インタビュー

働く人が幸せになる仕組みをつくった経営者は何を重視したのか

投稿日:2017年7月28日 / by

個人事業主がハッピーになるプラットフォーム運営の極意とは

会社が就労環境の整備に注力している。働き方改革の追い風もあるが、優秀な人材を確保するのがその名目だ。だが、どんなに耳触りのいい制度を導入しても、構造を変えなければ、表面をなぞるに過ぎない。移動スーパーを全国に張り巡らせ、2017年7月現在、69社のスーパーと提携し、38都道府県で230台が稼働しているとくし丸。ここでは、事業に関わる個人事業主(販売パートナー)、スーパー運営企業、そして、運営する株式会社とくし丸の3者ともハッピーな関係が構築されている。なぜこんなことが可能なのか。その秘密を代表である住友達也氏に直撃し、探った。

買い物難民を対象にする移動スーパーがなぜ、躍進するのか

とくし丸は2012年、移動スーパーで買い物難民を救済することを目的に徳島県で誕生した。全国には、約700万人もの買い物難民がいるといわれる(2015年経産省調査)。買い物もままならないお年寄りが、全国に点在している。徒歩圏にコンビニもないようなエリアは、放っておけば機能不全を起こす。そこを埋めるのが、移動スーパー・とくし丸の役割であり、マーケットだ。

それぞれのマーケットは決して大きくない。だが、切実なニーズがある。そこが、とくし丸が、関わる誰もを幸せにするビジネスモデルたる重要なポイントといえる。買い物をしたくても満足にできない。とくし丸を支える販売パートナーは、この不便を食品の移動販売によって直接解消し、喜びという対価をもらう。売り上げももちろんだが、対面による応酬が、その喜びを増幅させる。

あくまで販売パートナーを優先する運営哲学

販売者と消費者の満足。ここまではなら、ビジネスとして到達することもそれほど難しくはないかもしれない。最も重要な要素は、これを経営するトップのスタンスだ。十分とはいえないマーケット規模だけに、儲けを優先するならマージンを多めに取りたくなる。だが、住友代表は、あくまでも販売パートナー優先の手数料の仕組みを導入。販売パートナーと対等に近い立場での運営を選択した。

「契約はテイガク制にしています。テイガクは『定額』と『低額』です。商品供給先のスーパーからロイヤリティとして月3万円だけいただく。あとは頑張った分だけ販売パートナーと提携スーパーが儲かる仕組み。その意味で、いわゆるフランチャイズとは別物です。本部が利益を吸収するだけにみえるFCの仕組みでは、頑張った人が疲弊するだけ。それでは長く続かない」と住友代表は、とくし丸の運営哲学を明かす。

とくし丸ではなぜ、誰も不幸にならないのか

販売パートナーは、買い物難民のために商品を販売し、商売と同時に地域課題を解決する。とくし丸本部は、最低限のロイヤリティだけを徴収し、その活動のサポートに全力を尽くす。販売パートナーは、売れば売るほど、感謝を増やし、本部は、提携スーパー、そして販売パートナーを増やすことで収益を上げ、経営を安定させる。全ての活動が有機的にリンクし、頑張りがストレートに前進につながる仕組み。だから、どのパートでもその眼前には明るい前途がある。

これを会社にあてはめるとどうだろう。課題を抱える顧客がいるマーケットに、それを解消できるサービスを投入。経営者は、その利益の多くを社員に還元する。そんな仕組みで回っていれば、社員はやりがいにあふれ、自ずと自立し、結果、売り上げも安定するだろう。報酬も比例して伸びていくことでモチベーションはさらに高まる。会社は利益が多少少なくなったとしても、将来的には揺るぎない経営の安定につながる。そう考えれば投資の観点でもその効果は絶大だ。

四半世紀黒字経営を続けた経営者も感じる会社経営の限界

シンプルなようだが、これができる企業は残念ながら少ないのが実状といえる。23歳から出版社を立ち上げ、以降23年間赤字ゼロで経営をしてきた過去もある住友氏は、その当時をこう述懐する。「最初は、純粋にやりたいことをやって会社を大きくしていったんです。でもある時から社員の待遇をよくしてあげようとかそういう思いも入ってきて、創業時の思いからかけ離れ、本末転倒のようになってきてね」。優良企業の“経営経験者”でもこう語るのだから、会社というスタイルでは、理想の組織を追求するには限界があるということなのかもしれない…。

一度は引退し、とくし丸で再始動するにあたって「たくさん儲けるつもりはなった」と振り返る住友代表。もちろん、利益度外視ということではないが、そうした姿勢が、テイガク制につながり、販売パートナー、提携スーパーとの関係をギスギスさせない根底にあることは確かだろう。そうだとすれば、経営者にとってはこの理想的な関係の構築はますます困難に思えるが、手がかりはあるハズだ。後編では、運営者・住友氏にさらにフォーカスし、その秘密と今後に迫る――。(後編に続く)


<とくし丸トピックス1>10円ルール
とくし丸では1商品につき、10円を店頭価格にプラスして販売する。ここからでる利益を販売パートナーと提携の地域スーパーに5円ずつ還元する。決して多くない利益の中で、受益者となる顧客に少し負担してもらい、売り上げを増やすためだ。


【会社概要】
会社名:株式会社 とくし丸
(2016年5月よりオイシックスドット大地(株)の子会社)
設立:2012年1月11日
代表取締役:住友達也
所在地:徳島県徳島市南末広町2-95 あわわビル3F
URL:http://www.tokushimaru.jp/

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