インタビュー

職場になじむ働き方を実現する「就活」とは

投稿日:2013年5月1日 / by

菊池龍之氏瓦版インタビューVol.3

 株式会社 コヨーテ 代表 

“世界の人材研究家”菊池龍之氏

若者の就職難、早期離職、転職におけるミスマッチ…。労働市場の厳しい状況が続く中、輪をかけるように企業と求職者の相性が合わないケースが増えている。右肩上がりの時代ならまだしも、日本経済の体力が低下している昨今、これでは共倒れの危険すらある。数百社の採用試験を研究する“世界の人材研究家”で(株)コヨーテ代表の菊池龍之氏にミスマッチしない就活のヒントを聞いた。


なぜ企業の思惑と求職者の思いは合致しないのか

「新卒で入ったがブラックだった」、「就職サイトのイメージと実際の会社が全然違っていた」、「スキルを活かせると思って転職したのに、関係のない仕事につかされ納得いかない」…。就活・転職において、こうした声が後を絶たない。なぜ、企業の思惑と求職者の思いにギャップが発生してしまうのか…。

菊池氏 両者の情報が不足し、相互理解が不十分なまま入社に至っていることが問題だと思います。例えば就職サイトの場合、企業情報を書くスペースは限られていますから、企業側は全てを伝えることはできない。広告媒体なので、実際には仕事がハードな部分があってもそうした部分はなるべく表には出さないようにするのが一般的です。求職者側は、そうした限られた情報を中心に信じて自分のイメージする業種や仕事にマッチした企業を探しています。特に新卒採用においては情報収集の時間も限られているため、ほとんど情報を消化することなく就職活動をすすめているケースが多いようです。

カルチャーのミスマッチを防ぐには

思いを熱く語ってくださいました就職・転職サイトに登録し、自分の希望に近い企業の求人があればエントリー。書類選考を経て面接、という型にはまった就職活動。何十年も続いてきたこうした流れ作業のような採用のあり方に見切り付け、直接本人と会ったり、オフィスを公開したりするスタイルの採用活動を導入する企業も現れ始めている。

菊池氏 日本の就職活動におけるミスマッチを語る上で、スキルマッチとカルチャーマッチの2つの側面があると思います。新卒採用の場合は、スキルがマッチしないということはあまりないでしょうが、カルチャー、つまり社風のミスマッチというは起こりがちです。そういう意味で、直接会ったり、実際の職場を開放するというような採用スタイルでカルチャーにおけるミスマッチを少なくしようという動きは理にかなっています。そうしたこともあり、確かに増えていますね。

希望の会社情報を的確に収集する方法

体験型で入社前にしっかりと希望企業の社風もチェック。入社後の落胆を防ぐにはベターな策だが、そうした情報は簡単に手に入るものなのか。希望の企業がそうした機会を設けていなければどうすればいいのか…。

菊池氏 いまはネットをうまく活用すれば、関心のある企業や業種の情報は入ってきやすい状況にあります。仮に希望する会社が小さくても、そこが伸びている企業であればマーケティングにも長けている場合が多いですから、アンテナに引っかかってくるはず。かからないようなら、求職者がその企業のターゲットじゃなかったということかもしれません。あるいは、アンテナの張り方が不十分なのかもしれません。それになによりいまは、自分で情報発信できるわけですから、フェイスブックでもツイッターでも活用して、自分をアピールする情報を発信してみるのもの手ですね。実際、15歳の少年のツィートが、クックパッドの目に留まり、採用となった事例もあります。自分のWEBサイトを立ち上げ、自分をPRして就職が決まった新卒の学生もいます。採用担当者はいろいろとアンテナを張っているモノです。希望の会社が求人していないのであれば、直接、当該の会社に聞いてもいいでしょう。

埋没したくなければ受け身ではダメ

セミナー風景就活においては、どうしてもよく思われたい意識が強くなる。優等生の仮面をかぶりがちになる。その結果、無難な行動に落ち着きがちで、求人していない企業に声をかけるのも、躊躇してしまう…。

菊池氏 本気でそこに行きたいなら、躊躇してはいけないと思います。行きたい企業があるなら、関連するセミナーや勉強会にも積極的に足を運んで、そこで有力な情報を持つ人とつながったりするなど、自ら情報にアプローチするくらいの姿勢が必要でしょう。そもそも、日本の就活はかなり特殊です。海外の場合はかなり事細かにスキルが問われますし、求人自体があまりない。だから、求人募集していない企業にも積極的にアクションをかけるのが普通です。意中の企業によく思われることを考える以前に、自分がなぜそこで働きたいのか、何をしたいのか、しっかりと突き詰めることも大切でしょう。その意味では、求職者もこれまでのように就職サイトに登録して受け身の活動をするだけでは、埋もれてしまいますね。

伸びる企業の見分け方

国内外の企業の採用試験を研究する菊池氏。将来性がある企業に共通項はあるのだろうか。

菊池氏 アメリカで成長している企業についていうなら、スキルマッチよりもカルチャーマッチを重視する傾向にあります。グーグルしかりザッポスしかり。誰もが知る超優良企業ですが、どんなに優れたスキルを持っていてもカルチャーマッチしないと絶対に入れないといわれています。デザイナーやプログラマーなど、個人でできる仕事は、外部のパートナーに依頼する傾向が強まると思いますが、チームで集まって意見を出し合うようなプロジェクトを進める際にはカルチャーマッチしなければ、先進的なもの生み出せないからでしょう。あとは、行きたい企業が、どういうビジネスモデルを採用しているのかをチェックした方がいいでしょう。一般的なイメージとは違うビジネスモデルが収益の柱になっていることも珍しくありませんし、それによって、入ってからのポジションがそれなりに想定はできますからね。

〈まとめ〉
企業側の採用したい人材の上位には大抵「協調性」、「コミュニケーション能力」などが入っている。求職者もそれはよく分かっており、実際にそうした能力に長けた人材も少なくない。しかし、すぐれた「協調性」で入った企業の社風に合わせても、本当は合わないのなら結局は長続きしない。「就社」ではなく「就職」。厳しい時代だからこそ、安易な妥協はせず、その点をしっかりと認識して動くことが、新卒であれ、転職であれ、しっくり自分にあう職場へたどり着く近道といえそうだ。


コヨーテのサイト【菊池龍之(きくちたつゆき)】
1976年滋賀県生まれ。同志社大学卒業後、採用コンサルティング会社へ入社。企業の採用業務のアウトソーシングの企画設計、運用に関わる。また、2008年より教育研修事業の立ち上げに関わり、教育研修の企画提案を行なう。自ら教育トレーナーとして実績を重ね、米コンプティア社の認定するプロインストラクター資格(CTT+)を取得。2010年には、外国人留学生支援事業の立ち上げに参画。外国人留学生の就職、面接指導なども行う。2009年よりブログ「世界のユニークな採用試験を紹介する面接の研究所」を立ち上げ、のべ300社を超える企業事例を研究し、その活動は、雑誌や書籍でも紹介される。2011年に採用課題を解決するコンサルティング会社(株)コヨーテ設立。
URL:http://coyo-te.co.jp/


ジョブ型雇用
職務や技能によって雇用する形態。日本はメンバーシップ型で“忠誠”の名のもとに生涯面倒をみる形態が主流。その“代償”として、マルチプレイが求められる傾向にある。一方、ジョブ型では、例えば設計士なら、その腕を審査し、その技術を必要として雇用する。学歴は無関係であり、技術が最重要な要素となる。必要に応じての雇用なのでミスマッチは少ないが、会社がその技能を必要としなくなった場合、居場所を失うことになる。それでも能力がさび付いたわけではないので、次の仕事は見つけやすい傾向にある。


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