
副都心から過疎地へ本社を移転した目的とは

過疎化は進むが、ブロードバンド網は日本屈指
電子著作権物保護システムおよび情報漏えい防止システムの開発・販売を手掛けるサイファー・テック(株)(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:吉田基晴、以下サイファー・テック)は、2013年5月1日付で本社を徳島県海部郡美波町へ移転する。副都心新宿から人口8,000人弱の過疎地へ移る目的とは…。
太平洋と清流と山に囲まれた徳島県美波エリア。年に一回のリゾートなら、来てもいと思える絶好のロケーション。だが、職場となるととてもじゃないが想像がつかない。一体なぜ、この地への移転を決めたのか。
「弊社では、価値ある製品やサービスの開発に不可欠なのは社員の“クリエイティビティ(創造力)”であり、社員一人ひとりがどのように働き、どのように暮らすのかを主体的に考えることで“クリエイティビティ”が育まれると考えています。そうした考えのもと、社員主体のワークライフバランスの実現を図るべく、職場環境や制度の整備を進めています。その一環として、2012年5月にここにクリエイティブオフィス『美波Lab(ラボ)』を開設いたしました」と同社。
もっともな考えであり、支社レベルなら田舎でも問題ないが、核となる本社を移転してしまうとなると、十分な理由とはいえな気がしないでもない。それとも「美波ラボ」が予想以上に快適で、生産性の面でも大きな効果がみられたというのか…。
「『美波Lab』は弊社の開発機能のサテライトオフィスとして“半×半IT”(※“×”は各々の趣味)をテーマに、職場と自然が近接する環境を最大限に活かし、稲作や養蜂といった農作業・サーフィン・釣り・狩猟などの社員個人の趣味活動と、DRM(デジタルデータの不正コピー対策)技術開発などの業務とを両立させるワークスタイルの実現を目指しています。また過疎化の進む同地域での学校教育への支援や住民へのIT利活用講座の開催、お祭りやイベントへの参加、地域防災活動など、さまざまな地域交流活動にも積極的に参加しています」と同社では、現地に根を下ろすことによる地域との融合の意義を力説する。
確かに大都会・新宿での地域活性化よりも過疎地の活性化の方が醍醐味がある。企業の社会的貢献という面でも、大きな意義がある。
「こうした活動を通じて、生活の質を向上させられ、豊かな自然や文化に触れることができ、そして人と深くつながることのできる同地域こそ、弊社が経営ビジョンに掲げる『新たな価値創造』に最適な環境であるとの考えに至り、このたび徳島県海部郡美波町へ本社を移転することを決定いたしました」と同社では、過疎地への本社移転の真の狙いを説明した。

自然児採用枠で入社すれば、は遊び心応援金として10万円が支給される
同社では本社移転あたり、「自然児採用枠」なるものも設定。同社の、本業と趣味の理想的な両立を進める理念に共感する人材を募り、就業時にはサーフィンや釣り、スキューバダイビングなどに係る費用を“遊び心応援金”として10万円支給する。
いつどこで働くか、はITの進化によってほぼ関係がなくなった。業種にもよるが、メイン機能のほとんどを好きな場所に移すことも物理的には可能となっている。そうなると、いかに新たな価値を創造するかが自ずとテーマとなってくる。景気の先行きが不透明で閉塞感が漂いがちな日本では、型にはまったワークライフバランスの追求ではどうしても限界がある。ならば、職場を人里離れた“遊び場”に大移動してしまうのも、付随する社員さえ共感しているのならば、大いなる刺激として有効といえるのかもしれない。
【ワンポイント解説】
「美波Lab」は、徳島県が推進する「とくしまサテライトオフィスプロジェクト」のもと設立された。同プロジェクトは、全国屈指のブロードバンド環境を活かし、過疎集落の「空き家」となっている古民家や遊休施設を首都圏のICT企業のサテライトオフィスとして展開することで、地域に元気を取り戻すべく、徳島県が中心となって推進している。首都圏のICT企業を中心に現在までに12社(2013年3月末時点)が徳島県内にサテライトオフィスを設置しているが、本社移転は今回が初。様々な格差是正の一環として今後、こうした動きが活発になれば面白いかもしれない。