インタビュー

職場版イグノーベル賞は実現するのか

投稿日:2016年9月16日 / by

リクルートדベツルート”の異色対談【後編】
正解はない--職場を活性化する十人十色の可能性

リクルートキャリアが主催する、職場を盛り上げる取り組みを表彰するイベント「グッド・アクション」に審査員として参画することになった就活マイノリティの掘り起し実験を先導する人材プロデューサーの若新雄純氏。いきなりそのネーミングに物申した同氏とリクナビNEXT新編集長・藤井薫氏の異色対談は波乱の幕開け(前編)となったが、その波長は時間の経過とともにシンクロ。働き方の多様性や雇用形態、さらにはグッド・アクションの間口を大きく広げる大胆提言まで飛び出す、予想外の化学反応が起こった。
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職場に働きがいや生きがいを求めることが矛盾しているワケ

グッド・アクションは職場を盛り上げる取り組みに注目し、他の企業が参考にできる事例を紹介するプロジェクトだ。若新氏が関わりを持つ人材マイノリティの多くは、その職場にさえたどり着かない人も少なくない。若新氏は一体、「職場」というものをどう捉えているのか…。

若新氏 そもそも職場ということでいえば、その意味が変わってきていると思います。100年前の明治時代にサラリーマンというものができたといわれるけど、それまではほとんどが農民だったわけです。天候に左右され不確実だった収穫が、月給という極めて安定した収入に変わった。その時から、会社員は、安定の代償としてその身を会社に預けることがむしろ理想的なこととして宿命づけられた。そこに「働きがい」や「生きがい」を求めること自体、そもそも矛盾しているわけです。ところが今や失業率はわずか3%。ただ月給をもらうだけでは、会社員であることの意義を感じられなくなってきたのです。

複雑な時代に職場活性化への秘策はあるのか

サラリーマンというものが誕生した当初は、会社員自体がマイノリティで、確実に月給がもらえるありがたい形態だった。だが、会社員が主流という現代においては、職場にやりがいや生きがいみたいなややこしいものを求めるようになってきた。さらにいえば、椅子取りゲームが激化し、高待遇を目指すなら、居場所の確保さえも困難になる。かなり複雑な状況に思えるが、一体どうすればこの時代にグッド・アクションを職場活性化イベントしてさらにジャンプさせることができるのか…。

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藤井氏 1995年にリナックスを開発し、世界中にオープンソース運動を巻き起こしたフィンランドのリーナス・トーバルズ氏を編集者として取材しました。その時、彼がこんなこと言っていました。「Just for Fun(僕にはただ楽しかっただけなんだよ)」。本当に聞き取れないくらいの小さな声でボソッと、そうひと言、口にしたのです。とてつもなくすごいことをしているのに、競合との競争といった視点でなく、新しい労働観というか新しい働き方を軸にした仕事への向き合い方をしているんです。これって、まさに幅だと思うんです。そこで思うのは、グッド・アクションを職場におけるそういう働き方の「幅」を拡げられるものにするというのは可能性としてありではないかなと。

若新氏 イグノーベル賞(その必要性はともかく、面白く、考えさせる研究に対し与えられる。ノーベル賞のパロディ)ってあるでしょ。そういう、「そんなのもOKなの」というくらい多様性や違いを認める場にするというのもいいかもしれません。それによって議論のきっかけになるというか…。別の観点でいうと、例えば、主婦がいます、学生います、といろんなタイプの人材を採用して柔軟な職場を実現している企業がありますけど、あれって、雇用形態が正社員に限らないんです。バイトや業務委託みたいな契約になっている。だから実現している。正社員は排他的契約で、他の可能性を捨てているから「正社員」という雇用形態を得ている。だから、そういう中でどうする、ということもいいけど、雇用形態も踏まえてみていくという視点も必要なのかとは思います。

職場活性化アワード「グッド・アクション」の応募企業へ求めること

職場を活性化する取り組みを評価するイベントとして誕生したグッド・アクション。対談は、脱線したようで、現状の働き方の本質をえぐる興味深い展開となった。ともに初参加となる2人は今回、どんな取り組みが応募(エントリー締め切り=2016年9月30日)されることに期待しているのか。対談の締めのとして聞いてみた。

若新氏 職場を盛り上げる取り組みという意味では、単に盛り上げるということではなく、どう変えた、変わったのか、というところが知りたいですね。「その手もあったか」というようなものとか。また、そもそも子どもを産んだ後に職場に復帰しやすいという場合に時短で働いていたりする場合が多いですけど、それは正社員でなかったりする。週3勤務とか週4勤務もそうで、パートだったり契約社員だったり。それでも本人はすごく充実していたりする事例があって、それはどうしてなのか、とか。

昨年のグッド・アクション表彰式の模様

昨年のグッド・アクション表彰式の模様

藤井氏 私は2つです。まず人事担当者だけでなく、働く現場の人からの応募に期待したいですね。やはり、「自分の働き方は自分で創っていかないと、本当にフィットするものは生まれてこないのではないか」と確信しています。もうひとつは、地方の企業からの応募に期待したいですね。労働人口のほとんどは東京を中心に吸収されています。幅を広げるという点でも、地方の企業の取り組みには意外性や可能性があると感じています。「この取り組みは応募する価値があるのか…」、と躊躇しないでほしいですね。

昨今、働き方を表彰するアワードはいくつか存在する。企業にとっては、その魅力をアピールする上で絶好の機会といえるだろう。だが、取り組みがハイレベルであることと、誰もがイキイキと働ける職場がイコールとは限らない。試行錯誤の中で進むグッド・アクションは、若新氏の参画で、そうした中でも異質の輝きを放ちそうな予感だ。そのカギを握るのは、なによりも常識に捉われない取り組みで、これまでにない働き方や職場変革を目指す企業だ。どれだけ多くの企業が応募するかに成否にかかっているといっていいだろう。どんな職場づくりがベストなのか…。そこには正解も基準もない。その意味では、どの企業にも応募資格があるアワードが、グッド・アクションといえる。(了)

前編:「変な」アクションが秘める職場改善の可能性


<プロフィール>
fujii藤井薫:1988年慶応大学理工学部を卒業後、リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社。B-ing、TECH B-ing、Digital B-ing(現リクナビNEXT)、Works、Tech総研の編集、商品企画を担当。TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長・ゼネラルマネジヤーを歴任。2007年より、リクルートグループの組織固有智の共有・創発を推進するリクルート経営コンピタンス研究所コンピタンスマネジメント推進部及グループ広報室に携わる。2014年よりリクルートワークス研究所Works編集兼務。主な開発講座に『ソーシャル時代の脱コンテンツ・プロデュース』『情報氾濫時代の意思決定の行動心理学』などがある。

wakashin若新雄純:(株)NewYouth 代表取締役、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任講師、国立福井大学産学官連携本部 客員准教授。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。様々な企業・団体の人材・組織開発、コミュニケーション開発コンサルティングを行う一方で、人と組織の多様な成長モデルや新しい社会コミュニケーションのあり方を研究・模索し、実験的なプロジェクトを多数企画・実施中。NEET(株) 代表取締役会長、鯖江市役所JK課 プロデューサー、ナルシスト採用 、「ゆるい就職」 、くじ引きと占いの就活「ベツルート」など、数々のマニアック就活をプロデュースする。


グッド・アクション
近年、職場の環境や雰囲気が、働く人の「働きやすさ」「モチベーションアップ」の重要な要素とされる現代。企業が独自に取り組む研修や社内イベント等の取り組みを募り、紹介することで、自分らしい「働き方」や「やりがい」のヒントを発掘するきっかけとすべく設立された。企業規模を問わず、あらゆる企業に門戸を開放するオープンな企業アワードとなっている。3回目となる今回の締め切りは9月30日。詳細はコチラ

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