企業風土

8割の残業削減を実現した経営者が目指すもの

投稿日:2015年9月30日 / by

アニメ業界の“残業メタボ体質”を改善

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(株)ピコナ
吉田健社長

残業削減はいまや企業にとっての必須課題といっていい。生産性の低下はもちろん、人材確保の面でも大きなマイナスとなるからだ。大幅な残業削減したアニメ業界の(株)ピコナは、そうした課題の克服に加え、さらに大きな使命感を持って労働環境改善に取り組んでいる。吉田健代表にその思いを聞いた。

2年で残業8割減を実現

2年間で削減した残業は80%。驚異的な成果で残業削減を成功させた同社。だが、裏を返せばそれだけ残業が深刻だったということになる。こうした残業体質が、同社だけのことなら単なる企業努力で済む話だが、業界として珍しくない状態というから穏やかでない。

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クリエティブディレクターの水澤慎氏(右)と残業削減を推進した吉田社長(左)

「アニメ業界は、仕事がきつい、というよりも時間に対する考えがやや緩い部分があり、どうしてもズルズルと残業してしまう側面があると思います。逆にいえば、そうした部分をきちんと管理していくことで随分と時間の無駄は省けていく。弊社ではその辺りを重点的に改善し、効果的に残業削減を実現できました」と吉田代表は明かす。

チャットやグループウェアの活用による会議や打ち合わせ時間の短縮、終礼の実施、受託する際のできる仕事・できない仕事の見極めおよび得意分野の積極アピール、待ち時間の割り切り…など、これまで当たり前のように業務フローに入り込んでいた悪しき部分を徹底して改善することで、同社は、“緩い部分”を適正な状態へもっていった。

効果てきめんの残業チケット制の中身とは

そうした中で、最も効果があったのが、「残業チケット制」の導入だ。これは、残業する際には申請が必要で、3回までは残業が認められる制度。もっとも、申請の際は、社長の厳しいチェックが入り、必要性がないと判断されれば却下されてしまう。さらに4回目以降はペナルティが課せられる仕組みだ。

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申請すれば残業は可能だが、吉田社長のチェックは厳しい

「申告制自体にはそれほど抵抗はなかったと思います。むしろ申告すれば残業ができるといった程度に捉えられていたかもしれません。しかし、私のチェックが厳しいので、社員も残業について深く考えるようになりました。結果、どうすれば残業しないでいいのか、までを考えながら仕事をする習慣が身に付き、大幅な残業削減につながったと思います」(吉田氏)。

ゲーミフィケーションも取り入れ、楽しみながら実践

同社ではゲーミフィケーションを活用したポイント制も導入しており、これが残業チケット制と連動。出社で1ポイントが基本で、溜まればサイコロで商品がプレゼントされる。一方で、残業回数が多いとペナルティでポイントが没収される。このことも、残業をしない抑止力として、効果的に機能している。

こうした取り組みにより、たっぷりと浮いた時間は、新事業の開発にあてることもあり、売り上げは労働時間の減少と反比例して上昇している。よりクリエイティブな仕事ができるため、社員の士気も上がっている。もっとも、開発等に時間を割くのは、あくまで隙間時間の有効活用。売り上げ減を担保するためではない。

浮いた時間の有効活用で公私充実

残業体質が改善され、全てがすっきりしたオフィス

残業体質が改善され、全てがすっきりしたオフィス

それよりも、吉田代表が推奨するのは、浮いた時間を活用したプライベートの満喫だ。その理由は、クリエイターとして見識を広めることが、より良い作品づくりに重要と考えるからだ。「仕事ばかりで、外の世界を知らないのでは、人間としても寂しいし、作品作りにもプラスとはいえない」と吉田代表は話す。同氏自身、結婚により、食が充実し、健康的になり、時間管理もより厳格になったというから、説得力がある。

既婚率の低い社員の結婚問題に加え、吉田社長の目は、業界全体にも向けられている。それは、海外のアニメ業界を視察したことがきっかけだった。ディズニー社などのクリエイターは、時間内でキッチリと仕事を終え、仕事もプライベートも充実させている。それでいて最高のクオリティの作品を創りだす。一方の日本のアニメ業界は、目の前を仕事こなすのに精いっぱいで、日々追われ、疲弊し、業界を去る者も少なくない。

業界全体の体質改善も視野

「文化的な違いはあるかもしれませんが、海外のアニメ業界ができるんだから日本だってできるハズなんです。それにプライベートが充実していないとやっぱりいい作品はつくれない。こういう風潮って、『まぁいいや』では、結局、いつまでも変われない。悲しいのは我々の業界で離職というと、多くは他業界へいってしまうこと。業界にとって、これほど悲しいことはありません。だから、この残業削減の取り組みは、弊社のものであると同時に他社さんへもどんどん広まって欲しいと考えています」と吉田代表は力説する。

どの業界でも残業はある。それが離職の引き金となることも多い。だが、たいていは同じ業界へ高待遇を求めての転職で、新天地で花を咲かせるのが一般的だ。アニメ業界へは、一見華やかで夢や希望にあふれて門をたたく人が多いだけに、そのギャップの大きさから、業界に見切りをつけてしまうのだととすれば、これほど残念なことはない。

労働環境の整備はいまや企業の必須課題

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公私の充実こそ、クリエイターに重要と吉田社長

「特に女性などは、子どもができたりすると離職し、そのまま帰ってこないケースが多いですね。もちろん、職に愛着があり、帰ってくる意思はあるのですが、なかなか難しい側面があるようです。ですから、そうやって埋もれている人材を発掘できるよう、微力ながらも業界の体質や仕組みも少しずつでも変えていけることにつながればとは思っています」(吉田氏)。

同社の残業削減の徹底ぶりに、同業他社は驚くと同時に、「どうすれば実現できるのか」と聞いてくるケースも増えてきているという。取り組みを知った人からの入社希望の問い合わせもあった。業種業界によって、人手不足の状況にはばらつきがあるものの、今後、優秀な人材は、確実に獲得競争が激化する。もはや、残業削減はもちろん、従業員がいかに十分にパフォーマンスを発揮できるかに配慮することは、企業にとって、死活問題といっていい重要課題となりつつある。


【会社概要】
名称: 株式会社ピコナ(PICONA.Inc)
設立: 2009年3月24日
所在地: 〒105-0013 東京都港区浜松町2-10-10 第二小林ビル5F
代表取締役: 吉田健
資本金: 5,000,000円
事業内容:
・キャラクター及びデジタルコンテンツの企画・制作
・3DCG・グラフィックデザイン・モーショングラフィックスを利用したアニメーションの企画、制作、演出、デザイン。
・キャラクターデザインと、それに 係わる開発業務。上記に係わる商品の企画、開発、制作、販売。

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