企業風土

昼寝を許す会社の本当の狙い

投稿日:2013年4月25日 / by

企業体質の抜本改革で生まれ変わった“偉大なる”企業

LOHASエントランス

株式会社OKUTA

会社員には、社会人としてのルールと会社独自の決まりごとを守る義務がある。とはいえ、まじめに考え過ぎると規制にがんじがらめになり、結果的に生産性の低下にもつながりかねない。職務中のおしゃべりや居眠り、飲酒、業務に無関係のWEBサイト閲覧…など、就業規則に明記はされていなくても常識的にダメなこともある。増改築リフォームなどを手掛ける(株)OKUTAではなんと、昼寝を容認している。その結果、どんなことが起こっているのか…。

眠くなったら眠ってOK

zzzz…。机上に突っ伏して、気持ちよさそうに熟睡。しかも枕まで使う大胆ぶり。前日夜更かしでもしたのか、疲労がたまっているのか。誰の目にも「ヤバい」状況。だが、誰ひとり、注意しようとしない。あまりの堂々っぷりに上司も同僚も諦めモード?。それとも会社の管理機能が麻痺でもしているのか…。

昼寝してOK

心配は無用。実は、同社では、2012年の春から就業中の昼寝を容認している。眠くなれば、寝てOK。自然の摂理にあわせ、気兼ねなく作業机を“寝床”にしてもいい。業務中だけでなく、年に数回行われる、社員が一堂に会する営業会議や全社員会議でも、休憩時に昼寝タイムが挟まれるほどで、同社では全社員が「パワーナップ」として有効に活用している。

なぜ昼寝を容認するのか

「弊社のミッション・ステートメントの最上位には、持続可能な経営を行い地球環境の原則を尊重する、とあります。持続可能な経営には健康管理も大きな要素を占めています。眠くなったら寝るのは自然の摂理。仕事中でも例外ではありません。よく心配して質問されますが、これまでに全く問題はありません。むしろ、眠いのをガマンして仕事をすると体に良くないですし、なにより結果的に生産性が落ちるのではないでしょうか」と同社総務部広報課の玉井多映子氏の回答は、実に明快だ。

実際、米国では作業効率を上げる睡眠法「パワーナップ」(power-nap)としてその効果が実証されている。米コーネル大学の社会心理学者、ジェームス・マースが提唱する。氏によれば、15〜20分の仮眠を取ると、その後の作業効率が上がるという。心臓疾患のリスクを低減するという報告もある。同社では、そうした研究報告も踏まえつつ、建設現場の職人が、昼食後に少し昼寝をして、午後の作業への集中力や安全性を高めていることなどをヒントに導入を決定した。

昼寝容認の裏に隠された意味

講堂でぐっすり眠る社員たち

全社会議でも休憩時間は昼寝タイム

昼寝の容認、とういうことで、どうしてもユニークさばかりに注目が集まりがちだが、実は、この昼寝容認制度にはもっと深い意味もある。「昼寝については、特にルールはなく、完全自己責任性です。時間は大体20分ですが、明確ではないですし、タイミングはいつでもOK。申請も不要。最低限のルールは、各自が納期通りキチンと業務を進めることだけ。当たり前のことですね。基本、ルールは緩やかに、締めるところは締める。そうすることで、各人が自分で様々なことを管理できる社員の育成につながる。そんな狙いも実は昼寝容認には含まれています」(玉井氏)。

自立を促すことで生産性を向上

社会人とは自立した人間であるハズ。ところが、会社は枠をはみ出されることを嫌い、ルールを強化する。社員もそうした規制の中で、次第に雇ってもらっているという受け身の意識が大きなウェイトを占めるようになる。自立心でなく、依存心へのシフトだ。そうなると、社員は自己判断のできないディフェンシブな指示待ち型となり、結果的に会社にとって生産性の悪いものとなる。同社では、そうした歪んだ自己規制を先んじて緩和することで、社員の自立心育成をさりげなく醸成する。

同社には女性社員を中心とした「ワークライフバランス委員会」も存在する。同じようなタイミングでママさん社員が続いたことから、どうすれば仕事と家庭をうまく両立できるかを検討すべく昨春、立ち上げられた。同委員会では、当事者らを中心に意見を出し合い、時短制度などの導入を検討。現在、実際に制度が活用され、何かと制約の多いママさん社員も仕事と家庭のバランスをうまくとりながら、生産性を落とすことなく職務を継続できているという。

意外にもかつては典型的な売り上げ至上主義

社員の自主性を重んじながら、生産性を落とすことなく、無理なく自然に働きやすさを最大限に高めることに配慮する社員第一主義のお手本のような同社。だが、10年ほど前には、真逆ともいえる典型的な売り上げ至上主義の会社だったというからにわかには信じがたい。

生まれ変わった経営

かつては売り上げ至上主義だったがミッション経営で見事に復活

「創業者である奥田が、自身の事故をきっかけにそれまでの売り上げ至上主義からの経営体制の刷新を決断。当時の業界10大ニュースといえる『脱塩化ビニール宣言』を行い、壁や天井などのクロスに使われる塩化ビニールを一切使わないと決め、全店で徹底しました。量的拡大から質的充実という180度といえる方向転換。当然、多くの社員が離脱しました。しかし、掲げたミッション遂行に全力を注ぎ、新しい人材も流入し、体質が入れ替わりました」と玉井氏は説明する。

難産の末、見事に生まれ変わった新生OKUTA。事業活動を通じ、社会的活動を果たそうとする「ミッション経営」を核に据えたことで、やるべきことが明確になった。社員全員が、進むべき方向を当たり前のように共有するようになった。昼寝の容認を取り入れるだけなら、どこの会社でも可能だ。だが、社員全員の意思統一が不十分なら、機能しない。昼寝容認ひとつをとっても、一人残らずその意図をくみ取り、有効活用できる組織。ひとつひとつがそうだから、自ずと会社の力は増強される――。

右肩上がりの成長期から成熟期に入った日本経済。成熟と言えば聞こえはいいが、グローバルな観点では、伸びシロがなく“停滞”しているに過ぎない。その要因は、型にはめることで売り上げを伸ばしてきた成功体験からの脱却が不十分であることも一因といえる。誰のために働くのか、何のために働くのか…。従来のやり方が崩壊しつつある昨今、あちこちでそうした問答が繰り広げられている。その答えは見えづらいが、同社のミッションを核にした働き方や仕事に対するスタンスには、確かなヒントが隠されていそうである。


<“偉大なる会社”として数々の受賞歴>

環境先進企業としての同社の様々な取り組みは、社会的に高く評価され、数々の賞を受賞している。2007年の第4回エコプロダクツ大賞【エコプロダクツ部門】「審査員特別賞」をはじめ、2010年の第一回グレートカンパニーアワード「グレートカンパニー大賞」、翌年の同第二回での「ユニークビジネスモデル賞」、最近ではエコやオーガニック、フェアトレードなど人や地球にやさしい商品・サービスの総称であるソーシャルプロダクツの第一回のアワードで同社の「自然派パッシブデアインリフォーム&リノベーションが「ソーシャルプロダクツ賞」を受賞するなど、“偉大なる企業”として、確固たる地位を築きつつある。

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