インタビュー

建てたがらない建築士 いしまるあきこ氏

投稿日:2014年6月6日 / by 瓦版編集部

ishimaru建てたがらない建築士”として活動している人がいる。古い建物を壊して新しい建物を建てることを嫌うという、建築士としては一風変わった感性の持ち主だが、彼女には建築に対しての強い想いがある。それは古き良きものを残し、後世に受け継いでいくようになってほしいという事である。今は自身の建築事務所も構え、古い建物を活用する仕事もしつつ、それ以外にもいろいろな仕事をしているいしまる氏。この章では彼女がどのようにして今のキャリアを積み上げてきたかについて、その経緯を伺った。

人とのつながりから生まれた多くの仕事

いしまる氏のキャリアは、建築設計事務所にて建築士として勤務するところから始まった。建築を学び大学院在学中に二級建築士を取得していたいしまる氏にとって、それは当然のように準備された未来であっただろう。しかし、その建築設計事務所を3年で退職し、その後個人事業主としての道を歩み始めたのは2006年のことであった。在職中に一級建築士を取得していたものの、当時は「“建てたがらない建築士”なのだから建築士事務所は必要ない」と、自身の建築士事務所を開くことはなかったという。共同設計で築120年の古民家リノベーション(=建物の改築・再生)に取り組んだあと、今までの建築関係とは全く異なる「アーティストのマネジメント」という仕事に深く関わり始める。これは予備校時代の友人から声を掛けられ始まったことで、まさに人とのつながりが生んだ仕事の一つである。
音楽家のマネジメント業務では北海道から九州まで全国30箇所のツアーのスケジュールを組み、いわゆるライブハウスやホールではない少し変わった場所、例えば、教会・神社・ビルの屋上・港・公園・駅前広場・お祭り・美術館・民家などでの音楽ライブ開催を実現した。アーティストと一緒に全国を回ったり、プロモーションを行ったりと多忙を極めていた。ツアーにでる前には、各地でライブを開催するに至った経緯や、その土地の歴史などを言葉で綴り『旅のしおり』としていしまる氏はまとめた。
この『旅のしおり』が、また一つ新たなつながりを生んだ。ラジオ番組制作会社の社長が『旅のしおり』に目を留め、いしまる氏にコンタクトを取ってきたのだ。このことがラジオ番組の制作をするきっかけになったといしまる氏は教えてくれた。建築士としてのスタートから考えれば、思いもよらないキャリアプランだが、これも人とのつながりがいろいろな仕事を生み出した結果といえよう。
今ではWebサイトの制作や、映像制作。雑誌の取材・編集や写真撮影といった仕事までをこなすようになり、いしまる氏は幅広いジャンルで活躍できる人材となっている。
いしまる氏のシゴト分布図
(いしまる氏のシゴト分布図。建築士として始めたキャリアからは想像できないぐらい幅広いジャンルの仕事に着手している。本人は「器用貧乏です」と謙虚に語っていたが、才気に富んでいなければとてもこなせる仕事ではない)

やりたいことは全部やって経験にする

いしまる氏は一体どうやって、このようなキャリアを手に入れたのであろうか。人とのつながりだけで、ここまでの仕事を任せてもらえるものだろうか。その答えはいしまる氏の持つ強い信念に隠されていた。
いしまる氏はやりたいと思ったこと、やると決めたことは必ずやってきている。そして、自分に任されたことに対しては、ジャンルを問わず全力で向き合っている。この信念を持ち続けることで、全てのことを仕事にしてきたのだ。
これは、普通に考えればなかなかできることではない。人は誰でも初めてのことに挑戦したり、慣れていないことにかかわったりするときに「失敗したらどうしよう」「できなかったらどうしよう」といった不安に駆られることがあるものだ。
しかし、そこで足踏みしているよりも、まず一歩進むことが大事であるといしまる氏は言う。やってみればできることも増えるし、できなかったとしてもそれが必ず自分の経験になっていく。いしまる氏の仕事は、コンクールに応募したり、自らの企画を持ちこむことで得てきたものもあるという。

「やりたいと思ったことは、とにかくやってみます。いろいろと理由をつけて何かをやらないのは本当にもったいないですし、取り組まないということは、その人にとって、それはあまり重要なことではないのだと思います」
いしまる氏の力強い言葉に納得させられる。

実際いしまる氏がラジオ番組を初めて制作したとき、まずは自分なりに周りのディレクターたちの原稿を参考に「こういう番組企画をやってみたい」というプランを練り、自身で原稿を書き、全体の構成を作り上げていった。それを元に音楽を選んで当て込んだり、編集したりして架空の番組づくりを体験し、経験者からアドバイスをもらうということで、大枠ではそれなりのものを完成せることが出来たという。その経験を積み重ねていくことで、自分なりの番組企画ができていった。テレビ番組の制作でも同じようなことだった。
いしまる氏は「何事もやってみなければ分からないし、誰もが最初は初心者なのだから、やりたいのだったらまずは行動してみることが大事」という。

自由を手に入れるために苦労はつきもの

様々な経験をし、やりたいことを仕事としているいしまる氏だが、若い人たちに知っておいて欲しいことが二つあるという。
一つは「一度はどこかに所属して社会経験をしてから、自分のやりたいことに突き進んで欲しい」ということだ。
最近は学生起業をしている人なども多く見受けられ、十分な社会経験をせずに仕事をしている人が増えている。しかし、一度も会社に所属しないで社会に出るということは、貴重な学びの機会を失うということでもある。つまりは社会の先輩方に、その世界で生きていくためのマナーやルールを教えてもらうきっかけを逃してしまうのだ。これは非常にもったいないことである。学びを得られるのも若いうち。若いからということで許されることも多いのだから、一度は会社というものに所属して吸収できることは吸収し、厳しい世界も経験しておいたほうがよい。
もう一つは「自由に仕事をするためには苦労も多い」ということである。
現在は自分らしい働き方を実践しているいしまる氏。「私は意外と苦労していますよ」と笑顔で語ってくれたが、彼女の人生は決して順風満帆なものではなかった。自分がやりたいことをやりぬくために、様々なアルバイト(データ入力業務、インターネットショップの管理や飲食店での皿洗い、事務職など)もしながら、日々の生活費を稼ぐこともあったという。しかし、無駄なことはひとつもなく、それらの経験が今の仕事に様々な形で役立っているという。全力で吸収しながらその仕事を楽しむことが、社会で自分らしく生きる道を見つける秘訣である。社会に交わり仕事をこなしていく中で、どうしてもやりたいことがあるならば、その時は自信を持ってやりたい道へ歩んでいけばいい。
それぞれの場所でニーズがあり、それぞれの世界で役に立つ能力がある。その人に合う場所、その人にしかできないことが必ずある。もし、自分に今の仕事が合っていないように感じたなら、自分のやりたいことを探すのもひとつの選択であろう。
人生の中で、全てにおいて正しい選択をしながら生きていくことは不可能である。しかし、信念を持って軸をぶらさず生きていくことができれば、自分らしい生き方というものはおのずと見えてくる。
いしまる氏は“譲れない信念”のために諦めることなく突き進んだ結果が今そこにあるようだ。社会で多くの困難を乗り越えてきたからこそ、今の笑顔があるのだと感じさせてくれた。その“譲れない信念”について、次の章でふれていこう。

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ishimaruakiko-logoいしまるあきこ
きっかけ屋・一級建築士
福祉環境コーディネーター2級
「いしまるあきこ一級建築士事務所」主宰
Re1920記憶」主宰
リノベ女子」代表

いしまるあきこWebサイト http://ishimaruakiko.com

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