企業風土

在宅勤務制度の理想形とは

投稿日:2013年3月24日 / by

制度の使い方が生み出す働きやすい職場富士ソフトオフィス

富士ソフト株式会社

働き方が多様化する中、時間と場所にとらわれない在宅勤務制度導入企業が増加している。富士ソフトは、対象を限定して導入していた同制度を2013年1月から全社員対象とした。長年の試行錯誤を経て、本格導入を決定した同社は、トップもその推進に積極的に関わる。その目的は、在宅勤務制度を福利厚生的な位置づけとしてでなく、企業戦略的観点からも有効に活用するためだ。

在宅勤務制度の活用対象を全社員へ拡大

在宅勤務とは、労働時間の全部または一部を自宅で情報通信機器を活用して行う勤務形態。通勤時間がなくなるなど効率的な働き方であり、生産性の向上に寄与することが実証されている。米国では5割近い導入率となっている。日本ではまだ普及は進んでいないが、東日本大震災以降は事業継続(BCP)の観点などから、同制度導入の注目度が高まった。ワークライフバランス実現という側面からも、関心が集まっており、IT関連を中心にここ数年で導入企業は徐々に増えはじめている。

クラウドを利用した作業環境

同社が最初に同制度を取り入れたのは1989年。その後、2009年7月に「多様な働き方規程」を施行。2012年2月から新しい在宅勤務の試行を開始し、4月には「在宅サテライト委員会」を発足するなど、多様な働き方への対応を模索。昨年12月までに累計で約700人の試行を終え、セキュリティ面等の課題もクリアされたことから、その対象を全社員に拡大した。

在宅勤務制度を本格導入する狙いとは

オフィス風景対象を全社員へ拡大した目的は、多様な働き方を支援することで適正なワークライフバランスの実現を達成し、従業員一人ひとりが元気に働ける職場環境を整備すること。だが、同社では、在宅勤務制度を単なる福利厚生の延長のようなシステムとしては捉えていない。より良い労働環境の提供による、作業効率向上を実現する人事制度として、戦略的に活用するという狙いも導入の目的にしっかりと含む。

同社の場合、社員は5、000人を超える規模。グループ全体では1万人を超える。もしも全員が、在宅勤務を活用し、その一人ひとりが業務効率をアップさせた場合、その生産性向上効果は計り知れない。業務の性質上、全員のフル活用は現実的ではないものの、仮にその内の2割が活用したとしても相当な効果が期待できる。

福利厚生的位置づけでなく、戦略的な人事制度として活用

「今回の在宅勤務制の全社員への拡大は、適正なワークライフバランスの実現という側面はもちろんですが、会社全体の業務効率化の意味合いもあります。福利厚生の様にとらわれがちな制度ですが、弊社では生産性の向上を実現する人事制度として捉えています。ですから、家で仕事をするといってもその活用に後ろめたさはないと考えています。委員会にトップが入っていることも活用の推進につながると思います」と同社人事総務室長の益満氏は、制度導入の狙いを説明する。

なぜ「許可制」なのか

姿かたちの見えない部下のマネジメントに管理職は困惑も

姿かたちの見えない部下のマネジメントに管理職は困惑も

制度の活用は、強制でなく、あくまで自主判断。だが、全社員への拡大後、申請者は毎週10人ペースで増加。人事部では年内の目標として全社員の約1割となる500人に設定しており、今後もさらなる利用促進を図るべく、施策を行っていくという。もっとも、全社員が対象ではあるものの、誰もが制度を活用できるわけではない。実は同制度は「許可制」。従って、上長からの許可がなければ、オフィスでの業務となる。一度許可されても、成果によっては、在宅勤務が認められないこともありうる。

「部門によってはセキュリティ面の問題もありますが、家で仕事をすることが向いていない人も当然います。会社じゃないとスイッチが入らないとか上司がいないと気が緩んでしまうタイプですね。生産性の向上を考えた場合、重要なことは一番仕事がはかどる場所で働いてもらうこと。在宅で仕事をすることが効率化につながらないのであれば、会社としては生産性向上が維持されるオフィスでの業務遂行をお願いすることになります。許可制としているのはそのためです」(益満氏)。

厳しいようだが、生産性向上が目的に含まれる以上、当然の制度ではある。実際、フルタイム活用で自宅が“オフィス”となれば、終日、上長の「目」はない。いわゆる“仕事ぶり”による評価はないと考えていい。つまり、仕事の出来を判断する材料は基本、「成果物」のみとなる。期限内にきっちりと仕事をこなすことはもちろんだが、上長もこれまで以上に厳しい目で「成果物」をチェックすることになる。従って、自分をしっかりと律することができる人でなければ、自宅での勤務が思わぬマイナス評価にもつながりかねない。

導入により浮上した想定外の課題

想定外の課題も浮上している。部下が在宅勤務をする上司のマネジメント力だ。オフィスにいれば、勤務態度など評価するポイントはあるが、姿が全く見えない在宅の部下をどう評価すべきなのか、という点で管理職に戸惑いがあるという。また、部門や職種によって同一ルールでは難しい部分もある。そうした課題については、同社では随時、対象者にリモートマネジメント研修や教育を実施、成果の可視化などを検討するなどで、一人でも多くの社員が円滑に活用できるよう、制度の完成度を高める取り組みを続けていく。 

自社製品も投入し、活用を推進

同社の在宅勤務制度の本格導入において、もうひとつ見逃せないことがある。自社製品が、その推進に貢献している点だ。その製品とは「moreNOTE」。同製品は、ドキュメントや動画、画像などをサーバー (クラウド/オンプレミス)で一元管理し、iPad/iPhone/Windows8タブレット(3月4日より対応)から簡単に閲覧できる。ポインターやペンツール機能、複数のタブレットを同期することができるペアリング機能を備え、ペーパーレス会議やプレゼンテーションなど、様々なビジネスシーンでスマートフォンやタブレットを活用できる。

タブレットを利用したアプローチ

セキュリティ面も端末の紛失や盗難に備えたファイルの暗号化機能や端末認証機能など、しっかりと確保。ビジネスシーンにおいて、新しいモバイルワークスタイルを実現するサービスとして拡販が期待されている。同社では、役員クラスが出席する会議から、日常のミーティングまで幅広く同製品が活用されるなど、ビジネスツールとして浸透。全社員のさまざまなリモート業務の現場において、有効に活用されており、在宅勤務においても違和感なく利用されている。

ワークスタイルのあり方に多くのヒントと可能性を提示

トップが先頭に立って活用を推進し、福利厚生でなく戦略的人事制度として活用し、制度の活用を自社製品で全面サポートする――。在宅勤務制度は、メリットが多いものの、文化的側面もあってか、日本ではなかなか拡大が進まない。ようやくその導入企業が徐々に増加する中で、同社の一歩踏み込んだ在宅勤務制度へのアプローチは、今後の企業におけるワークスタイルのあり方を考える上で、多くのヒントや可能性がちりばめられている事例といえそうだ。


<moreNOTE(モアノート)>
moreNOTE富士ソフトが開発したスマートドキュメントサービス。使いやすさを追求したシンプルな基本機能と万全なセキュリティ機能を持ち、ビジネスシーンでの利用に適している。昨年12月にポインター、ペンツール機能、ペアリング機能を装備したバージョンアップ版が発売され、これまでに130社を超える企業での採用実績がある。2013年3月にはWindows8版が発売され、同社では2013年度内に1000社での導入を目指す。


米国の在宅勤務事情
アメリカでは企業の4割以上が在宅勤務制度を導入している。それも5年前のデータなので、現在では5割を超えている可能性もある。特徴的なのは、高学歴、高年収の層が多いこと。より稼ぐために効率的なワークスタイルとして、同制度が活用されている。国土が広大であることも活用者が多い一因といえるだろう。ちなみに、日本企業の活用率は1割にも満たないといわれる。

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