インタビュー

個人事業主が大資本に負けないための“戦術”とは

投稿日:2017年8月4日 / by

マイクロな移動スーパーをいかにして全国に張り巡らせたのか

ローカルスーパーと個人事業主のタッグで、買い物難民を救済する移動スーパー・とくし丸。順調に拡大するそのネットワークは、巨大資本に引けを取らない。その状況を、小さな魚が群れをなし、大きな魚のカタチなって大きな敵を撃退するスイミーの物語に例える住友代表。その商売の哲学には、個人事業主やフリーランスが、荒波に飲み込まれることなく市場で生き残るためのヒントが凝縮されている。(前編から続く)

マイクロスーパーはなぜ巨大スーパーに太刀打ちできるのか

徳島を拠点に全国にネットワークを広げるとくし丸。その拡大は、販売パートナー、そして提携スーパーの増殖とイコールだ。買い物難民は、スーパーにとって潜在顧客。販売パートナーは、それを移動スーパーですくい上げる。その意味で、スーパーにとって、とくし丸は、提携するメリットこそあれ、デメリットはない理想的なパートナーといえる。

「創業当初、提携交渉をする際に、あるスーパーさんから『こんな条件でいいんですか』といわれたんです。この時、『これはいける』と確信しましたね」。住友代表はそう述懐する。月3万円という“テイガク”制は、フランチャイズの感覚を基準にすれば、破格の安値。裏を返せば、とくし丸にはそれ以上の大きな価値があるということでもある。

大スーパーとの連携でみえてきた次のステージ

だからこそ、住友代表は現状に満足はしていない。「当初描いていた成長軌道よりはかなり遅いペース」ともどかしさも見せる住友氏。創業から5年がたち、競合も出始めており、とくし丸はひとつのターニングポイントを迎えている。

「同じ様なことをやるところが出てくるのは構わない。でも、フランチャイズのように大資本が利益を吸い上げるのではなくて、頑張った人が適切に報われる仕組みをとくし丸でつくりあげたい。小さな魚が大きな魚のカタチをつくり、でっかい魚を撃退する。提携スーパーや販売パートナーを小さい魚に例えるのは少し気が引けるけど、まさにスイミーの物語のイメージ。いまの時代、スーパーにとっては提携しない方がリスクだと思っています」と住友氏は力説する。

忍び寄る巨大な影。それでも、住友氏は泰然自若だ。「ここへきて、ベルク・関西スーパー・いなげや・コモディイイダなど50店舗以上を有する大型スーパーとの提携も決まり、ようやく次のステージもみえてきた。それと並行していま、私はとくし丸の付加価値づくりに力を入れています」と住友氏は明かす。「付加価値」とは、拡がる販売ネットワークが秘める価値の最大化と販売パートナーおよび顧客の満足度の向上に他ならない。

小さくても強固なネットワークから生まれる付加価値

とくし丸の販売パートナーは、買い物難民の居住地を線で結び、販売ルートを決定する。その目的はあくまで買い物難民の救済。だから、時には売り上げが見込まれてもルートから外すこともある。そこまでポリシーを徹底しているから、顧客とのつながりは昨今では考えられないほど強固になっている。その強力なパイプは、他ではとうてい入り込めない。だから、とくし丸経由で企業がサンプリングやアンケートなどを実施すれば、驚くほどの回答率と中身の濃さでリターンが集まる。

利益は重視しないとくし丸だが、こうした取り組みを実施する際には、販売パートナーに別途手数料を支払う。移動販売はボランティアではない。ましてやプラスアルファの頑張りとなる以上、報いがあるのは当然という住友氏の哲学だ。ここまで徹底しているから、とくし丸は、常に提携企業の期待を上回る結果を弾き出す。競合の出現にも平然としていられるのは、このレベルにまで販売者と消費者の関係を構築することがどれだけ大変かを熟知しているからでもある。

食品販売がメインのとくし丸は、ここへきて試験的ながら衣料品やメガネなどの販売も始めた。利用者アンケートから、ニーズの高いものをチョイスし、消費サイクルに合わせてとくし丸のルートを回る方式。車は専用車で、通常のとくし丸とは一線を引く。需要に応じての商品選定だけに利用者からは高い満足度の評価を受けている。現場からのささいな声もしっかりと吸い上げ、タイムリーに改善を繰り返しながらその付加価値を高めるとくし丸は、すでに買い物難民になくてはならない存在にまで進化している。

4方よしの関係で積み上がる信頼と生まれる安定

とくし丸の安定は、個人事業主である販売パートナーや提携スーパーの安定と同義。販売パートナーの積み上げる信頼は、とくし丸の何よりの財産だ。この一心同体の関係は、まさに“スイミー”そのものといえる。昨今、フリーランスで働く人が増加しているが、とくし丸の様なフリーランスに寄り添う心強い存在がないことで、なかなか「安定」を享受できていない現状がある。住友氏の様な視点を持つプラットフォーマーがいれば、その可能性は広がりそうだが、ないものねだりをしても仕方がない。

その運営スタイルにさらに踏み込めば、成功のヒミツは一層、鮮明になる。町の個人商店に入り込まない「半径300mルール」、「売り過ぎない、捨てさせない」という販売ポリシー、販売パートナー同士のエリア重複厳禁、販売パートナーの採用は人柄重視…。売り上げ至上主義のビジネスとは一線を画すその運営方針は愚直なまでに誠実さにあふれる。

誠実は商売で最大級の力を発揮する。だが、巨大資本の前では微力でしかない。だからこそ、群れを成す必要がある。社会課題の解消までしてしまう移動スーパーが配る誠実は、個々が小さくても日本を救う力にもなる。さらなる飛躍の土台へ足をかけるとくし丸のこれからの動きは、ターニングポイントにある働き方改革や高齢社会の行く末を占う意味でも注目される(了)。

◆インタビュー前編→
働く人が幸せになる仕組みをつくった経営者は何を重視したのか


<とくし丸トピックス2>面接基準
単に食品を販売するだけでなく、地域の課題を解決し、高齢者との接点も多くなる販売パートナー。ミドル世代の転職組が多く、最近は女性販売パートナーが増加傾向で全体の18%を占める。面接での採用基準は人柄徹底重視。住友氏は「自分の母親のところに売りに来られても大丈夫か」を最終判断にしているという。能力があるだけは難しいことから、その合格率は5割ほどだそうだ。


【会社概要】
会社名:株式会社 とくし丸
(2016年5月よりオイシックスドット大地(株)の子会社)
設立:2012年1月11日
代表取締役:住友達也
所在地:徳島県徳島市南末広町2-95 あわわビル3F
URL:http://www.tokushimaru.jp/

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