働き方

働く喜びを実感するための一番大切な“最低条件”

投稿日:2015年4月23日 / by

23歳で子宮頸がんの宣告受け、失ったもの

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NPO法人 日本がん・生殖医療研究会
患者ネットワーク担当

阿南里恵氏

日々懸命に働き、成長を感じながら会社に、そして社会に貢献する――。報酬はもちろんだが、ビジネスパーソンにとっての働く喜びはまさにそうしたところにある。ただし、それを実感するには、最低限の条件がある。「健康であること」だ。阿南里恵氏は、23歳で子宮頸がんの宣告を受ける。社会の中にようやく自分の居場所を見つけた矢先の出来事だった。

仕事で居場所が見つかった矢先に発覚した病魔

なぜこんな時に…。阿南氏にとって、がん発覚はあまりにも非情なタイミングだった。高校卒業後、自動車整備の専門学校に入学。卒業後、「奇跡的に」大手自動車メーカーに就職するもわずか1年半で退職。悶々とした思いの中で、ベンチャー企業の営業職に転職し、“超黒字社員”として活躍。やっと見つけた自分の居場所で輝き始めた矢先だった。

実は、その数か月前には検診を受診。異常は見つからなかった。それだけに自分の身に突如降りかかった事実を受け入れられるわけもなく、受け入れたくもなかった。「せっかく入った大手企業を辞め、その後転職でつかんだ自分の居場所。周囲はがん発覚後、『絶対大丈夫』と言ってくれたが、その時は何を根拠に言ってるの? と腹立たしかったですね」と初めて死を意識した当時を阿南氏は振り返る。

安定が保証された大企業を経て、自分の頑張りがそのまま会社の業績に直結するベンチャー企業に自分の居場所を見つけ、水を得た魚のようにバリバリ働いた阿南氏。普通ならここから、日々がどんどん濃密になり、社会人として飛躍のステップを駆け上げる重要かつ最高の時期。やり直せるものではないが、もしも出来たとしても、もうこの最上の期間は2度と戻ってこない。神様のいたずらというにはあまりに理不尽なタイミングだった、

「若い人ががんになった場合、その後に受ける影響はあまりに大きい。体はもちろんですが、お金、そして仕事…。これからキャリアを積み上げていくタイミングに病気になるのと、ある程度キャリアを築いてから、という状況でもその影響は全然違うと思います」と阿南氏は、しみじみ振り返る。

若い人でも決して低くはないリスク

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若くても罹患リスクは低くないと警鐘を鳴らす近藤氏

阿南氏を襲った子宮頸がんは、多くの女性が「若い女性で子宮頸がんが増えている」ことは知っているものの、子宮頸がんとその治療がもたらす具体的な身体的・精神的負担については、ほとんど知られていない※1。それでも、約76人に1人が罹患するリスクがあるというデータもある※2。「76人に1人というのはかなり高い数字。少なくとも通勤電車の1車両に1人はいる計算です。最近では20歳から40歳の罹患率が高まり、死亡率も上がっています。若いから大丈夫、というがんでは決してありません」とNTT東日本 関東病院 産婦人科 医長の近藤一成先生は警鐘を鳴らす。

最新データでは、20年前と比べ、20代から30代の発症率が倍以上増えている※3。将来の妊娠・出産にもかかわることだけに、特に若い世代ほど注意する必要のある疾患といえる。女性活躍が叫ばれるなど、今後は社会で活躍する女性の増加が確実なだけに、企業にとっても他人事では済まされない状況だ。積極的に対策に取り組む必要がある。もっとも、希望はある。子宮頸がんには、早期発見と予防する方法があるのだ。

早期発見・予防が可能という希望

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啓蒙活動に奔走する阿南氏

「『命があってよかったですね』と言われます。でも、生きてはいても、これまでものすごくしんどかった。他の人にこんな思いはして欲しくない。周りが普通にできることが私にはできなくて、それが恨めしくて、人生のあらゆることに支障をきたすんです。5年の経過観察を終えてから、すぐに啓発セミナーなどで講演活動を始めましたが、それは一人でも多くの人に、がんになる前に早期発見、予防をしてほしいからです」と阿南氏は強く訴える。

現在、NPO法人日本がん・生殖医療研究会患者ネットワーク担当、厚労省のがん対策推進協議会委員などで啓発活動を行う傍ら、会社員としての再起の道も模索する阿南氏。心身どん底の状況から、ようやくしっかりと前を見据えることができるまでには10年もの歳月を要した。社会人としての最も大事な時期を失った阿南氏の魂のメッセージを、他人事としてはいけない。「自分は大丈夫」。社会人としての活躍を胸に描くなら、それは過信でしかない。本気で活躍する気があるなら、まずは自身の体としっかり向き合うことが、最低にして最大の条件だ。


※1: MSDニュースリリース 2014年8月29日 「子宮頸がんに関する認知調査を実施 13~50歳女性の60~85%が子宮頸がんの実態を理解せず」
※2: 国立がん研究センターがん情報サービス
※3: 国立がん研究センターがん対策情報センター 地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(1975年~2010年)
「子宮頸がん “私の問題”」特設サイト: http://www.shikyukeigan.jp/

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