企業風土

計30日の有休を目指す会社の働き方

投稿日:2013年6月18日 / by

一ヶ月の夏休みと2週間の冬休みをとれる会社アルス・児玉社長

アルス株式会社

たっぷり休める、しっかり教育してくれる――社員にとってこれ以上ない労働環境といえるだろう。アルス株式会社は、「一ヶ月の夏休みと2週間の冬休みをとれる会社」を掲げ、社員教育にも力を入れる。一体どうやって機能させ、会社はどんなムードなのか。オフィスを訪問し、同社児玉民行社長(69)を直撃した。

たっぷり休める会社にした理由

「ちょっと最近は経営が厳しいせいもあって、十分に有休が消化されてなくてね。いまは16,7日かな。私だけが、しっかりと1ヶ月の夏休みをとってるよ、ハハハッ」と児玉社長は、苦笑いしながら現状を説明した。とれていなくて16,7日。その時点で、同社の有給休暇取得の充実ぶりは十分に伝わる。vacation1

同社がロングスパンの休暇を導入したきっかけは、児玉社長のIBM時代のイギリス出向時の体験にある。赴任当初、不動産業者で家を探す必要があり、会社にそのための有給休暇を申請。すると上長はもちろん、同僚からも大ブーイングにさらされた。

「貴重な有休をなぜそんなことに使うんだ!」というものだ。欧州では、有休は「しっかり取ってリフレッシュするモノ」というが常識。カルチャーギャップといえばそれまでだが、その時から児玉社長の頭には、“しっかりと休める働きやすい会社づくり”が目標の一つとしてインプットされた。

しっかり休めるよう整備した多様な休暇制度

vacation-2IBMを退社後、アルスを立ち上げた児玉社長。当然のように、すぐに有休を長期取得できる制度を採用した。しっかりと休めるよう日本の法定の有休20日に10日の有休を加え、イギリスでブーイングを浴びた経験から、様々な特別休暇制度も用意した。つわり休暇中学校就学前までの子の看護休暇ファミリーサポート休暇裁判員休暇生理休暇…など、ワークライフバランスにも配慮した休暇を補完的に用意することで、「一ヶ月の夏休みと2週間の冬休みをとれる会社」としての体制を着々と整えた。

さらに、リフレッシュ休暇という長期休暇制度も導入した。入社5年で半年、10年で1年の休暇が取れるというものだ。さすがに無給だが、1年も業務から離れることを許す会社は、日本的発想ではありえない。もともとは社員の相談から始まったものというが、すでに3人が活用し、皆しっかりとリフレッシュして職場復帰を果たしたという。

そんなに休んで会社は回るのか

うらやましい反面、これだけ休めるとなるとどうしても気になることがある。どうやって“欠員”をカバーするのか、という点だ。「弊社での業務は基本、システム開発でありプロジェクトで進める。従って、メンバーが長期休暇を取得している間は、残ったほかのメンバーがカバーして業務を進める。それに毎年、年間の有給休暇取得計画をキッチリと作成するので計画性もあり、特に問題なく機能している」と児玉社長。すでに風土として、長期有給取得が定着していることもあり、社員間に助け合いの精神も根付いているようだ。

独自の人材理論で会社は常に活性化

freshmanたっぷりと休める職場環境で社員にとっては快適な居心地の同社だが、人材は意外にも流動的という。もちろん、不満があっての離脱ではなく、同社をステップに他社へ羽ばたいていくのだという。その点について、児玉社長は、独自の人材論を展開する。

「すべての社員がずっと会社に定着するのは、新陳代謝が悪くなってよくない。もちろん、手塩にかけて教育した社員が巣立つのはさみしいけど、反面それだけの人材に育ったといううれしさもある。ウチは孵化器、インキュベーションだね。幸い、出るものがいてもまた優秀な人材が入ってくるサイクルができているし、いい形で回っていますよ」と児玉社長は、半ば悟ったように話した。

長期の有休取得を推奨し、しっかりと社員教育をしつつ、自社を「孵化器」と公言する児玉社長。休みにくい、辞めづらいというニッポンの会社の概念を180度ひっくり返すような経営の舵取りは、過渡期にある日本にあって、未来の会社のひとつのカタチを提示しているといえるかもしれない。


<たくさん休んでも業績は堅実>

ワークライフバランスフェスタ東京2013」 で東京ワークライフバランス 「休暇取得促進部門」 認定企業として表彰されるなど、うらやましいほど有休がある同社だが、それでも業績は安定している。ここ数年はリーマンショックの影響もあり、売上高は低下傾向だが、設立以来の連続黒字はキープしている。無用な拡大はせず、身の丈に合った児玉社長の経営手腕のたまものといえる。もちろん、長期間休む文化ゆえに社員が常に長期のスパンで計画を立てるため、大きなブレが起こらないことは言うまでもないだろう。

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