インタビュー

私が新卒で就職でなくフリーランスを選んだ理由

投稿日:2017年11月30日 / by

読み手の心に寄り添う制作者


フリーランスの編集者・ライターとして書籍やWeb記事の企画・制作に携わるかたわら、コンテンツ制作事務所「Tokyo Edit」の代表をつとめる大住奈保子氏。新卒のフリーランスから編集者として大手出版社に転職して順調に実績を重ね、最終的には独立を果たした彼女。紙書籍からWeb媒体まで通用するそのスキルの秘訣と極意を聞いた。(powered by THE LANCER編集部)

コネなし実績なしで飛び込んだライターの世界

――新卒のフリーランスとしてキャリアをスタートしたそうですね。
はい、そうなんです。大学卒業後は1年くらい、フリーのライターが所属する編集プロダクションで、ビジネス書やWeb記事制作の仕事のお手伝いをさせてもらっていました。

ライターとしてまったく実力がなかったので、当時の月収は5~6万円ほど。実家で生活していたのですぐに生活に困ることはありませんでしたが、早く自立したいと焦る気持ちはありましたね。

――なぜ就職はせずフリーランスの道を選んだのですか?
新卒のころは、意識してフリーランスを選んだわけではありませんでしたね。今でこそランサーズがありますが、当時は書く仕事といえば出版社か編集プロダクションから仕事を回してもらうしかなかったんです。なんとか業界に入り込もうというのが第一で、後先のことは考えずに飛び込みました。

ライターの仕事を選んだのは、本当に絶望的なほど口ベタだったからです(笑)。

でも、書くと伝えたいことが不思議なほどにうまくまとまって、人からもよろこんでもらえたんです。そんな経験から、書くのを仕事にできれば楽しいんじゃないかとずっと思っていましたね。

当時はコネも何もなかったけれど、とにかくやる気だけはあるから話を聞いてもらいたいと、出版社に飛び込み営業もしていました。でも、いきなり何の実績もない若造に営業に来られても、普通はまわせる仕事なんてありませんよね(笑)。門前払いされては、とぼとぼ帰る毎日でした。

そんな中でも本当にたまに、「面白い子が来た」「君、実績はないけど勇気があるからきっといいライターになる」と言って仕事をもらえることもあったんです。ギャラは大した額ではなかったのですが、自分の力で仕事を取ってこられたことがうれしかったですね。

その後会社員として編集者になりますが、今またこうしてフリーランスに戻っているというのは、このときの気持ちが忘れられなかったからというのもありました。

――編集者になったきっかけはどのようなものですか。
ライターとして仕事をした本の見本が送られてきたので見てみたら、私が書いた部分が跡形もなく修正されていて(笑)。文章が下手すぎてとても使えなかったのでしょうが、ショックを受けましたね。


でも同時に「ライターって本づくりの中では、ほんの一部分の仕事なんだ」って気づいたんです。書かれた文章がそのまま本になるんじゃないんだなあと。その時に感じた「本が書かれてから書店に並ぶまでの一部始終を見てみたい」「本ができる仕組みを知りたい」という気持ちが、編集者になりたいと思った一番のきっかけですね。

充実していた出版社の編集者時代

――編集者になってからは、どのようなキャリアを積まれたのですか?
京都から東京に拠点を移し、編集プロダクションに正社員として入社して4年ほど仕事をしました。部分的なページ制作しかしないという編集プロダクションも多いですが、そこは河出書房新社の「KAWADE夢文庫」などのレーベルをまるっと請け負っている会社でした。表紙デザインの作り方や帯のコピーの考え方など、何から何まで教えてもらいました。寝る間も惜しんで仕事をするほど多忙でしたが、勉強になりましたね。

――その後、KADOKAWAに転職されたのですね
はい。メールマガジンサービスの立ち上げメンバーとして入社したので、最初担当したのはWebの媒体ですね。それまでは紙の本の編集ばかりをしていたのですが、Webの勉強も必要だというのを感じはじめていた頃だったのも、入社を決めた理由のひとつです。
企業のパンフレットを作る部署や、芸能人の写真集やエッセイ本を作る部署など、さまざまな仕事を経験しました。会社員としてのキャリアを振り返ると、雑誌、単行本、文庫本、新書本、ムック本、Webとほぼすべての媒体を経験したということになります。これは今でもすごくよかったと思っていますし、文章を書いたり編集したりするときに役立っていますね。

――編集者として仕事をするときに気をつけていたことはありますか
やはり、関わる人みんなに気分よく仕事をしてもらうということですね。これまでいろいろなクリエイターと仕事をしてきましたが、どんなに力のある人でも、気持ちが乗っていないと本当にいいものは上がってこないというのが実感です。

0からものを生み出すというのは私にはできないので、著者やイラストレーター、デザイナー、カメラマンなどのクリエイターたちのことは、ただただ尊敬。もちろん締め切りがあるので急かしてしまうこともあるのですが、ゴールはあくまでも「締め切りに間に合わせること」ではなく「よいものを作ること」ですよね。だから一方的に急かすのではなく、こちらもサポートしながら一緒にベストの作品を作り上げていくという姿勢を大事にしていました。

いい原稿を書くコツは、読み手の気持ちを考えること

――コンテンツ制作事務所「Tokyo Edit」を立ち上げられました。手ごたえなどいかがですか
1人ではなくチームで仕事ができるのは、本当に良かったと思います。できるだけ依頼をお断りしたくないのと、自分にはできないことが多すぎるから(笑)。自分ひとりだとこなせる仕事量にも対応できる仕事の種類にも限界が出てくるけれど、いろんな専門分野をもつパートナーがいれば、受けられる仕事の幅も広がりますよね。

まだまだこれからですが、Tokyo Editが目指すのは「クリエイターの部室」のような場所になることです。ものを作るのが好きな人が集まって、ああだこうだ言いながら仕事ができるようになればいいなあと。

――仕事に対するポリシー、スタンスを教えてください
読む人の気持ちを一番に考えることですね。Tokyo Editを立ち上げてから、他のライターさんに「いい原稿を書くコツって何ですか? 」と聞かれることも増えたのですが、最終的にはどんな案件でもそこに行き着くと思います。

導入では気持ちを惹きつける話題を入れたり、長い文章では休憩になるようなやわらかい話題を入れたりといった構成への配慮や、要所要所に「おっ」と思わせる見出しが入っていたりします。読者目線を意識して、戦略的に作られているんですね。

このとき広告主や作り手側の意向を尊重しすぎて読み手をそちらに誘導しようとしていたり、読み手のことを考えずにただ書きたいことを書いているだけだと、どこかで違和感が出てしまうと思います。

ビジネス的には本は売れれば成功、Web記事はクリックされればOKなのかもしれないけれど、それだけでは長く愛されるコンテンツにはなりません。ついつい目先の数字や結果にとらわれそうになるときにはなおさら、読者目線を意識するように気をつけていますね。

――ライターとしてのスキルを高める方法を教えてください
勉強会や講座などを受けるよりは、とにかく仕事として書き続けることでしょうか。最初はギャラが安くてもどんどん書いたほうがいいです。そのほうが絶対に身につきますし、量をこなすことでスキルは必ずアップしていきますから。

その中で「読み手の立場に立っていいものを作る」ということに徹底的にこだわっている編集者やメディアを見つけたら、そこで腰を据えてがんばるとスキルアップが早いと思います。最初のうちは何度も修正を求められたり書き直しになったりするかもしれませんが、どこに行っても通用するコンテンツ制作のスキルが身につくので、取り組む価値はあると思いますよ。


また、ライターの仕事ってけっして書くことだけではありません。関係者が気持ちよく仕事に取り組めるように気遣いをすることも仕事のうちだし、仕事にかかる労力を制作経験のない人にも分かりやすいように伝えて、適切なギャラを勝ち取ってくるのもそうです。

一見書くことと関係なさそうに思えるかもしれませんが、こうした力が身につけば仕事を俯瞰的に見ることができるので、文章をどんなふうに書くべきかも、いい条件で仕事を取ってくるコツも分かってきます。急がば回れの精神で、まずは自分の書いた原稿の役割や仕事の全体像をじっくり考えてみるのがいいですよ。私もまだまだ道半ばですので、一緒にがんばりましょう!
▽フリーランスの情報発信メディア「THE LANCER」より転載


【大住奈保子】
大学卒業後、ライターとしてキャリアをスタート。その後、編集者として文庫・新書、雑誌、単行本、電子書籍、Webと多岐にわたるコンテンツの企画立案・編集に携わる。2016年4月、フリーランスの編集者・ライターとして独立、コンテンツ制作事務所「Tokyo Edit」を立ち上げる。クリエイターが仕事をしやすい環境づくりの一環として、各種交流イベントや勉強会の運営も手がけている。担当作品は『ニッチェ 江上敬子のダンナやせごはん 胃ぶくろをつかむ、嫁ラクレシピ!』等。
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