企業風土

Uターン許す会社の狙いとは

投稿日:2014年6月11日 / by

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戻れる場所としての会社の存在

 

CROOZ(株)

日本の会社員にとって、働く上での精神安定剤的な役割を担っていた終身雇用制度も今や風前の灯状態だ。人口動態を考慮すれば、ずっと以前から予測できたことだが、対策を後回しにして来たツケがいよいよ噴出しはじめている。クルーズ(株)では、一度やめた社員が戻れる社内制度がある。ずっと居続けられる安心感に代わる、再び戻れる場所としての会社という存在。その実状に迫るーー。


自然に生まれた戻りやすい土壌

オフィス

フロア上部のモニターはナイアガラTVと呼ばれ、社内関連の様々な情報が発信される

「自分の力を試してみたい」、「開発を続けたい」、「ビジネスの難しさを痛感した」…。

これまでに同社を離れていった社員の退社理由だ。無念さもあろうが、どちらかといえば自分勝手な理由といえる。それでも、彼らは再び古巣へ舞い戻っている。こうしたことが実現するのは、彼らの人材力はもちろんだが、Uターンを許す会社側の度量の大きさに尽きるといっていいだろう。

これまでの一般的な会社なら、たとえ理由がどうであれ、一度退社した人間が再び戻ってくることは考えられなかった。他の社員への示しがつかないことに加え、仁義的な部分もあり、退社後に門戸は閉ざされるものだった。「何かあったら戻ってこいよ」といわれても、あくまで社交辞令と捉えるものだった。

ところが、同社では出戻りへの抵抗は驚くほど少ない。従来の会社の慣習には全く引きずられない。社員と元社員との交流が自然に行われるなど、離れてもつがなりがキープされているケースが多く、離職した社員が戻りやすい土壌が整っているのだ。

制度化の名は「CROOZ号乗船往復チケット」

もっとも、これまではあくまで社風として戻りやすかったに過ぎず、正式なものではなかった。だが、最近になり、晴れて制度化された。その名は「CROOZ号乗船往復チケット」。巣立つ社員にとっては、なんともありがたい、希望にあふれるネーミングだ。

長く活躍し、かつ大きな貢献をしてくれた社員がやむを得ず会社を去る際、それまでの感謝を称え、新たな旅路の心の支えになるよう、期限内であればいつでも戻ることのできる“出戻り歓迎チケット” 。適用第一号となった社員の自宅へ送られた際には、語学勉強のため、海外へ留学した本人に代わり、封を開いた母親がその粋な計らいに歓喜の声を上げたというが、それも当然だろう。

社員の心情を慮る経営トップの器の大きさ。拡大を続ける会社としての成長力。それらは当然として、同社には再び戻りたくなる場所としての魅力にあふれていることも見逃せない。

オフィス内外にあふれる戻りたくなる魅力

オフィス内には世界を模したスペースが点在する

オフィス内には世界を模したスペースが点在する

「オモシロカッコイイ」プロダクトを世界に提供することを夢とする同社は、それを体現すべく、オフィスに遊び心を取り入れている。コックピットをイメージしたエントランスは、まさに宇宙船クルーズ号さながらで、職場とは思えない別世界となっている。オフィス内も世界の国と地域をイメージしており、ウッドデッキや観葉植物、等身大の動物のぬいぐるみなどが随所に配置され、エンタメ心に満ち溢れる。

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オフィスは、見た目の部分だけでなく仕事をしやすい環境としての工夫も散りばめられている。そのひとつが、決められた時間に鳴るチャイム。その目的は、仕事にメリハリをつけるためだ。人間の集中力が続く時間を考慮した間隔で毎時50分にチャイムが鳴り、小休憩。そうすることでミスを減らし、効率的に仕事ができるよう促進する。さらに毎日22時に絶対退社の「残れまテン」という制度もある。同社では、ダラダラ残業は厳禁とし、仕事の質を高めることに徹底してこだわる。

プライスレス本部のネーミングに込められた配慮

近藤瑠美

プライスレスな仕事にいきいきと取り組む近藤瑠美さん

こうした社内の労務管理等を担う部門を同社では「プライスレス本部」と呼ぶ。直接的な利益やサービスこそ生まないが、それらを生み出す経営リソースである「ヒト」を確保し、適材適所で調整する、まさにプライスレスな価値のある部署だと考えるからだ。

制度だけでなく、オフィス環境や部門名にも配慮が感じられる部分は、人間でいえば、さりげない気配り。目には見えないが、そうしたところも、同社が再び戻りたくなる場所としての魅力のひとつといえるだろう。

離職者が辞めた会社の門を再びくぐることは、これまではあまり考えられなかった。だが、優秀な人材の確保が困難となった今、クルーズは同社が戦力と認める人材であればUターンを拒まない。成長意欲が高いほど、一度は会社の外を空気を吸ってみたくもなる。出戻り受入れは、企業としての懐の深さであると同時に、会社を最も知る人材でもあるのだから、人材戦略的にも理にかなっている。

終身雇用制が崩壊し、会社員にとっての「安定」は消失し、高齢社会で企業の人材確保は困難になっている。これからの時代、企業-社員双方にとって、メリットの見込まれる“出戻り制度”。新たな人事スタンダードとして、今後各企業へ拡大していく可能性は十分にありそうだ。

 

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