企業風土

何でも全社員で決める会社

投稿日:2014年4月17日 / by

個々の給与決定も全社員で決定

アクロクエストテクノロジーAcroquest Technology(株)
何でも社員全員で決める――。ルールも制度もそして給与も。ピラミッド型企業では想像もできない完全民主主義を実現している企業がある。アクロクエストテクノロジー(株)だ。新入社員もベテランも関係なく、意見を言い合える風土。その根底には、他社がマネのできないある“こだわり”がある。

給与&賞与が決まる全体査定会

社員の給料を決めるのは経営者。これは誰もがうなずくだろう。変わり種では、給料自己申告制を導入する企業はある。個々の評価を全社員で行い、給与の参考にする事例もある。しかし、個々の給料を全社員で一緒に決めるというのは、極めて珍しく、なにより困難だろう。

アクロクエストテクノロジー

ルールも制度も給与もみんなで決めるのがアクロ流

同社の給与&賞与決定の場は、「Happy360」と呼ばれる全体査定会。全社員が参加するその会では、互いの能力や成果について、上司や部下の関係関係なく、意見が交わされ、報酬が決まる。技術力はもちろんだが、仕事力、人間力も客観評価され、それぞれが自分を見つめなおす機会にもつながり、同社社員のきずなを強めることにも貢献しているという。

「あの人より私の評価が高いのはおかしい」、「今回、私は下げてください」、「彼はもっと高くあるべきだ」…など、湧き出す意見はまさに個々のその期の活躍を如実に示し、ある人は気を引き締め、ある人は活躍に納得しながらさらなる成長を期することになる。

なぜ完全360度評価が可能なのか

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フラットな組織は上下関係なく風通しが良い。(左から鈴木氏、新免副社長)

それにしてもなぜ、全社員が、個々を正当に評価できるのか。同じ部署や席が近いなどなら、分からなくもないが、70名近い社員が個々人を評価するまでに知るのは簡単ではない。同規模の一般の企業ではまず不可能だろう。実はそこには秘密がある。毎日の報告書がそれだ。

その日あったことを自由記述する報告書の送付先はプロジェクトリーダー。いわば業務日報だが、同時に全社員が読めるようにもなっている。そこには業務報告はもちろん、上司とのちょっとした軋轢のようなものも含めて自由に記述することが許されている。つまり、全社員が、個々の思いや行動をガラス張りの中で把握しているのだ。

「弊社では、言いたいことは直接いうように指導しています。従って陰口はありません。通常は言いにくいのかもしれませんが、それはトップからそうした風土づくりをしていくことで定着します。その上で報告書にも書き込まれますから、ガスはたまる前に抜かれていきますね」と同社組織価値経営部マネージャー・鈴木達夫氏は説明する。

日本一教育に熱心な会社の称号

もっとも、ある程度のキャリアを積めばこうした風土にもなじみ、当たり前のように完全フラットな組織に順応できるだろうが、入社したての新人社員ではそうはいかない。それをクリアするのが、同社の「教育」へのこだわりだ。ある専門家にいわせれば、“日本一教育に熱心な会社”と評されるほど、同社は教育へは多大な時間とコストを投入する。

内定段階に始まり、入社後も毎年のように先輩社員から教育が行われ、IT業界でもトップクラスといわれる技術力を磨き続ける。技術と同時に同社の精神もしっかりと受け継がれ、新入社員は、入社段階からガラス張りの同社のスタイルに違和感なくなじむことになる。

徹底した教育で会社のカラーに染め上げることが狙いではない。社風に合わないかをしっかりと見極めたうえで、順応しやすいようサポートする。実際、同社が尊重するのは、あくまで個性。できるだけ、本人の得意を生かすよう工夫する。「うちでは特性能力主義と呼んでいます。人はそれぞれ、リーダータイプもいれば、フィクサータイプもいる。分析が得意な人もいるでしょうし、とにかく実行なら任せてというタイプもいる。リーダーに合わない人に無理にリーダーを求めるより、得意な分野で能力を発揮してくれればそれでいいんです」と同社新免副社長は、そのスタンスを明かす。

「こういうことをされたらいやだな」。同社では、そうしたことを未然に防ぐ態勢が整っている。だから、不満を抱えず、不安にならずに働ける。トップは社員に「定年までクビになることはありません」と明言する。雇われの身である会社員にとって、この時代では最大級の安心感といえるかもしれない。

根底にあるトップ2人の前職での苦い経験

MA会議

MA会議では気持ちよく働ける会社つくりについて話し合う

そこには社長と副社長である新免夫妻の苦い経験が反映されている。片や技術職として、片や外資系企業で働いていた2人は、自分たちの経験を生かして、社員が「気持ち良く信頼して働ける会社」をつくろうというのが同社立ち上げの原点にある。いい意味でファミリーのようなきずなが構築されているのは、そのせいといえるだろう。

象徴的な全体査定会のほかにも、MA(Meeting of All staff)と呼ばれる全体会議もあり、働きやすい環境を自分たちで創造する。これまでに全社禁煙制度、サマー/ウインタータイム、全社一斉コーヒーブレーク、配偶者誕生日休暇…など、多くの制度が誕生している。会社という形態のよさが、上意下達にあるとすれば、一方で下からは何も決められないジレンマもある。完全フラットの“上下通達”の同社は、じっくり時間をかけ作り込まれた秘伝のタレのようであり、簡単にはマネできそうにないが、組織としての良さと主体性を兼ね備えた、新しい会社のひとつの在り方を示しているといえる。

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