タイムレコーダー登場の背景とは

これまで「勤怠管理の歴史」について、江戸時代における三井越後屋の例を紹介してきた。これはあくまでも、三井越後屋という巨大店舗において先進的に行われていた勤怠管理の方法であり、その後様々な企業へと広がりを見せていったと思われる。

そして時代は進み、日本には工場が増え、勤怠管理はとても手作業では追いつかない時代がやってくる。企業の平均的な社員数が一気に増加したうえ、シフトもさらに多様化したためだ。ここでは、日本産業の近代化に大きく貢献した「富岡製糸場」の例を取り上げ、タイムレコーダーが必要な時代がやってきた背景を探る。

富岡製糸場での働き方

日本初の官営工場である富岡製糸場(1872年開業)の場合、昼休みや休憩時間はきっちりと時間が決められていた。これは今では当たり前のことだが、当時は仕事と言えば農作業に従事する人が多く、富岡製糸場のように西欧式の労働システムが取り入れられた環境は、まさしく最先端の働き方であった。

富岡製糸場は、日本産業の近代化のために、明治政府が設置した「模範器械製糸場」だった。製品の品質においても、労働環境においても、その後新たな時代における見本としての工場を作り上げる、という目的のもとに運営されていたのだ。

富岡製糸場誕生のいきさつ

当時、日本政府は産業の近代化を急いでいた。鎖国が終焉し、外国との貿易が盛んになる中で、他国と対等な立場で取引ができるようにと考えたのだ。そのための資金集めとして、日本政府は「生糸」に目を付けた。

しかし、日本国内では生糸の品質が海外のものに追いついておらず、いわゆる粗悪なものが市場に出回っていた。これを改善し、品質を世界トップレベルにもっていくために、日本政府は、最新の機械を導入した近代的な工場として富岡製糸場を作り上げたのだ。

富岡製糸場は労働者を無理やり集めた?

富岡製糸場では、「工女」と呼ばれる女性が働いていた。工女になった女性には士族の娘が多く、日本各地に人数を割り当ててノルマのようにして集めていた。

このような集め方をしたのには理由がある。普通に募集をしても、工女を希望する女性が集まらなかったのだ。それは一説には、外国人技術者が赤ワインを飲む様子を見て「富岡製糸場に行くと生き血をすすられる」という噂が広まったためだと言われている。

しかし、冒頭で紹介したように富岡製糸場の労働環境は当時最先端であった。労働環境を指して「ブラック」、「ホワイト」という例え方があり、富岡製糸場は「ブラックだった」と指摘されることもあるが、少なくとも官営工場であった当初は国内のどこよりも労働環境が整っていたと言える。

労働状況は現代と変わらない?

富岡製糸場は、西欧式の労働システムを取り入れた。まず、勤務時間は1日8時間程度だったようだ。長期休暇は夏と冬の年に2回、各10日間ほどあり、日曜祭日は休日とされていた。いかがだろうか、とても140年以上も前の働き方には思えないのではないだろうか。

他にも「一等工女」、「二等工女」などの階級が存在し、給料はそれに応じて支払われるという、能力主義だった。富岡製糸場で採用された労働システムは、その後日本国内で広まり、産業の近代化に大きく貢献したと言われている。

タイムレコーダーの登場

そして、この時代には産業の近代化を支えたツールが誕生した。それは、タイムレコーダーだ。タイムレコーダーの誕生は、産業にも、企業にも、労働者にも大きなメリットをもたらした。現代でもこれを取り入れている企業は多いことからも、その発明の偉大さが分かるだろう。

タイムレコーダーの登場は必然だった

まずは、タイムレコーダーが登場した経緯から紹介しよう。タイムレコーダーは1871年にアメリカで開発されたと言われている。開発者は、ジョン・C・ウイルソン。時代が進むほど複雑化していく労働環境に、人力では対応しきれなくなったことで、給与計算に少しでも役立てばと開発された。

この時代、アメリカを含め、イギリス、ドイツ、フランスなど世界各国では工業が急速に発展していた。とくにアメリカは、土地が広大であること、天然資源が豊富であること、他にも様々な要因が武器となり世界でも有数の工業国に成長していった。1869年には、アメリカの中西部と西海岸を結ぶ大陸横断鉄道がつながっており、アメリカの工業化の推進に大きな役割を果たしていた。

このようにして世界の産業が大きな移り変わりを見せる中、工業が発達したことで、それまで農村で働いていた人が都市に流入し、工場労働者となっていった。そして、企業は急激に増え続ける労働者の管理と、各労働者のシフトに合わせた給与管理をする必要に迫られたのだ。そして登場したのが、タイムレコーダーだった。

この章では、タイムレコーダーが必要となった背景を紹介した。次章では、日本でタイムレコーダーが生まれた経緯やその背景を紹介する。

勤怠管理の歴史

江戸時代から存在した勤怠管理の方法とは
江戸時代に三井越後屋が築いた勤怠管理の方法
江戸時代における勤怠管理に使われていた「改勤帳」とは
・タイムレコーダー登場の背景とは
タイムレコーダー進化の過程とは
現在も進化し続けるタイムレコーダー

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