企業風土

オフィスのない会社の働き方

投稿日:2013年8月6日 / by

事務所なしで会社は機能するのか

宮嵜代表
株式会社YOSCA

在宅勤務やノマドワークなど、時間や場所にとらわれずに働く形態は時代の変化やICTの進化などにより着実に増加している。とはいえ、社内でも一部であったり、ワーカー全体でもまだ珍しいというのが現実だ。(株)YOSCAには、なんとオフィスがない。拠点を持たない“ノマド企業”が、果たして機能するものなのか…。同社宮嵜幸志代表を直撃し、その狙いや 実態を聞いた。

なぜオフィスを持たないのか

ノマドワーカーは、拠点を持たずカフェや自宅、コワーキングスペースなどを巡り歩き、その職務を遂行する。同社には、そもそも拠点となる場所がない。従って、社員は全員、必然的にノマドワークで業務にあたる。会社ならオフィスがあるのが当たり前。一体なぜ、オフィスを持たないのか…。

「簡単にいえば、必要性を感じないからです。WEB関連の仕事をする上で、作業は必ずしもオフィスでやる必要はない。むしろ、PCの前にいなければいけないということで、かえって生産性を下げているのでは、と以前から感じていました。いまや大抵の仕事はどこでもできるわけですから。キレイなオフィスを構えることで社員の士気が上がり、生産性向上に貢献することもあるでしょう。でも、そういうのは一瞬。固定費と秤にかけた時、本当に見合うのか、と考えるととてもそうとは思えない。だから、オフィスは持たないことにしました」と宮嵜代表は、オフィスレスの理由を明快に説明した。

どんな成果があるのか

互いの信頼関係が重要確かに、いまや通信環境さえ整っていれば、いつでもどこでも作業はできる。社員とのやり取りもグループウェアを活用すれば、問題なく行える。監視できないので“さぼり放題”という懸念も、期日通りに納品さえしていれば咎める理由はない。たとえ実働が5時間程度あったとしてもだ。もちろん、クオリティのチェックはしっかりと行う。このスタイルにして半年以上が経過しているというが、これまで何の問題もなく、高い生産性がキープされているというから目論み通り、といえるだろう。

「日々社員同士が顔を合わせる拠点がないワケですから、大前提として相互の信頼関係が重要であることは言うまでもありません。結局は個々の自律の問題ですね。それぞれがしっかりとタイムマネジメントを心がけることができれば何の問題もなく回ります。逆にいえば、キチンと時間管理できないと、結局はその個人が自由に使える時間を浪費してしまうことになる。そもそも、こうした働き方をする会社に所属する時点で、自ずとそうした適性のある人が集まってくるものではありますけどね」(宮嵜代表)。

やって分かった意外な効果とは

もちろん、オフィスがない会社とは言っても、社員が面と向かうことが全くないワケではない。週に一度は、シェアオフィスやカフェなどで、定例のミーティングを行う。面白いのは、このミーティングも、オフィスを構えなくなったことで意外な効能があったという点だ。

「拠点がなく、顔を合わす機会が激減したことで、週一のミーティングの密度が非常に濃くなりました。ここぞとばかりに意見を出し合う感じですね。これはオフィスを持たなくなった意外な効果でしたね。また、普段、私に用事がある場合、社員は携帯やメールなどで直接コンタクトをとる必要があるため、1対1で話す機会が増えました。オフィスがあるといつでも会えるため、かえってズルズルと後回しになりがちだったのかもしれません」と宮嵜代表は、オフィスレスによる社員との“距離感”の意外な変化を明かす。

過去にはいろいろな制度も試行錯誤

オフィスレスのメリット・デメリットオフィスを構えないというきわめてユニークな会社経営を実践する宮嵜代表は、実はこの会社が代表としては2社目となる。以前の会社でも生産性の向上をテーマにいろいろと試行錯誤。フレックス制度や目安箱の設置、会議中のアルコール摂取(少量)…など、比較的採用企業も多いユニークなシステムを導入している。そうした経験を経た上でいま、オフィスレスという経営を選択しているという点は、単なる思い付きや無謀な取り組みではない証左として見逃せないだろう。

「前の会社でもいろいろと試しました。でも、どれもそれほどの効果は得られませんでした。そうしたことを踏まえると、オフィスを持たないというスタイルは、ここまでやってきてメリットが多いと感じています。当然ですが固定費削減になりますし、通勤時間もゼロ。時間を自由に使えることは何より大きいですね。社員の意識もかえって高まったと思います。MTGの密度も濃くなり、生産性の面でもよくなったと感じています。デメリットを挙げるとすれば…、そうですね、対外的にオフィスがないという信頼性の担保の部分であったり、我々の親世代のそうした形態への拒絶反応、後は紙の書類のやりとりが不便というくらいでしょうか…。もっとも、現在はまだ小さな組織ですから成立している部分は否めないかもしれません。いまの倍の規模になってもこの“ノマドワーキングスタイル”を貫ける信頼関係はキープし続けられる組織でありたいとは思っています」と宮嵜代表は、ここまでを振り返り、満足げな表情を見せた。

次世代のワークスタイルのひとつに定着も

次世代はこんな光景が普通に…インターネットの普及・発達により、多くの業務が時間と場所を選ばずに行えるようになった。仕事はオフィスでするもの。そうした常識も過去のものとなりつつある。その先には、同社のような個々のワーカーの「自律」を前提とした、会社に所属しながらの自由な働き方がある。もちろん、これから先も会社の存在がなくなることはないだろう。しかし、その在り方は大きく変わる。正確にいえば、もっと多様性にあふれることになるだろう。

宮嵜代表はいう。「今後、ビジネスは会社単位というより、プロジェクト単位にシフトしていくと思っています。会社の壁を越えていろいろなパートナーが緩やかにつながって、プロジェクトごとにチームを編成し、動いていく。そうなった場合、我々のような企業スタイルはフィットしやすい」。

オフィスレスという新しい会社のスタイル。物理的に社屋がないというユニークさ以上に、より質の高いビジネスを追及する次世代のワークスタイルのひとつとして、その成り行きは大いに注目である。


<目指すはライティング企業としての社会貢献>
ライティング代行をメインの事業とする同社は、登録ライターに仕事を平等に振り分ける。つまり、能力に関係なく、受注した仕事を平等に分配する。その理由は「社会との接点の薄れた在宅ライターに復帰への道筋をつくる」ことをミッションとしているため。もともとライティングをしていたが、家庭に入り仕事を離れている主婦はもちろん、実績がないゆえに仕事に恵まれない新人ライターなどにも積極的に業務を与える。質低下の懸念に対しては、同社スタッフがチェックすることで回避する仕組みだ。単なるライティング企業とは、仕事のやり方の部分でも一線を画している。


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