企業風土

サイボウズがリアルオフィスに高額投資した理由

投稿日:2015年8月4日 / by

なぜあえてコスト負担の大きい「東京の起点」を選んだのか

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道路標識の東京の起点・日本橋。そこに誕生した最新設備を搭載のオフィスビルを新たな拠点としたサイボウズ。時間と場所にとらわれない、新しい働き方の先端を行く同社はなぜ、あえて賃料もハイクラスの東京の中心に、リアルオフィスを構えたのか。その決断に至るプロセスからは、新しい働き方とリアルの関係性がどうあるべきかのひとつの解が透けてみえる。

「移転の選択肢の中には地方もあった。しかし、最終的にはこの日本橋から世界の人脈をつくり、世界を変えていきたいという思いで、この場にオフィスを構えることを決めた」と同社青野慶久社長。同オフィスのコンセプトである<ビッグハブ フォ チームワーク>を具現化するためには、バツグンのアクセスのこの立地と最新テクノロジーに対応した設備が外せなかったことを明かした。

青野社長お気に入りのスポット「バール」

青野社長お気に入りのスポット「バール」

青野社長にとって、今回のオフィス移転は、出血覚悟の高額投資となる。昨年度は宣言しながら回避した赤字を「今年度はこの投資で確実にそう(赤字に)なる」というほどの投資規模。社長個人としても「初の電車通勤」をすることになったオフィスの移転。それでも、まだ引っ越し後、半月ながら、「チームワークあふれる社会を創る」という拠点にふさわしい、立地と設備にその表情は満足げだ。

時間と場所にとらわれない働き方の先端を突き進む同社にとって、移転にあたり、オフィスレスにする選択肢もあったハズだ。実際、引っ越しを検討する過程で、そうした声も上がったという。それでも最終的には、若手を中心とした「リアルのオフィスでなければ先輩から指導が受けられない」といった声などを反映し、リアルオフィスのキープが決まった。

「在宅勤務だけの体制というのも確かに不可能ではないかもしれない。しかし、それよりも、移転を考えるに際して、リアルのオフィスでないとできなことを優先しました。そもそも、うちの場合、在宅勤務をやりたい人はやればいいわけですから。大事なことは、働く側に働き方の多くの選択肢があること。自分自身で、在宅勤務をするのか、オフィスで仕事するのか選択できることが重要と考えています。その上で、この場所では特に『交流』ということを重視しています」とオフィス移転をけん引した中根弓佳氏は説明する。

交流を活性化する様々な仕掛け

こうしたスポットが点在し、コミュニケーションが生まれやすい構造になっている

こうしたスポットが点在し、コミュニケーションが生まれやすい構造になっている

ビルの27階と28階に入居する同社。27階は、「ポート」いわれ、まさに入り口として様々な役割を担う。最初に出迎えてくれるのペッパー君だ。同社のkintoneと連携し、指定した動作で訪問者に対応する。すべて0円の自販機もあり、来訪者ののどを潤す。「サイボウ樹パーク」といわれる待ち合わせスポットもあり、少しの時間も退屈せずに待機できる。全ては、会話のきっかけ作りのために計算された仕掛けで、それぞれの仕掛けを足掛かりに、来訪者と同社社員との間に自然にコミュニケーションが生まれるようになっている。

最新のテレビ会議システムを導入したスペースでは遠隔地へ雑音まで“配信”する臨場感

最新のテレビ会議システムを導入したスペースでは遠隔地へ雑音まで“配信”する臨場感

カンファレンスルームやセミナールームも充実しており、これらを活用することで、オンラインでは十分にカバーし切れない、情報伝達や情報供給を存分に行う。社外の人を迎える会議室もこのフロアにある。ユニークなのは「バール」と呼ばれるキッチンスペースのあるコミュニケーションスペースだ。基本は食事をしたりする社内の交流活性化の場だが、社外の人の利用も歓迎しており、よりカジュアルなスタイルでの交流が生まれそうだ。

従業員の執務スペースとなる28階は「ベースキャンプ」と呼ばれ、ワンフロアに多くの部署が集う一大空間となっている。柱や壁がなく、さらに部門間の区切りのないスペースは、非常に開放的。加えて抜群の眺望で、ストレスや愚痴などもたまる余地がない心地よさがある。スペースのあちこちにはオープンスペースも多数あり、偶発的な会話が自然発生する様子が目に浮かぶ。飲食スペースや備品入れは細分化せず、あえて、共有の場所としており、そこでの交流が発生することも計算されている。

制度、風土、そしてツールとしてオフィス三位一体の働き方の追求

クラウドサービスを運営する会社として、もちろんセキュリティも徹底する。それでも、それゆえの不便が起こらないよう、レベルを6段階に設定してゾーニング。オープンなところはとことんオープン、安全が強く求められるエリアは徹底して堅牢にすることで、重要視する「交流」を損なわないよう、バランスをとっている。

この眺望と機能性の中にこうしたアイテムがあるのもまたリアルオフィスならではだ

この眺望と機能性の中にこうしたアイテムがあるのもまたリアルオフィスならではだ

「これまでサイボウズは、在宅勤務や人事評価、育休などの「制度』、個の尊重、公明正大、多様性重視といった『風土』を中心に新しい働き方を推進してきました。今後は、そこにさらに『ツール』としてこのリアルオフィスを加えることで、三位一体で新しい働き方を追求し、そして発信していきたい」(中根氏)。

時間と場所にとらわれない。それが新しい働き方の大きなポイントといえる。その文脈には、オフィス不要という意味合いも含まれそうだが、ビッグプロジェクトの成功や革新には、場が生み出す数値化はできない目には見えないエネルギーが必要になるーー。新しい働き方を突き進むサイボウズが、新オフィスに投資する金額は、遠隔業務のみでは到底生み出せない、そうしたエネルギーの対価そのもの、と言っていいのかもしれない。

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