働き方

【瓦版書評】ビッグの終焉(ニコメレ:東洋経済新報社)

投稿日:2014年3月17日 / by

end-of-bigいままでよりも、距離が縮まっている気がする。政治、メディア、アイドル、商売…。これまでは、別世界と思い、ほぼ自動的に敬遠していた“場所”が、身近に感じられる。もちろん、相変わらずその敷居は高いが、少なくとも手が届かないという感覚は薄まっている。

大きな理由は、インターネットの浸透だ。選挙にネット活用が解禁され、SNSを使うことで個人でも情報発信が容易になり、ユーチューブを使ってアイドルになれる道もある。ECショップのオーナになるのは無料だ。従来は巨大な力が必要だった行動が、インターネットによって、いとも簡単に、しかも低コストでできるようになったのだ。

もっとも、これらは、「別世界」を身近にしたわずかな条件でしかない。引き金を引いた最大の要因は、これまで善だと信じられていた巨大な組織や機関が、都合よく情報をコントロールしていたことが、満天下に示されたことにある。薄々は分かっていたことが、明白になったことで、個々人が、十分に備わったデジタル環境をここぞとばかりに使いこなし、信じうる情報発信を自ら担うようになったのだ。

情報を知りうる個人の善意が、本来は隠蔽したかった情報までを流し始めると、その循環はもう止まらない。正義の情報はどんどん拡散し、末端からの大きなうねりとなり、社会を動かすことも珍しくなくなった。ネットがもたらした真の民主主義の到来といっても大げさではないだろう。

本書では、こうした個個人のつながりによって、巨大な組織が終焉することを大きなテーマとしている。政府やメディアなどの終焉を取り上げる中で、「会社」もその対象としてピックアップされている。誰もが簡単にネットで事業をスタートできることを発端に、組織としての会社の従来の在り方の“終焉”に触れている。

かつての理想の会社を巨大な市場に、より集約的に、より効率的に、より多くの生産物を、より早く届けることだと定義すれば、それはもはや終焉している。これからは、より少量でより多品種で、より多くの生産者によって、百人百様の製品を供給することが標準的になる。つまり、個を中心とした、マイクロな製造スタイルへの転換だ。

“終焉”という言葉にはセンセーショナルな響きが宿るが、本書は決して巨大なものを否定しているわけではない。個が主体となることへの無秩序という危機にもケアしながら、ビッグゆえのよさもしっかりと残しながら、最善のカタチを目指すことの大切さも説いている。いま社会は確実に何かが変わろうとしている。こうした変化を適正に感じるセンスを磨く上で、本書はちょうどいい参考書といえる。

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