企業風土

“懸賞付き”の仕事を提示する会社の狙いとは

投稿日:2015年7月29日 / by

want1仕事も報酬も“つかみ取り”できる制度

エストコーポレーション

<この任務、達成すれば、報酬1万ポイント>。上司から部下へ、こんな形で任務を公開するユニークな制度を導入した企業ある。医療・福祉ITベンチャーの(株)エストコーポレーションだ。本業とは別の「プラスα」の位置づけであり、やるか否かはあくまで任意。だが、奪い合いになる任務もあるというから驚きだ。「エストクエスト制度」と名付けられたこの新制度。一体、その狙いは何なのか。誕生の経緯やその効果をリサーチする。

“成長痛”乗り切るためのユニークな仕掛け

企業は成長フェーズにおいては、業務量>人員という状況になることも珍しくない。ひたすら上を目指す若い力が、明確なコンセプトに則り、突き進む内はいい。だが、さらに突き抜け、どうしても達成不能な業務量を、上がノルマとして押し付け始めると危険信号が点灯する。こうなると勢いは失速し、やがて、やらされ感が侵食し、やりがいが消滅、若い芽は潰れていく――。

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最高のおもてなしで迎えてくれた広報の吉田氏(左)、事業部長の森脇氏(右)

“成長痛”ともいえるこの期間を、仕組みによって乗り切り、さらには加速させようと同社が取り入れたのが、「エストクエスト制度」だ。クエストとは、任務であり課題。ドラゴンクエストのあのクエストだ。この制度では、各事業部長が部下にクエストを提示、それを任意で社員が受注する。しかも、その公開は、誰もがみえるところに張り出す形で行う。つまり、あくまで、本人の意志が最優先で、いわゆる業務命令的圧力や押しつけ感はみじんもない。

「私どもはこれから2年で上場を目指しており、急成長していかねばなりません。そのためには個々の成長が重要になります。それをいかに実現するかを管理部が中心になり、思案しました。ポイントは2つ。やらされ感がないこと。より成長できること。やらされ感は任意とすることでなくなりますし、クエストをオープン化することで、通常の上司からの指示で取り組む場合とはモチベーションも変わってきます」と管理部事業部長の森脇かほり氏は説明する。

評価や報酬の公平性はどうなるのか

任意、つまりやりたくなければやらなくてもいい。とはいえ、やりたくなるような仕掛けがしっかりと散りばめられている。最大のポイントは、報酬があることだ。クリアすれば、その分、報酬がアップする。より稼ぎたい人にとっては、たまらない“ニンジン”といえるだろう。クエストの内容も見逃せない。単に厳しいだけの任務でなく、雑談や面談などから、部下がやりたそうなものを上司がさりげなく盛り込み、モチベーションをとことん刺激する。

「評価については、半年の目標設定をするための個人面談で、ベースとなるものはつくっています。クエストはそれにプラスαの評価となります。見事、期限内に達成すれば、ポイントで報酬をもらうことが出来ます。ポイントは1ポイント1円で、80万点あるサービス・商品と自由に交換できます。クエストの内容については、こなせば成長につながるようなものを上長が考え抜いて作っています」と森脇氏は明かす。

クエストに取組み人は押印で意思表示

クエストに取組む人は押印で意思表示

実際にオフィスに張り出されているクエストをみせてもらった。例えば、広報部門であれば、よりハードルの高いメディアへの複数の掲載実績、営業であれば、目標値の倍近い受注…など、半年の個人目標を踏まえた上での「プラスα」だけに、なかなか刺激的なものが並ぶ。もっとも、困難なほど、ポイントは高く、成長につながることが明らかなだけに、挑戦に躊躇する者はおらず、逆に取り合いになるケースもあるというから、見事なさじ加減といえるだろう。

とはいえ、こうなると、やらない人間の処遇が少し気になるが、もちろん、あくまで「任意」。クエスト実行に消極的だからといって、社内的に評価下がるということはない。そもそもベースの評価は、別にしっかりと行われた上でのものだ。ただし、クエストは報酬と紐づいているため、積極チャレンジ派とは自ずと格差がでることになる。その辺りは、各人の働く上でのスタンスや価値観の違いといえるだろう。

個人だけでなく組織力を強化するバージョンも設定

オフィス移転に伴い新たに創設されたコミュニケーションスペース

オフィス移転に伴い新たに創設されたコミュニケーションスペースも有効に活用されている

仕組みとクエストで自主的にやる気を引き出し、ゲームのように楽しく業務に取り組みながら、個々の成長につなげる--。これが、クエスト制度導入の最大の狙いだ。このクエスト制度には、さらにもう一つの形もある。「エストクエスト」と呼ばれるものだ。こちらは、先のものがいわゆる事業部ごとの本業に連動したものだったのに対し、グループ版であり、イベント系が中心となる。グループは、社内里親里子制度に基づき、幹部候補を里親にした「エストファミリー」として、部門横断で構成される。

「エストファミリーは、事業部を超えた10人前後の疑似家族になります。幹部候補の社員を里親とし、その他一般社員を里兄、、里姉、里子に振り分けます。業務時間外にファミリーで積極交流し、里親を中心に経営マインドの共有やチームビルディングの強化を図るのが狙いです」(森脇氏)。

個人とチームの成長で一気に目指す2年後の上場

エストファミリーに対しては、社長である清水氏を筆頭とする役員幹部で構成する「清水家」がクエストを提示。各エストファミリーは、このクエストに対し、ファミリーで挑む。こちらは、創立記念パーティー、スポーツ大会など、社内イベント系の企画が中心で、いかに盛り上げられるかが、各ファミリーの腕の見せ所となる。

常にユニークな制度を産み続け、企業関連の賞では常連となっている

常にユニークな制度を産み続け、企業関連の賞では常連となっている

「私のファミリーが主催した全社飲み会は、あえてホームパーティー風に社内の共有スペースで行いました。ただの飲み会ではつまらないので、ドレスコードもTシャツにし、よりカジュアルに、それでいて食べ物もお酒もおいしいものを集め、楽しくやりました。こちらは事業ではありませんが、やはり他のファミリーを意識しますね。それと普段接する機会の少ない他部署の人と交流できることはいろいろと刺激になります」と広報担当の吉田氏は、自身が挑んだエストクエストを振り返りながら、その効用を明かした。

個人の成長、そして、チームビルディング。どちらが欠けても成長にブレーキがかかるが、同社では練りに練った人事制度で、さりげなく背中を押しながら相乗効果を生み出し、一気の加速を実現する。2年で上場。そこまでは、この勢いは止まりそうにないが、仕組みなしでも猛烈に自走する集団になった時にはじめて、「エストクエスト制度」導入の意義が証明されることになりそうだ。


【会社概要】
est社名:株式会社エストコーポレーション
東京本社:東京都千代田区九段北4-1-28 九段ファーストプレイス6階
代表取締役社長:清水史浩
事業内容:特定健診(住民健診・企業健診等)、生活機能評価のデータ作成・電子化業務全般、高齢者マーケティング及び二次予防事業対象者把握業務医療機関検索・予約サービス「EST Doc」、診療予約管理システム「EST Book」の運営

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