クラウドソーシングを活用した先端の働き方とは
最小コストで最大成果を上げる活用法
forEst
CEO・後藤匠氏
最小コストで最大の成果を上げる――。最先端の働き方で、最大級のプロダクツを生み出す学生ベンチャーが注目を集めている。クラウドソーシングを駆使しながら、限られた予算と人員の中で、日本の教育に革新をもたらす可能性を秘める製品「おせっかいな問題集ATLS」を開発した『forEst』だ。後藤匠CEOにその狙いと可能性を聞いた。
従来とは一線を画す働き方
学生によるスタートアップに脚光が集まる中、forEstはその高い製品力とともに、先端をいく働き方にも注目が集まっている。従来の会社での作業の進め方とは一線を画す、組織における無駄を極力排除した効率的なそのワークスタイルとは、一体どんなものなのか。
企画が練られ、実行フェーズに入るとプロジェクトが立ち上がる。その際、どれくらいの人員とコストを要し、どれくらいの期間で仕上げるのか…などが綿密に練り上げられる。タスクによっては外注に出すものなどの選別も行われる。いまではその委託先として、クラウドソーシングを活用する企業も増えている。
同社も外注先として、クラウドソーシングを活用しているクチだ。それもヘビーに。しかし、その使い方は、他社とは一線を画す。例えば、ATLS開発における工程の中の過去問データ収集では、練り上げた作業フローをさらに4分割。適正やレベルに合わせ、タスク分解した上で、必要な人員をクラウドソーシングで調達した。普通なら、過去問のデータ収集をひとくくりとして、業者に丸投げするパターンが多いところだろう。
クラウドソーシングを有効活用する秘訣とは
同社では、この発注前のタスク細分化が標準フローとなっている。理由は、クラウドソーシング活用における弱点を事前にできる限り摘むとともに、その秘めたパフォーマンスを最大限に引き出すためだ。
「我々のような学生ベンチャーにとって安価に欲しいスキルを活用できるクラウドソーシングは、すぐれたシステム。なくてはならないものです。ただし、こちらの望むスキルを先方が持っているかはやってみなければわからない部分もある。私どもも活用において失敗を重ねる中で、どうすればそうしたリスクを軽減できるのかを試行錯誤しました。事前のタスク分解は、そうした中から得られたそれなりのノウハウですね」と後藤氏は説明する。
不特定多数の群衆のスキルと案件をマッチングするプラットフォーム、クラウドソーシング。ネットならではの優れたスキームだが、スキルの保有者にとっては、どうしても仕事にありつきたい意欲が高いため、不相応な難しい案件にも手を上げがちになる。ところが、やり取りがネット上限定のため、依頼側は、採否の判断を文字ベースでしかできない。そのため、依頼側は“誇大表示”に悩まされることになる。そこで同社は、依頼側のあいまいさをできる限りなくすことで、このミスマッチリスクの軽減を図っている。
インターン2人、学生3人の学生ベンチャーにとって、メンバーの能力やスキルを最大限に引き出すことが最大の武器となり、成功への近道となる。逆にいえば、出来る限りコア以外のタスクは、部外者に任せたい。そのため、同社が外部に依頼する案件は、いかにすればその状況を作り出せるかから逆算し、絞り込まれる。
主なものは、データ収集、イラスト・デザイン、プロモーション資料作成、コーディングだ。要するにコモディティ化しているタスクやコアな作業とは直接関係のない作業は基本、クラウドソーシングに任せるというワケだ。この割り切りによって、同社ではプロジェクト全体のコア部分以外の2割から3割の業務をクラウドソーシングで賄うことに成功している。
トコトコん活用することで会社力までアップさせる
もっとも、単にクラウドソーシングを活用するだけなら、さして珍しくはない。だが、同社では、“トコトン活用する”ことで、最大限にクラウドソーシングのパフォーマンスを引き出している。
例えばコーディングにおいて同社では、初期の段階で、実務に加え、コアメンバーにコーチングしてくれることを条件に人材をオファー。その結果、タスク遂行とともにメンバーのスキルアップも同時に実現し、プロジェクトのさらなる質の向上につなげている。
「我々にとってクラウドソーシングは、コモディティ化したタスクを依頼するとともに、通常は出会えない人材と出会えるプラットフォームと位置付けています。特に後者については、我々のような小さな会社ではこれまででは実現が難しかった部分だと思います。会社が大きくなってももちろん、引き続きうまく活用していきたいですね。だから仮に人を増やすにしてもやたらめったらということにはならないでしょうね」とクラウドソーシングと“一心同体”ともいえる後藤社長は、満足げに話す。
無駄を最小限に抑えた次世代の経営法
後藤CEO率いる5人チームで構成する学生ベンチャー「forEst」。同社が生み出したATLSは2013年に日本e-Learning大賞「デジタル参考書部門賞」を受賞し、教育業界に変革をもたらす期待も高まる。優秀な頭脳集団とはいっても、製品開発の過程に発生した膨大なタスク等を考えると、製品誕生は、クラウドソーシング活用なしにはあり得なかったといえる。ひと昔前なら、成功前に頓挫していた可能性さえあったかもしれない。
最小人員、最小コストで最大の成果――。クラウドソーシングを有効活用した同社の超スリムな効率経営による成功事例は、今後の会社のあり方やクラウドソーシングの一層の普及にも何らかの影響を与えることになるほどのインパクトがある。それだけに、同社の今後のさらなる飛躍が楽しみだ。
【おせっかいな問題集 ATLS】
タブレット端末を利用した高校生向けの学習サービス。優秀な学生の学習パターンが「知識習得」、「概念化」、「記憶」の3フェーズからなることに着目し、ネットの特性を活用して、フローをデジタル化。学習参考書を電子書籍として取り込み、その利用履歴などから、学習者が取り組むべきことを“おっせっかいに”指摘することで、従来通りの学習法ながらその効果を高める。第10回日本e-learnig大賞「デジタル参考書部門賞」を受賞しており、ドコモの企業支援プログラムにも採択されている。一般リリースは2014年内を予定する。http://for-e-study.com/atls_lp/
〈クラウドソーシングの権威、東京工業大学・比嘉教授門下生〉
後藤CEOは何を隠そう、クラウドソーシングの権威、東京工業大学・比嘉邦彦教授の門下生。単なるユーザーとは一味もふた味も違うのも無理もない。「先生の教えでいろいろ助かった部分はあります。今後、働き方はますます個の時代に入っていくと思うのでクラウドソーシングの重要性も増していくと思います。ですから、よりサービスが洗練していってくれればいいですね」と後藤氏は、クラウドソーシングへの要望とともに今後の働き方の行く末も展望してみせた。