ業務、IP担当などを主に行う。接客は学生時代に4年間カフェのバイトで経験。また、異文化交流のボランティアでホームステイの受け入れも行う。志望動機は「空の旅が始まる空港という素敵な場所でお客さまのお役に立てる、笑顔に繋がる素晴らしい仕事だと思ったから」。


プロフィール【福島 英峰】
成田空港勤務。成田空港VIPサービスグループ所属。主な仕事内容は、ファーストクラスチェックインカウンターと、VIPのエスコートなど。入社からの1年半には、チェックインカウンター業務と搭乗口でのゲート業務などを経験。大学時代は中国へ留学。接客経験は、入社までなし。その分、入社後は、言葉遣いや所作などの接客の基本から、日本航空としての高いサービスを実現するための考え方などを学習。関連書籍も積極的に読破する。


【会社概要】
JAL企業サイト社名(商号):日本航空株式会社
名称英語表記:Japan Airlines Co., Ltd.
設立:1951年8月1日
本社所在地:東京都品川区東品川二丁目4番11号 野村不動産天王洲ビル
代表取締役社長:植木 義晴
従業員数 11,007人(2015年3月31日現在)
連結従業員数:31,534人 (2015年3月31日現在)
資本金および資本準備金:355,845百万円 *百万円未満切り捨て
事業内容 :
・定期航空運送事業及び不定期航空運送事業
・航空機使用事業
・その他附帯する又は関連する一切の事業

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