インタビュー

大学を中退して“北極男”になったワケ

投稿日:2014年8月1日 / by 瓦版編集部

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大学中退アルバイト→北極冒険家

〈インタビュー前編〉

北極冒険家

荻田泰永

北極男・荻田泰永(36)。大学を中退し、人生のモヤモヤを晴らすべく乗り込んだ最初の場所が北極という特異な男は、以来、ほぼ毎年北極を訪れている。無目的な毎日が嫌で、いてもたってもいられず起こした大胆な行動。自堕落と決別し、一転して北極で生死をかける「冒険家」へ転身した元「大学中退アルバイト」。その落差の激しい生き様は、敷かれたレールの上を走り続ける“ザ・サラリーマン”とはあまりに対照的だ。

無目的な大学時代にモヤモヤが膨張

大学に通って3年が過ぎようとしていた時、荻田の中のモヤモヤは爆発寸前にまで膨らんでいた。何となく入った大学で友達と群れることもなく、バイトに明け暮れる毎日。そこには何の目的もない。「こんなのでいいのか」という思いと、「自分にはできることがある」という根拠のない自信が、毎日火花を散らすほどバシバシと頭の中で交錯していた。

「高校までは義務教育みたいなものだから、特に意識はしませんでしたが、大学は高い学費を払っているし、さすがに社会に近づいている。目的もなく、時間とお金もムダだなという思いが募り、これでいいのか? とモヤモヤしていました。そんなある時たまたまテレビに大場さん(満郎:冒険家)が出ていた。南極や北極を冒険しているということでしたが、そんなことじゃなく一生懸命生きている姿に何か突き動かされたんです」と荻田は、当時を振り返る。

大学を中退し、明確な目的を探し北極へ

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無目的な毎日へのモヤモヤが大学時代に爆発したという荻田氏

パンパンに膨らんでいたモヤモヤの風船はその瞬間弾け、荻田は大学を中退。思いを筆に込め、大場氏に手紙を書き、翌年3月には北極へ向かっていた。荻田の体を動かしたのは、ただただ、「何かを変えたい」という思いだけだ。トップクラスの冒険家に帯同しての北極体験。初の海外旅行がいきなり過酷な地となったが、明確な目的にために時間を刻む毎日は、無駄に時間を過ごしたキャンパスとはまさに天と地の差。本当に充実し、心地がよかった。ところが、帰国した荻田は、すぐに違和感を覚える。

「日本に帰ってまた、バイトをする日常に戻るわけです。やっぱり無目的な毎日が繰り返される。何も変わっていない…。まぁ当たり前ですよね。そこで再び目的をつくったんです。今度は誰かについていくんじゃなく、1人で北極を歩くぞ、と。すると一気に毎日が充実し始めました。バイトしながら、どうやって北極を攻略するのかに頭を巡らせる。目的があることで働くことにもハリが出るんですね」。

一度きりのハズが、気が付けば14年

翌年、目的通り、北極へ向かった荻田。だが、結局、歩くことはなかった。自分なりに準備し、装備もしていったが、無理と判断した。「実は歩けないことは大体わかっていたんです。でも、無目的な毎日を送っていても仕方がないし、とにかく行動しないと何も始まらない。だから現地へ足を運びました。確認ですね。そこで他国の冒険家などと話す機会もあり、いろいろと勉強になりました」と荻田はいう。

ダメと分かっていながら、バイト代のほとんどをつぎ込んでの現地視察。この行動力こそが、荻田を荻田たらしめるメンタリティといえる。常人ならそもそも行こうと思わない。ダメと分かっていればなおさらだ。そこで躊躇しないからこそ、荻田は道を切りひらき、前進する。翌年からは、単独で北極を歩き続け、今年で14年目。13度になる。

「好きとかのめり込んでいるとかではないんです。ただ、いろんなところにチャレンジするより一つのところを極める方が好きではありますね。ひとつひとつ薄くなるのが嫌なんです。ただ、自分で決断して行っていながら、毎回嫌ですよ。でも行っちゃう。行かなきゃいけないんです。いまさら会社員になる気もないですし、なれないでしょうし。いまは無補給単独歩行という2度失敗している大きな目標がある。それに対して『次はできる』という自信もありますしね」。

目標は日本人初の北極点無補給単独歩行

北極無補給単独歩行の偉業達成に自信をみせる荻田氏

北極無補給単独歩行の偉業達成に自信をみせる荻田氏

荻田がチャレンジを続ける北極点無補給単独歩行は、世界では2人ともいわれ、日本人では誰も達成したことのない偉業だ。海の上にある北極は、気候の影響をもろに受ける。どんなに完璧な準備や装備をしていても自然の猛威の前に断念せざる得ないこともある。肉体はもちろん、精神的にも過酷な上に、運も大きな要素となる。無補給単独徒歩は、極めて困難な冒険なのだ。

「世界でもトップクラスの難しい冒険を達成できる位置にいるということは、すごいチャンスだと思っています。来年2015年は何とか達成したい。その自信はある。なぜなら、それだけの経験を積んできたからです。それを達成したら今度は北極じゃなくまた新たな目標にチャレンジしたいですしね」と荻田は、3度目の正直での偉業達成に自信をみせる。

目的がないことに猛烈な違和感と危機感を感じたことが、北極男誕生のトリガーとなった。もちろん、目的は達成されればなくなる。だが、目的は設定すれば、達成がある。達成すれば新たな目的が目の前に見えてくる。他力で北極にいくと次は自力で。自力でいければより困難なルートで。自力で自信がつけば偉業へチャレンジ。偉業を達成すれば、次なる偉業へ目を向ける。無目的な毎日も、一度明確な目的さえ設定してしまえば、着実に何かが変わり、動き始める。

北極冒険家と会社員の違い

ogita03「『北極に行き続けてすごいですね』といわれますけど、実際誰にでもできることです。ただ誰もやらないだけ。ある意味では北極冒険家もサラリーマンも同じだと私は思っています。サラリーマンが働く目的が家族のためだとして、必死に働いて生活費を稼ぐのもすごいと思います。ただ問題は、そこに主体性があるか。家族のために仕方なくなのか、家族のために自分がかっこよくあるために全力で頑張るのか。ちょっとした考え方で、つまらない会社員生活になるか否かは大きく変わると思います」と荻田氏。

会社員が一念発起して冒険家になるのは現実的とはいえないが、それとて気持ち次第。もしも、働からされる毎日に嫌気がさして、「辞めたい」、「辞めよう」と思っているなら、全てを「自分のため」とマインドチェンジしてみてはどうだろう。辞めるのはそれからでも遅くはない。隣の村まで500キロというマイナス30度が当たり前の氷の世界をたった一人で50日近く歩き続ける男がいると思えば、そんなことで躊躇することが馬鹿らしくなるのではないだろうか…。

インタビュー後編:会社員が夢中で仕事をするために必要なこと


◆荻田泰永(おぎたやすなが)プロフィール
北極冒険家。1977年 神奈川県愛川町生まれ。北海道鷹栖町在住。北極圏に住むイヌイットとの交流も多い。近年著しい北極海の劇的な環境の変化、温暖化の実態も見てきてお り、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)や、大学研究室との共同での環境調査活動も実施。北極の温暖化、海氷減少を科学的な理論だけでなく、体験を通して語る事の出来る数少ない日本人。2000年の大場氏との冒険行から2014年までに13度北極へ渡航。北極点無補給単独徒歩には、2012年と2014年の2度挑戦している。著書は『 北極男 』(講談社から)。

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