企業風土

新しい働き方実践の極意

投稿日:2014年7月30日 / by

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新しい働き方をいかにして極めたのか

ChatWork(株)

山本敏行代表

新しい働き方を実践するリーディング企業、ChatWork(株)。電話なし、ノルマなし、無理な受注はしない…など、一般的な会社の姿勢とは一線を画しながら、しっかり結果を残すそのワークスタイルは、スマートで斬新だ。その極意を聞き出すべく、米・シリコンバレー在住の山本敏行代表をビデオチャットを通じ、インタビューした。2回に渡ってお届けする。

いまの仕事は半分の時間で終わらせられる

「いまの仕事は半分の時間で終わらせることができますよ」。

インタビュー最後に山本代表が放ったワーカーへのメッセージだ。この言葉になにを感じただろうか。「その通りだな」。あるいは「ムリ、ムリ」なのか…。いずれにせよ、いまより作業を効率化することは確実にできるハズである。要するに、従来の仕事のやり方には無駄が多いのだ。

ムダをムダと捉えるかは、各企業の価値観によるところが大きいだろう。連絡待ちの時間、発表ベースの会議、定時に合わせた仕事のペース配分、残業代目当てのダラダラ作業…こうしたことを“必要悪”とする考え方もある。だが、必要な悪など幻想。悪はやはり不要なのである。

チャットワーク東京オフィス

電話がないだけでデスクはこんなにスッキリ

電話、引き出しのないスッキリオフィス

同社のオフィスはスッキリ整然としている。

「引き出しがない」、「電話がない」。

この2つが最も大きな要因だ。ペーパーパレスを実現しているから書類のための引き出しが不要で、集客はWEBによるインバウンドのみのため、電話も不要というわけだ。

書類を探す時間は、年間6週間ともいわれる。営業電話にかかる時間とエネルギーは、お金に換算すれば、膨大な額になる。目には見えないが、無駄な時間とコストをごっそり削除したオフィスは、見た目以上にスッキリ感が漂う。

「電話を置かないスタイルをとっているのは、私がこういうやり方しかやってこなかったからというのが一番の理由です。リストをもとに電話をかけまくる、いわゆる営業というスタイルをこれまで経験したことがないものですから。しかし、電話がなくても何の支障もないですし、書類にしても紙だと探す手間が大変です。このスタイルが非常に合理的だと思いますよ」と山本代表は涼しい顔で言い放つ。

同社においては、社員が個人的に持つ携帯電話が緊急時の連絡手段。本当に緊急の場合のみかけるという位置づけだ。といってもそんなことは年に数回もないという。常に携帯を握りしめ頻繁に電話をしているワーカーには信じがたいだろう。社員間の一般的なやり取りは、基本チャットがメイン。隣の席も例外でない。メールはチャットを使えない大企業とのやり取りにしか使わない。もちろん、それが最も理にかなっているという判断に基づいていることは言うまでもない。

従来の働き方とは真逆のスタンス

ch14こうしたハード面の他、〈売り上げ目標を立てない〉、〈顧客に会わない〉、〈無理な受注はしない〉…など、同社のワークスタイルはそのほとんどが従来の働き方とは真逆ともいえるスタンスだ。従来の働き方へのアンチテーゼというよりも、単にこのスタイルが、会社にとって最も利益を最大化する形だからだ。

それぞれを断片的にみても、その神髄は見えづらい。だが、あるキーワードでフィルターをかけると見事にその全体像が浮き上がってくる。それが、「社員満足度」だ。実際、ある機関が主催する社員満足度ランキングで2年連続日本一に輝いている。

「社員を第一に考える理由は至ってシンプルです。社員が会社に満足すれば、会社に貢献してくれる。だから出来うる限りのことを社員にする。経営者としてはそれが務めだと思っています。社員は、それに対し、企業に貢献することで還元するのが役割だと思います。もっとも、こんなにやってあげているんだからしっかり返してくれ、と見返りを要求はしません。言わなくても自然にそうなると信じています。性善説ですね」と山本氏は明かす。

トコトン社員を大事にすることで生まれる好循環

売上げばかりを追求する経営者の会社には社員が定着しない。定着しないから、人材が育たない。育たないから業績が縮小する。縮小するからよりノルマがきつくなる。売上げ至上主義が、こうした悪循環に陥りがちだとすれば、社員第一主義では、その逆のスパイラルが生まれることになる。会社が労働環境改善に全力を尽くす。環境がいいから作業がはかどる。作業がはかどるからどんどん仕事が進む。仕事がはかどるから売り上げがどんどん上がる。売上げが上がるからさらにやる気が出る。さらに環境が良くなる。

極めてシンプルな理屈だが、実践できている企業は少ない。その点について山本氏は冷静に分析する。「やはりどうしても目先の利益を追いたくはなりますよね。会社を立ち上げた当初、実は私もそうでした。でもそんな場当たり的な姿勢では、うまくいくものも行かない。それに気づいて改心しました。いまは全く売り上げは追わないですが、不安はないです。やると決めたら信じて利益が出るまで徹底してやり抜くスタンスなので。我慢というか信念ですかね」。こう思えるか否かが、企業運営成否の分かれ目といえるだろう。

性善説で成り立つ最大限の環境整備

紙の書類はどんどんスキャン。一応、プリンターもある

紙の書類はどんどんスキャン。一応、プリンターもある

社員満足度を高めるといえば、社員に媚びているようでもあり、経営者としては、口では力強く言っても実際にはほどほどというのが、関の山だろう。いつ裏切るともわからない社員のためにコストをかけるなら、設備に金をかけ、売り上げに直接つながることに注力する方が得策と思えるからだ。同社の場合、その設備投資の「設備」を「人」とし、投資の優先対象とする。つまり、人を「人財」として最重要視しているのである。

その上で、会社の売りモノを「チャットワーク」に絞り込み、さらに売りやすく商品力を高めることに注力する。売りやすく、売るべき価値を全社員が実感し、そのための環境を最大限に整備する。「性善説」が裏切られることなく、社員が自発的に、全力を尽くすのも無理はないだろう。このシンプルで無駄のない構造こそが、同社が同社たるゆえんだ。裏を返せば、旧来の働き方の無駄や理不尽をそぎ落とした姿が、同社といえるのかもしれない。

従来の働き方を引きずり、ひたすら売り上げを追求する企業は、いまや「ブラック企業」と呼ばれる。30年前なら当たり前だったスタイルが、成熟期に入った日本においては、極悪企業のレッテルだ。社会構造が変化しているのだから当然だが、売り上げが伸びづらくなっているから、上からのムチのしなりも自ずと強くなる。そうした中で、社員第一主義を貫く同社が、快調に成長を続ける事実は、皮肉なようだが、もはや新しい働き方へのシフトが、不可避の潮流であることの証明といえるだろう。(後編:次世代管理職に必須の遠隔マネジメントの極意


【山本敏行(やまもと・としゆき)プロフィール】

HP:http://www.chatwork.com/ja/

HP:http://www.chatwork.com/ja/

ChatWork株式会社 代表取締役
留学先のロサンゼルスにてビジネスをスタートさせる。帰国後の2004年、法人化するものの、儲け重視の体質が災いし次々に主力メンバーが離脱、我流の経営スタイルに限界を感じる。そこで、経営を学ぶべく1000人の先輩経営者に会いに行き、「経営の本質は社員満足にある」と気づき、労働環境を良くするためにITを経営に徹底活用。現在、事業拡張のためシリコンバレーを拠点に、大阪本社、東京支社、東アジアを行き来する日々を送る。著書に『自分がいなくてもうまくいく仕組み』(クロスメディアパブリッシング)がある。


◆チャットワーク

クラウド型のビジネスチャットツール。メールやスカイプの使いにくい部分を解決し、より業務を効率化し、ビジネスを加速する。その特長は、グループチャットによる情報共有、タスク管理、ファイル共有、遠隔会議の4つ。クラウドを活用することで、既存のコミュニケーションツールの弱点を補完しつつ、いいとこどりをしたような機能が揃い、新しい働き方を推進するツールとしても注目されている。

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