
増加する“出戻り入社”。実際のところ、どうなの…
事前情報抜群の「出戻り」は賢明な“転職”といえるのか
人材流動化が加速する中、「出戻り」もその選択肢として、増加傾向にあります。制度として導入されている場合もあれば、過去のつながりから実現する事例など、そのスタイルはさまざまです。実際問題、社員が一度やめた会社に戻ることは、賢明な選択なのでしょうか。少し深掘りしてみます。

よくぞ戻ってきてくれました
転職を考えたとき、出戻りするメリットは何でしょうか。求職者にとっては、なによりも勝手知ったる場所であることが大きいでしょう。新天地のフレッシュ感も心地いいものですが、「分かっている」安心感は、業務に取り組む上での不安も取り除いてくれます。
「ミドルの転職」が行ったアンケート調査では、拒絶反応
エン・ジャパンが運営するミドル層の専用の転職求人サイト「ミドルの転職」がサイト上で行ったアンケート調査では、35歳以上の出戻り入社の実態がみえてきます。出戻り入社経験者の、その決め手については、「コミュニケーションのとりやすさ」が44%でトップ。以下、「自分のやりたいことが実現できる環境」(31%)、「仕事が楽しめる環境」(28%)と続きます。
この結果だけをみると、回答者は、転職に失敗したようにみえてきます。なぜなら、1位の理由はともかく、2位と3位の理由は、<元の会社の方がやっぱりよかった>ことを如実に示しているからです。本来なら、新天地に、やりたいことや、楽しみながら働ける環境を求めていたハズです。別れた彼女が恋しい感覚に近いのかもしれませんが、35歳以上ということを考えてもややお粗末な感はぬぐえません。

ミドルの転職調べ
その意味で面白いのが、このミドル層の調査において、出戻り入社をしたことがある人の割合です。なんと「ある」と答えたのは、わずか10%。ほとんどのミドルは、出戻りに拒否反応を示しているのです。その理由は、ごもっともなものが並んでいます。
「給与や待遇が改善されないと、前職は選択肢に入らない」(35歳男性)、「居心地はいいものの、希望するポジションで出戻りが難しそう」(38歳男性)、「新しい職場の方が環境が変わり、新しい刺激を受けられるから」(38歳男性)、「社風は好きだが、スキルアップやキャリアアップが見込めない」(45歳男性)…。嫌になったから、というのは問題外としても、転職する以上、ステップアップを目指すのが当然で、そうなると「出戻り」が選択肢から外れるのはごく自然の判断でしょう。
経営側にとっては、計算できる人材が確保でき、好都合
経営側にすれば、出戻り社員は、確実に計算できる人材。その意味で、表向きはともかく、内心は基本歓迎のはずです。実際、「再雇用したことがある」企業は、67%に上ります。出戻り入社のきっかけの1位も「前職の社長・役員・上司からのアプローチ」が67%でダントツトップとなっており、出戻りに対し、企業側が前向きなことが分かります。

ミドルの転職調べ
以前、瓦版が行った調査では、出戻りOKの場合、「戻るか」の質問にに対し、「戻らない」が64%で「戻る」の36%を大きく引き離しました。その理由は、「嫌で辞めたので」、「ブラック」、「方針が合わない」などが並びました。この時は、20代、30代が多かったのですが、その意味では、出戻りは求職側にとっては、全体的に後ろ向きの選択肢のようです。
拡大傾向の出戻り入社の今後は?
企業によっては、出戻りを制度化しているところもあるなど、かつてに比べれば、出戻りへの拒否反応は薄れつつあります。より優秀な人材を確保するために、リファラル採用の積極活用も増え、その延長で、出戻りを容認する企業もあります。潮流としては、出戻り採用は着実に拡大傾向にあります。
離職を卒業と捉えるなら、出戻りは出世して、育ててくれた恩返し。そうした流れが出来てくれば、出戻りは日本企業の活性化にもつながります。そうなるためには、企業は、人材囲い込みの考えを捨て、人材輩出企業へ転換し、激しく新陳代謝しながら成長する仕組みを構築する必要がありそうです。社員は、自らの武器を手に主体的に会社に貢献し、それを磨き上げていく姿勢が求められます。
いえることは、出戻りは最も簡単で確実にみえて、しっかりとした結果につなげるには実は非常に高度な“転職”ということです。現状では、出戻りに前向きな人材が少数派という事実は、まだまだ定着するには、あらゆるレベルが十分に追い付いていないと考えるのが妥当といえそうです。