インタビュー

理解した気にならずに、自分自身の経験を積み重ねよう

投稿日:2015年11月25日 / by

連載第8回 自遊人 岩佐十良氏

第8回の今回は、先週に引き続き㈱自遊人の岩佐十良さん。「伝える」ことにこだわるその道の“プロ”は、1億総情報発信時代をどうみているのか。
里山を創生するデザイン的思考

ネット時代のリアリティとは

ーーメディア側、つまり自遊人の岩佐さんから見て、今のネット社会はどううつるんでしょう

岩佐 ネットとか本で調べて、Google使って場所を立体的に見て、色んな人のブログやツイートを見たりすると大体の場所がどういう場所か分かってしまう。例えば里山十帖に行かなくても色んなものを駆使すれば疑似体験できる。新潟がどんな感じかとか、北海道ってどんな感じとかありとあらゆることがすぐなんとなくわかる。調べると80%くらい分かった、理解した気になることって多いと思うんだよね。

ーー確かに、ネットを頻繁に使う我々若者は特にその傾向は強いかもしれません。

岩佐 でも、僕はたとえ人に直接会ったとしてもその人の事を10%くらいしか分からない、と思う。何回も会って話していくうちに、6割7割8割って段々分かってくる。でも、今疑似体験ができることによって最初に80%分かっている気がしてしまう。気がしてしまうことは大きな問題で、人によっては98%、もはや100%分かった気になる。人に会ったり、さらに本で調べたりすれば100%わかるみたいな風潮があるけどそれは間違っていると思うんだよね。

先入観だけで「知った気」になる時代

ーー重要な問いだと思います。知った「気」になることは本当に多い。。。

岩佐 先入観が自分の価値観と将来性を全て支配するんだよね。つまり、そこで98%分かったと思ったその先入観があると最初から結論が出てしまう。自分の先入観が全て支配している人って多い。ジェネラリストな目線で世の中を見なければいけないはずなのに。自分の事をジェネラリストだと思っている人がジェネラリストではないというのが今多くて、自分の先入観のフィルターを物凄いかける時代になっているんだとぼくは思う。情報に頼ると、世の中にある情報からしか新しいものが生めなくなる。新しい事業とか社会の枠組みとか無から有を作り出すことが出来なくなっちゃう。

ーーデータや情報との付き合い方によって人は作られていく、というのは怖いですね

岩佐 主観を入れていないと思っていても主観をめちゃくちゃ入れちゃっている世の中だから。みんな自分が正しいと思っている。みんなネットや本から情報を得て色んな情報を得てきた中で、自分だけはジェネラリストだと思ってる。

ーーその原因は先程言われた「知った気になっている」というのに関連していますよね

岩佐 今、何もかも調べることが出来るようになって、検索したらすぐ出てくるようになったために、一歩ひく時間がないよね。俯瞰する時間が。俯瞰しないのが今の世の中の議論が進まない原因だろうね。そして何度も言うけど、厄介なのが自分だけは俯瞰して見ていると思っている。実際には俯瞰してなくて個人の主観でしか見れていないんだよね。昔は情報量が少なくて、自分で分析せざるをえなかった。裏側でこういうことが働いているんじゃないかとかこういう意見もあるんじゃないかとか、自分の中で考えるという訓練をせざるをえなかった。だから、みんな比較的俯瞰をしていた。今はひとつを検索をして入ってくる新しい情報量は人間の処理能力をはるかに越えているよね。膨大な情報を入れられてしまうために、情報に翻弄されていて自分の主観が情報の中に埋もれている

データを見ることで生じるバイアスという“誤差”

ーーそういう人が多いように思います

岩佐 僕はデータを見ない。これはデータを最後まで見ないわけでもなく信用しないわけでもない。なんでかというと、データは多すぎるほどある。ここでネットで情報を得たりアンケートデータを先に持っちゃう、見ちゃうと先入観と主観が固まる。自分の意見だと思っていることが自分の意見ではなくなってしまうから。だから、ぼくは見ない。で、あとで見る。自分の中である程度こうじゃないかああじゃないかという仮説をある程度作った上でみる。そうするとうまく情報を見ることができる。その仮定って大体間違ってるのよ。間違っていても自分で考えることが最も重要
温泉

感性を磨くためにやりたいことをやれ

ーー感性を磨くにはどうすれば良いでしょうか

岩佐 大学時代にやりたいことをやること。自分のやりたいことをとことんやることで、どういう評価がでるかが分かるよね。ぼくは文化祭では評価が出たけどパチンコでは評価はされなかったよね(笑)。パチンコで今日も3箱とったみたいなくだらないことでも一生懸命やってみる。みんなだめだっていうけど、ほんとにだめなのか?と。自分で体感するって大事だとおもうんだよね。パチンコの生産性が悪いのもさ、確率論的にどう考えてもこっちが儲かるわけないじゃない?でも、やってみることの方が重要なのかなって気がするよね。自分の頭脳とパチンコ台とずっと競って、「やっぱり負けるなぁ(笑)」みたいな。時間生産性でいったらちょー低いな、みたいな(笑)ばかばかしいからやめなよって言われるようなことをやってみて、「うわーほんとにばかばかしかった」って思うことって大切なんじゃないかなぁ。

ーー初めからばかばかしいからやらないという判断をしがちかもしれません…。勝手に体験したつもりになって。

岩佐 つまり、自分で体験すること、必ず自分でやること。自分の体で自分でやってみること。効率が悪いと言えば悪いのかもしれないけど、短い人生の中で遠回りをするような感覚になることもあるとおもうけど、実はそっちのほうが近道なんじゃないのかって。やってみる。しかもとことんやってみる。だからこそ、これどうだろうなぁという積み重ねがでる。これが重要だろうなぁ。例えば、色んなことをやるからこそ、色んな人の立場がわかる。だから、マーケティングがわかったりする。そういうものだろう。

尊敬する人とかあの会社のようにとかは全くない

ーー尊敬する人間像はありますか

岩佐 ぼくは尊敬する人とか憧れの人とかあの会社のようにとか全くないんだよね。自分の中にあるのは、いつも自分の人生は”ベター”でありたいと思ってるのね。自分の人生の選択肢の中で”ベター”な状態でありたいと思っていて、何かの選択肢があったときにおれの人生けっこうよかったなぁって想える選択であり自分でありたい。だから、自分は自分、ひとはひと。という感覚が常に自分の中心にある。

ーー岩佐さんの目標を聞かせてください

岩佐 目標はない。僕が二十歳の頃はこういう48歳を迎えているとは全然想像もしなかったし。20年後に何ができて何をしているかなんて全然わからない。でも、やってしまえば何かに成る可能性があると思っていて。目の前にあること、ぼくにとってはこの宿とか雑誌とかを着実にやっていくことによって次の未来が見えてくるんじゃないの?っていう。目の前にあることを確実にやっていく
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プロフェッショナルとは?

ーー最後に岩佐さんにとって、プロフェッショナルとは

岩佐 目の前にあることを徹底的にやる人。自分のベストを尽くすこと。自分のベストは世の中のベストとは限らないからベターなのかもしれないね。でもベストを尽くしていること。これがプロだろうね。


【編集後記】
岩佐さんと話した場所は、㈱自遊人が運営する、今話題の里山十帖。岩佐さんが今まで作ってきたものを見ながら、お話させていただいきました。岩佐さんと話して僕自身の中で確信したことが増えました。そして、言葉に力があり、現在も歩みをとめることなく前進を続ける姿勢、考え方、物事の捉え方、、、。全てを学びたいと思える方でした。


岩佐氏
<プロフィール> 岩佐十良(いわさ とおる) 株式会社自遊人 代表取締役

1967東京生まれ 48歳
クリエイティブディレクター
新たなインタラクティブ・メディアの枠組みをつくるべく活動している。その対象は、雑誌、食品、温泉宿など多岐にわたるが、すべてに共通するのは「伝える」ということ。
事業はあくまで「伝えるための手段」であり、「米一粒がメディア」「そこにある風景そのものがメディア」という持論を持つ。2004年に、東京にあった会社を新潟・南魚沼に移転している。


山口氏
[ライター]
氏名: 山口佳祐
所属: 中央大学法学部
「仕事とは何か?」という素朴な疑問のもと「地方で活躍する方々に会う」日本一周の旅を今年の夏に行う。人に影響を与えることを人生の目的とし、将来何をするか模索中の大学生。来年2月から3ヶ月間は世界一周の旅へ。
長崎日大高校~中央大学法学部2年
Twitter: @Naganichi54

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