インタビュー

Web使った自己プロデュース! 建築家とライターの相乗効果を狙った戦術とは

投稿日:2017年11月2日 / by

建築家はなぜ、ライターもやるようになったのか

一級建築士として設計をする傍ら、ライターとして住宅雑誌などに寄稿をする香月真大氏。日本のテニスランキングに入るほどスポーツに熱を入れていた学生時代。2010年には、若手建築家の登竜門と言われる展覧会『SD Review 2010』に入賞し、一級建築士のキャリアを着実に歩む。その一方でライターの仕事も手掛ける。建築家業だけでも忙しいハズだが、どうして2つの仕事を掛け持ちしているのか。今も「挑戦すること」をやめないその背景と労働観をインタビューしました。(powered by THE LANCER編集部)

生き残るために注目したリノベーション物件

――現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

建築家として仕事をしています。

最近では、鎌倉駅から徒歩1分のところにある商業施設『アイザ鎌倉』の集合住宅部分に対するリノベーションを手がけました。1~3階は商業施設で、4階と5階が集合住宅になっている物件です。課題は、集合住宅の知名度が低く、数年間も空き家になっていたことです。私は「空き家の有効活用」を依頼されました。

最近の訪日観光ブームをヒントに、観光客が泊まりたくなるデザインを心がけています。赤い布に円をくり抜き、鎌倉の明月院にある『悟りの窓』とも呼ばれる借景が見どころのデザインを取り入れました。

他にも、東京杉並区にある『阿佐ヶ谷アニメストリート』の空き店舗を活用して、建築というものを広く知ってもらうと同時に、現代建築家を紹介するイベントを手掛けました。

――リノベーション物件が専門なのでしょうか。

建売や注文住宅の仕事もお受けしています。しかし、建売だけで生活するのは苦しい時代ですので、リノベーション物件を多く手掛けるようになりました。

街を見渡してみると、どんどん新しい建物が建っています。残念な事にそれら3分の1が、いずれ空き家になると言われているんです。空き家は相続や治安の問題をもたらします。「これ以上、新築を建てて意味があるのだろうか? 」という素朴な疑問を持ちました。

そういった疑問から、今あるものを再利用するリノベーション物件を手掛けはじめました。

建築家とライターの相乗効果

――どうしてライターの仕事を始めたのでしょうか?

営業活動の一貫です。建築に関連した記事を書くことで、読んだ人から仕事がもらえるのではないかと考えたんです。

もともと建築家の仕事には「書く仕事」が多いんです。自分の手掛けた案件を紹介するための文章や、コンペに参加するための提案書を書きます。ライターの仕事は、書くことの練習にもなります。

――実際にライターの仕事が建築の仕事につながった例を教えてください。

『住まいのニュース』というサイトに高円寺で手掛けたAirbnbの記事を掲載したことがあります。空き部屋を他人に貸し出す「民泊」についての記事でした。

民泊コンサルタントの人がその記事をたまたま見たそうで、連絡をくれました。何度かメールでやり取りした後「相談したいことがある」と言われて仕事につながりました。

――ライターの仕事を営業活動に生かすコツは何ですか?

私は自分のFacebookで記事を紹介します。Facebookでは3,000人とつながっていますので、そこから仕事につながることが多いです。

先ほど紹介した鎌倉の商業施設『アイザ鎌倉』の集合住宅のリノベーションも、私の書いた記事がきっかけでした。

最近も、先ほど紹介した『阿佐ヶ谷アニメストリート』のイベントを紹介したFacebookの記事を読んだ方から連絡があり、仕事の話につながりました。

Facebookはお金がかかりませんし、面白い記事は拡散されます。自分を知ってもらう便利なツールだと思います。

建築家としての転機

――そんなご活躍されている香月さんのいままでのキャリアについてお聞かせください。建築家を目指されたきっかけは何でしょうか。

伊東豊雄建築設計事務所のオープンデスクに参加して、約半年間ほど仕事をさせてもらったことがあります。そこで働く優秀な人たちに刺激を受け「この世界で成功したい」と思ったのが建築家を目指すきっかけです。

それ以前は、建築家を目指していませんでした。何を目指していたかと言いますと、中学から大学まで夢中になっていたテニスのインストラクターです。しかし、大学4年生の時に試合でボロ負けしたことをきっかけに自信を失い、他の未来を描かなければならなくなりました。

そんな時にお世話になったのが伊東豊雄建築設計事務所でした。相手に負けたくないという気持ちがテニスを続けるモチベーションだったように、各大学トップクラスで7ヵ国語も話せる優秀な人を目の前にして「この人達に負けたくない」と強く思ったことが建築家を目指す当初のモチベーションでした。

――そもそも伊東豊雄建築設計事務所の仕事はどのように見つけたのですか?

一般的な建築事務所には、経験を積みたい学生に無償で働く機会をあたえる習慣があります。私は、有名な建築事務所にかたっぱしから連絡しました。その中でたまたま受け入れてくれたのが伊東豊雄建築設計事務所でした。業界トップクラスの仕事をこの目で見てみたいという思いが動機です。

――その後、どのように建築家としての知識を学びましたか?

建築業界で一番厳しいと言われる「石山修武研究室」に入りました。伊藤豊雄建築事務所で経験を積んだあとのモチベーションが高い時でしたから、この厳しい研究室で鍛えられれば建築家になれると考えました。

実際、研究室に足を踏み入れると緊張感が漂っているというか、ピリピリしていました。学生同士がライバルのように競わされるのも研究室の特徴でした。

その後、日本の設計事務所の上海支社へ入り、日本のスーパーゼネコンでも手掛けないであろう、都市計画の様な大きな案件に携わることができました。

日本へ帰国後は、ミサワホームで事業の収益計画書を作る仕事に携わりました。ホテルを立てたらどれくらい利益が出るのかなどを調べて提案する仕事です。

広がる横のつながり

――最後の質問です。今、仕事をしていて楽しいことは何ですか?

吉祥寺建築会という団体を主催しています。

吉祥寺のハーモニカ横丁のお店に20代から70代までの建築家が集まり、プロジェクターを使ってみんなで勉強をし、その後みんなでワイワイ飲む。そんな集まりです。

若手だけではなく、業界で活躍しているベテラン建築家も参加してくれます。世代を超えた人たちと横のつながりを広げていけることがとても楽しいですね。

(おわり)

▽フリーランスの情報発信メディア「THE LANCER」より転載

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