
業界の常識は誰が決めるのか…
変人・安田の境目コラム
商品の進化が全く伝わらなかった理由
私が商品というものに気づかされたきっかけ。それは、ある友人のひと言でした。4年ぶりに私の会社を訪れた彼は、私にこう言いました。「商品が変わっていないことに驚いた」と。
「商品が変わっていない?」。私にはその意味が、すぐには理解できませんでした。なぜなら私は、サービス内容や、商品名など、細かい変更を繰り返していたからです。いやいや、かなり変わったよ。と、私は思わず心の中でつぶやきました。でも、同時に考えてしまったのです。「なぜ彼は、そんなことを言うのだろうか…」。
私から見たら、商品は進化している。毎年のように工夫し、パンフレットも刷り直している。でも、彼から見たら商品は同じ。同じ商品を、工夫もせずに、4年間売り続けている…。
今の私なら、彼の言っていることが理解できます。でも、当時の私には見えていなかったのです。それは私が、現状に慣れ過ぎていたから。業界の常識に、囚われてしまっていたから。
今、この業界(採用業界)の中で、やるべき取り組み、やれる可能性のある取り組みは、全てやっている。これ以上、何が出来るというのか。それが当時の私の心情でした。
中にいる人間の論理とその外側の間にある大きなギャップ
でも、それは単に中にいる人間の論理。外側から見れば、変化する余地など無限にあるのです。小さな学校のルールに縛られている子供達と同じ。外に出てしまえば、世界は無限に広がっているのです。
友人のセリフは、言わば素人発想でした。この業界のことを知らないから、業界を取り巻く環境を知らないから、気楽に口に出来るセリフ。でも、素人だからこそそこには真理があるのです。何を売るのか。誰に売るのか。どうやって売るのか。私が考えていたのは、既存の枠の中での工夫。でも、そんな枠は、実際には存在していないのです。
採用をします。予算があります、という企業の人事部に提案を持っていく。何も間違ってはいません。でも、何も創り出してもいないのです。
私は創業社長でした。何屋さんを始めるか、決めたのは私自身です。でも、いつの間にか自分が決めた仕事に、自分自身が縛られていたのです。
創業社長に限った話ではありません。二代目社長だろうと、会社員だろうと、仕事は選べるし、自分でつくり出すことも出来る。その事実を、いつの間にか忘れてしまうのです。
本屋だから、喫茶店だから、採用業者だから。それは法律でもなく、自然界のルールでもなく、自分が勝手につくりだした枠組み。人はいつの間にか、その枠組みに縛られてしまう。決して忘れてはならない大切なこと。それは私たちが、100%自由であるということ。
<プロフィール>安田佳生(ヤスダヨシオ)
1965年、大阪府生まれ。高校卒業後渡米し、オレゴン州立大学で生物学を専攻。帰国後リクルート社を経て、1990年ワイキューブを設立。著書多数。2006年に刊行した『千円札は拾うな。』は33万部超のベストセラー。新卒採用コンサルティングなどの人材採用関連を主軸に中小企業向けの経営支援事業を手がけたY-CUBE(ワイキューブ) は2007年に売上高約46億円を計上。しかし、2011年3月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。その後、個人で活動を続けながら、2015年、中小企業に特化したブランディング会社「BFI」を立ち上げる。経営方針は、採用しない・育成しない・管理しない。最新刊「自分を磨く働き方」では、氏が辿り着いた一つの答えとして従来の働き方と180度違う働き方を提唱している。同氏と差しで向き合い、こだわりの店で食事をし、こだわりのバーで酒を飲み、こだわりに経営について相談に乗ってもらえる「こだわりの相談ツアー」は随時募集中(http://brand-farmers.jp/blog/kodawari_tour/)。