働き方

実践者が明かす、転機につながる転職を成功させるポイント

点ではなく線でみることが、転職でのステップアップにつながる

もしも目の前に、素晴らしくやりがいのある仕事があるとする。ただし、期間限定。終了後の保証はない。しかも、現在は著名企業勤務で安定が約束されている。あなたらならこの仕事に飛び込めるだろうか…。

組織委員会への転職の経緯を語る中田氏

ラグビーワールドカップ2019組織委員会・企画局兼総務局の中田宙志氏は元三井物産。言わずと知れた超安定企業だ。だが、30歳を前に退社し、同組織へ転職した。スポーツビジネスに大いなる可能性を感じ、とりわけアジアで注目度が急速に高まっているラグビーの世界的イベントに携わることに強く魅かれたのだ。

キャリアプランとして「経営者になりたい」ということも、大きな要因となった。安定を捨てたというよりも、自分の描くキャリアプランのための当然の選択、という感覚だったのかもしれない。それゆえか、有期ながらも「全く不安はない」と言い切る。守るべき、家族の反対もなかったというから、思いを理解してくれていたのだろう。

この場合の転職の転は、「転機」の意味合いが強いといえるだろう。大企業に就職し、順風満帆に過ごしながら、日本でビッグイベントに携わるチャンスが来た。決断理由は、それだけで十分だった。いまよりも次であり未来。そこを充実させるためには不可避の道だからだ。雇用形態こそ正社員だが、前述のように有期。つまり、あくまで通過点。ここを経て、人生が転換するまさに転機となる転職だ。

「ラグビーワールドカップは極めて大きなイベント。これまでは全て伝統国で開催されていたが、初めてアジアで開催される意義は大きい。これにゼロベースから携われることは非常に価値がある。加えてその翌年には東京五輪がある。将来は経営者になりたいが、日本スポーツ発展のために、国際的なスポーツ機関での常勤も目指している」と中田氏。今回の“転職先”に終わりがあること以上に、その先の未来に胸を高鳴らせる。

同委員会・企画局長兼法務部長で、数多くのスポーツイベントに携わってきた田中輝夫氏も、ビッグイベントへスタッフとして携わる価値を明かす。「大きなスポーツイベントに携わり、結果を出していると、どこかしらに情報が伝わる。誰かが見ているんです」と、期間限定ながらも得られる財産は大きく、“次”につながるネットワークが構築されると補足する。

スポーツビジネス業界は、“転機転職先”として狙い目

現在、日本はスポーツビジネスの転換期を迎えている。ようやくビジネス視点でのプロチーム運営が浸透しつつあるが、欧米に比べればまだまだ遅れている。その要因は、人材不足だ。海外の主要リーグでは、大企業の経営層の流入も珍しくない中、日本では多くが縁故というのが実状。自らも楽天球団の創設メンバーとしてスポーツビジネスに従事したビズリーチ社長の南壮一郎氏が力説する。

スポーツビジネスの魅力を語る3人(左から中田氏、田中氏、南氏)

「これから日本開催の大きな国際大会が続く中で、スポーツ産業への経営人材流入が重要となる。日本は海外に比べ、専門性や国際的視野を持った経営人材が圧倒的に不足している。ゼロベースからという点でベンチャーの立ち上げに似ているが、ものすごい注目を浴びる中でやり直しのきかないプロジェクトを実行する経験は何物にも代えがたい。楽天創業時に一緒だったメンバーはほとんどが事業を起こしているように、そこからいろいろな人材が生まれている」。

雇用流動化が加速する日本。だが、こうした転機につながる転職は安定を捨てる勇気も必要なるだけにまだまだ少数派だ。正社員神話は崩壊しているが、それでも「安定」へのこだわりが根強い。だが、大きなチャンスには間違いなく大きな可能性が秘められている。逆に「安定」といっても、それが自力によるものでなければ、いつ何があってもおかしくはない。

終身雇用制度が崩壊し、日本でも転職はマイノリティではなくなった。一方で、転職をキャリアップにつなげるプロセスとして戦略的に実行できている人は少ない。安定にしがみつくというより、リスクの前におののき、足をすくめてしまう。では、そうした転職を実践するにはどんな素養が必要なのか。今回、ビズリーチ上での同組織の人材公募を自ら提案したという南氏は、自身の体験も踏まえ、こうアドバイスする。

「前例のないプロジェクトでは誰も導いてくれない。自分で考え、行動できる人間が求めらる」。ひと言でいえば自律型人間。しっかりと自分の意志で判断や行動ができる人間こそが、キャリアも掛け算式に積み上げることが可能ということだ。労働環境を天秤にかけた単なるスライド型転職ももちろんあり。だが、社会・産業構造の変化で人材が激しく流動化する時代だからこそ、転機につながるワープ型転職が、もっと増えてもいいだろう。

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