インタビュー

アンチ思考人間は本当に社会の異端児なのか

投稿日:2015年9月2日 / by

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一流企業退職から独立への道

株式会社旅と平和 代表取締役
佐谷恭氏

アンチと革新は紙一重?

株式会社旅と平和の佐谷恭代表は、東京に初めてコワーキングスペースを開設した人物だ。その先見性は、別の分野でもさまざまな形で具現化している。原動力は、常に常識を疑ってかかる、「アンチ」なスタンス。一般的には変わり者にみられがちだが、実は本質をズバリ突いてる。一流企業を3年で辞め、その後数年、職を転々とした同氏の足跡は、迷える社会人にとって、生き方のヒントがギッシリ詰まった教材といえる。

社会人になるつもりのない就活から始まった社会人への道

いまやバツグンの認知度で全国から客が訪問するパクチー専門店「パクチーハウス東京」の経営、東京初のコワーキングスペース「パックス コワーキング」の運営、さらに最近は、新しいマラソンのカタチ「シャルソン」を生み出し、その普及啓もうに尽力…。マルチに活躍する佐谷氏は、「パーティするように」動き回り、まさに楽しみながらビジネスアイディアを生み出し、そして具現化していく。

「私はもともと社会人になるつもりのない不真面目な学生でした。面接でもそれを公言していたのですが、それを面白いと採用してくれる企業があり就職することになりました。自ら手を挙げたこともありますが、新人時代からいろいろと任され、3年目には責任者になりました。しかし、上司を見ているとなんだかこのままここにいても偉くなるまでに30年はかかるのかなぁと。そう考えるとすごく嫌になって」とほどなく見切りをつける。

ほどなく退職し、社会をさまよったモラトリアム期間

アンチ思考でユニークなビジネスモデルを考えだす佐谷氏

アンチ思考でユニークなビジネスモデルを考えだす佐谷氏

その後、その大胆さからすぐに独立したかといえば、そんなことはない。むしろ茨といっていい道のりでその後約5年、佐谷氏は社会をさまようことになる。起業した友人の会社を手伝ったり、海外の大学に通ったり、旅をしたり…。大手企業で採用を担当していた人間が、そこを辞め、社会の中でもがく姿は何とも不思議ではある。だが、これももともと社会人になるつもりのなかった「アンチ」な佐谷氏が、社会になじむには必要な期間だったといえるのかもしれない。

何となくやりたいことはあるが、モヤモヤする。それでも、もがきながら着実に前進はしていた佐谷氏。ところが、その進路に大きな決断を迫る出来事が起こる。パートナーの妊娠だ。親になると自覚した途端、スイッチが入った。「会社員だと時間の制約がある。起業すれば子供との時間がつくれる」。靄は一気に晴れる。そして、ついに以前から考えていた独立を決断する。大学を卒業して10年が経ったころだった。立ち上げたのは、いまも代表を務める「旅と平和」。社名とは裏腹に、ビジネスの基盤としたのは、飲食店。それが「パクチーハウス東京」だ。

飲食店経営で独立を実現

「バイトでも飲食勤めの経験がない私がなぜ飲食店の経営なのか、と自分でも驚きましたが、パッとひらめいたんです。旅と平和学がライフワークの私にとって、外国を旅することももちろん旅に違いはありません。でも、場での出会いが旅の本当の醍醐味。だから、知らない人が出会って意気投合することも十分に旅に近い魅力がある。食という誰もが日常に触れるものに対し、旅の要素を入れる。そう考えるとあながち飲食店も『旅』と無関係ではないんです」と佐谷氏は、独立の一歩目を飲食店にした理由を明かした。

旅“旅”の醍醐味を満喫できるパクチーハウス東京

“旅”の醍醐味を満喫できるパクチーハウス東京

旅先のように、思いがけない出会いが生まれる飲食店--。「パクチーハウス東京」は、いうまでもなくパクチー専門店であることが大きな特長だが、基本、全席相席なのもまた、他にない飲食店としての個性になっている。ふらり店に入り、見ず知らずの客同士がうまいものを触媒に意気投合する。これは、パクチー専門店という特殊性ゆえに、会話に発展しやすいという佐谷氏の計算でもある。「パクチーほど好き嫌いが分かれる食べ物はない。だから話題にしやすいんです」。いまでは、東京・経堂で“旅”を楽しめる飲食店としてすっかり認知され、リピーターも多い。

東京初のコワーキングスペースで事業拡大

「パクチーハウス東京」で手ごたえをつかんだ事業家・佐谷が、次に注目したのが、“職場”だ。職場といえば、各自が黙々と業務に取り組むのが日本の標準。だが、「アンチ」の佐谷氏は、当然のようにそこに違和感を抱く。その結果、出た答えが「パーティするようにリラックスして楽しく働く」というコンセプト。それを実践する海外のコワーキングスペースの存在を知り、旅をしながら世界のコワーキングスペース運営者と交流を深め、東京初のコワーキングスペース「パックス コワーキング」を東京・経堂にオープンする。

折しも、新しい働き方が注目され始めたころで、同所もジワジワと知名度を上げていく。そこでは、見ず知らずのビジネスパーソンが、垣根なく会話し、時にはビジネスにつながる話も生まれる。シェアオフィスの様な他人行儀な堅苦しさはなく、佐谷氏の思い描く、パーティしながらリラックして、楽しみながら働くスタイルが、具現化されている。

アンチマラソンといえる楽しみ尽くすマラソンの新しいカタチシャルソン

アンチマラソンといえる楽しみ尽くすマラソンの新しいカタチ「シャルソン」

そしていま、佐谷氏が注力するのが「シャルソン」だ。ストイックなマラソンをどうすればもっと楽しくできるのか、というマラソン競技者とは真逆の「アンチ思考」でパーティとマラソンを組み合わせたようなユニークな競技を生み出した。

「参考にしたのはフランスのメドックマラソン。仮装して、走りながらワインを飲んで、立ち止まって会話もする。こんなマラソンがあるんだと感動し、以来、思い出でなく、日常にすべく、毎年参加しています。シャルソンは、その楽しさを私なりに再現性のある形に落とし込んだ企画です。これをどんどん広め、海外展開もしたいと考えています」と佐谷氏。常に新しいことを発想する頭は、もはや「アンチ」というより、柔軟で革新的でさえある。

無邪気さで辿り着いた独立への道

東京初のコワーキングスペースとしてオープンしたパックスコワーキングはパクチーハウス東京の上階にある

東京初のコワーキングスペースとしてオープンしたパックスコワーキングはパクチーハウス東京の上階にある

「就職するつもりはない」と始まった学生時代の適当な就活から、ひょんなことで決まった大手企業への就職。あっさり見切りをつけると、ふわふわしながら過ごした数年間もあった。「正直、決して胸を張れる期間ではなかったと思います。ずっと悩み続けていましたからね。偉そうなことは言えない。でも、ようやく最近になって、その期間が自分にとっては必要だっと思えるようになりました」と佐谷氏は、しみじみ振り返る。

「アンチ」、「パーティのように」、「無計画」。佐谷氏のこれまでの社会人人生には、常にこれらのキーワードが絡む。決して悪いことではないが、社会人の常識に当てはめると、「ダメ」なレッテルを張られかねない3ワードともいえる。だが、一方で3つに共通するのは、「無邪気さ」だ。本当に自分が納得した形の就職を実現するには、実は最も失ってはいけない要素といえるだろう。必要な時にこれらを抑え込んでしまう。だから、特に若いころは、社会の中で自分の進むべき道が見えづらくなる…。この生きざまをどこまで参考にするかはともかく、佐谷氏の社会での歩みは、逆説的にそのことを証明しているといえそうだ。(前編はコチラ


プロフィール 佐谷恭 さたにきょう

1975年生まれ。大学卒業後、富士通、リサイクルワン、英国の大学院、ライブドア報道部門を経て、独立。2007年8月、「旅と平和」設立し、代表に就任する。同年11月、東京・経堂に世界初のパクチー専門店「パクチーハウス東京」をオープン。2010年8月には東京初、日本では2番目となるコワーキングスペース「パックス コワーキング」を同ビル上階に開設する。2012年からは新しいカタチのマラソン「シャルソン」を企画し、その普及啓もうを進める。

 

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