インタビュー

会社員の傍ら出版活動する20代の若者が見たもの

投稿日:2014年1月23日 / by 瓦版編集部

リトルプレス『WORLD YOUTH PRODUCTS』川口瞬氏 インタビュー

会社員の傍らでリトルプレス出版で“自分探し”する川口氏働きながら働くことを考える――。簡単なことのようで、実はほとんどのワーカーができていないことではないだろうか。社会人一年目から、仲間2人とリトルプレス(自費出版)をスタートした会社員の川口瞬氏。その目的は、出版を通じ“理想の働き方”を追求するためだ。「オフタイムエディター」として、休日限定で編集作業に没頭する生活をはじめて3年。働きながら働くことを考える出版活動から見えてきたものとはなんなのか…。編集長を務める川口氏に聞いた。


会社員という安定を確保しながら自費出版も行う理由

会社員として週5日働き、休日はリトルプレスの「WORLD YOUTH PRODUCTS(WYP、ワイプ)」の編集や取材作業に没頭する。この3年の川口氏の日常だ。編集を「趣味」と捉えれば、その日常は、「編集」が映画鑑賞やランニングなどと取って代わっているだけといえるが、川口氏にとってその意味合いは大きく異なる。

「就職活動では、できるだけ働きやすいことを重視して企業選びをしました。残業もそれほどなく、休みもしっかり取れる会社ですね。入った会社は思惑通りで何の不満もない。でも、心のどこかで日々のルーティーンに不安を感じる…。だからといって、仕事をしているとその原因を考える時間もない。そこで、出版を通じ、働きながら働くことや将来のことを考えようと思い、WYPをスタートしました」と川口氏は、リトルプレスをはじめた経緯を説明する。

若者が就職難にあえぐ中で、川口氏の就活は満点に近い形で終えたといえる。それでも漠然とした不安がある。その理由はなんなのか…。探りたくても、会社員としての日常の中ではそうした時間はとれない。そこで、川口氏はオフタイムに出版活動を通じ、“働きながら働くことを考えよう”と思い立った。理由は2つ。(1)学生時代に少しだけ編集をかじった経験がある。(2)出版することで、同じような人たちに向け情報を発信できる。

第1号発刊に要した歳月は2年

第1号では、インドを舞台に「WYP」の制作に取り掛かった。学生時代のコネクションやFacebookなどのネットワークを活用し、取材先をフィックス。限られたスケジュールの中で、濃密な日程を組み、ビジネスマンなどにインタビューを敢行。いま最も勢いのあるエリアのひとつ、インドの大手財閥エリートや農村の若者などにアプローチし、日本の会社員の目からインドのワーカーを捉え、読みごたえある一冊に仕上げた。

会社員としての安定を確保しながらリトルプレスにも情熱を注ぐ理由を話す川口氏

会社員としての安定を確保しながらリトルプレスにも情熱を注ぐ理由を話す川口氏

もっとも、編集作業を行うのは、会社員としての本業の合間の時間。編集についても、学生時代に少しかじった程度の実質素人。結局、半年で完成の予定が、気が付けば出来上がるまでに2年近くもの歳月を要していた。電子出版という選択肢もある中で「皆がネットへ目を向けていているのであえて紙を選択しました」とのこだわりが、労を増やしてしまった。

紙の出版物としたことで、販路も開拓せねばならなかった。書店を一軒一軒周り、本の趣旨を丁寧に説明して歩いた。何の後ろ盾もないWYP編集部隊にとっては、最初から大きなハンデがあった。だが、全くの無名集団に対して、書店の反応は意外によく、地道な営業活動によって、設置店舗は着実に開拓できた。

「モヤモヤを晴らすためのアクションとしてなんとなく出版、という感じで始めたのですが、取材し、編集し、そして書店を周り、販路開拓などの一連の作業を通じ、なにか大きな手ごたえを感じました。社会人になりたての何の後ろ盾もない我々でも、しっかりと誠意をもってやれば、ちゃんと相手も対応してくれる。それが体感として分かり、すごく自信が付きましたね」と川口氏は述懐する。

2冊目の出版で得た“大きな収穫”

一冊を完成させるのに約2年も要する苦難の船出となったが、川口氏らはすぐに第2号の出版に取り掛かる。自信がついたことがひとつ。それまでにできたコネクションから、渋谷の公開スペースを作業場として貸与できる幸運も背中を押した。WYP第2号の舞台は日本。取材ターゲットは、若者ワーカーでまだ有名ではない人。編集作業を公開するという実験的な試みとなったこの号の編集作業では、川口氏はさらに大きな気づきを得ることになる。

「第2号は、自分たちが一緒に働いてみたい人を中心に取材対象にしました。そうしたこともあり、取材を通じ、同じくらいの年代の人が、好きなことに打ち込んでいる姿をまじかに見ることできました。そこには何の不安もなく働く同世代の姿がありました。外から見れば不安定と思われるような仕事についていてもです。その時、自分の中でハッキリと一つの答えが見えました。モヤモヤしていたものが、スカッと晴れましたね」と川口氏は、その時を振り返る。

WYP編集長川口瞬氏

完成までに2年の歳月を費やした第1号を持つ川口氏

延べ3年で2冊の本を出版。1冊目では編集の楽しさを実感した。2冊目では、好きなことに全力を費やすことのすばらしさに気付いた。

正社員として、安定した毎日を送る傍ら、限られた時間の中で行う編集作業。苦労は絶えないが、全くそうは感じない。とにかく楽しい。やりがいがある。2つの活動を比べると、その充実度がまるで違う。どちらがいいではない。ただ、やっていることに対する手ごたえや満足感がまるで違う。

週末エディター実行で晴れたモヤモヤ

「会社に勤めて不満もなく、安定もしているはずなのになぜか落ち着かない。それが、休日に出版活動に取り組みはじめたことで、なくなりました。理由は、“どんな状況になっても何とかなるんじゃないか”、ってことを確信できたからです。いまはもう何の不安もありません」と川口氏は目を輝かす。出版活動という形で、〈働きながら働くことを考える〉、というある意味でミニマムな社会実験に取り組んだ川口氏。その結果、見事にモヤモヤが晴れた。

「3年で辞める若者」というフレーズがすっかり定着した感がある日本。川口氏は、ほぼその世代にあたる。「学生時代からの延長で同じことをしていたとしたら同じような結果にたどり着いていたか分からないですね。会社に就職し、社会人としてのノウハウもあったから、会社員であることのありがたみや意味も見えてきたし、会社員の目として取材対象をみることができた。だから、今の自分の位置づけというものもハッキリと見極めることができたと思います」と川口氏。

就職からの3年間は辞めてしまう人が多い、若者にとっての“魔の期間”。それは、未熟な若者が社会に適応するための、もがくべき3年といったほうがいいのかもしれない。だからこそ、どうもがき、どう過ごすかによってはじめて、その先が見えてくる。単に考えるのではなく、出版活動というもうひとつの「仕事」を通じ、モヤモヤと向き合った川口氏。その選択は間違っていなかった。これからも“オフタイムエディター”として、同じような悩みやモヤモヤを抱えるワーカーに向け「働く」を発信していくというが、一皮むけた媒体にはこれまで以上に説得力が宿り、多くの読者を共感させることになりそうだ。


WYP現物WORLD YOUTH PRODUCTS

“働きながら考える”ことを目的としたリトルプレス。普段はサラリーマンとして働く社会人3、4年目の若者3人が週末を利用して作成。2013年2月にインドを取材した創刊号を0号として発刊。2014年1月26日には、2冊目となる本「 働きながら日本を探る」をVol.0.5として発売する。URL:http://wypweb.net/


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