インタビュー

社員の健康を経営に結びつける本当の目的

投稿日:2015年7月1日 / by

健康経営実践の狙いとポイント

cwo1(株)FiNC

執行役員 CWO
坂本奈央氏

「社員の健康は、経営の重要課題の一つである」ーー。こうした姿勢を全面的に打ち出す企業はまだ少ない。だが、そのすそ野は着実に広がっている。「ウェルネス経営」を経営理念に従業員の健康を経営と紐づけるFiNC。2015年5月には、その方針を確固たるものにすべく、“健康最高責任者”CWO(チーフ・ウェルネス・オフィサー)が創設された。自ら手を挙げ、同ポジションに就任した坂本奈央氏に、その役割や実践のポイントを聞いた。

CWOが必要な理由とは

--CWOとはどんな役割を担うポジションなのでしょうか

坂本 最高執行責任者や最高技術責任者や最高人事責任者と同列に従業員の心と体の健康に関する全てのイニシアチブを持つ責任者になります。従って、社員の健康状態に常に目を光らせ、最善の状態で働いてもらえるよう様々な施策を実施ていきます。

従業員を人財と捉え、経営と紐付け投資する

従業員を人財と捉え、経営と紐付け投資する

--単に社員を健康にするだけではいわゆる福利厚生と変わりません。あえて最高責任者のポジションを設置した狙いはどこにあるのでしょうか。

坂本 ウェルネス経営の本質は、人を宝、つまり人財とみるところです。ですから、人に対しては、コストでなく投資をするという観点になります。投資して人財を育てることで結果として、利益の向上にも結び付ける。単に従業員の健康を管理するだけでなく、そこに経営もコミットするので、組織横断的に全体に関与できるCWOというポジションが必要となるワケです。

目に見えづらい健康をどう経営と紐づけるのか

--直接的に業績につながらず、目に見えづらい部分ですから、実践していくのは一筋縄ではいかない。

坂本 当社の企業理念は、「Wellness&Beautyの新しい世界を創り、FiNCに関わるすべての人々の『One’s Precious Life』の成功をサポートする」。このビジョンのもとに、生体情報の蓄積、専門家とのネットワーク、さらにトップクラスの開発力等を有しています。これらリソースを有効活用することで、目に見えずらい健康というものを多面的に解析する体制が整っています。その一つである『ウェルネスサーベイ』、そして、リンクアンドモチベーションが提供する『モチベーションサーベイ』を組み合わせ、健康をデータ化することが、実践していく上でのひとつの軸となっていきます。

健康データの可視化により、より効果的に経営と連動させる

健康データの可視化により、より効果的に経営と連動させる

--そうした健康の可視化によって、従業員のパフォーマンスのチェックをするワケですね。

坂本 ウェルネスサーベイでは、喫煙習慣、運動習慣、睡眠時間、眼精疲労や腰痛などの業務への影響、飲酒の頻度など、生活習慣にも踏み込んだ350の設問があります。これを専門家が解析し、個々にあったサポート・改善タスクに反映します。まだ十分なエビデンスが出ているワケではありませんが、どういった項目が生産性の向上に影響するのか、モチベーションに影響するのかなどを今後しっかりと精査し、蓄積、人事評価などへも活用していきます。

--健康データを人事評価に活用するというのは、非常に斬新である一方、個々の特性により、ばらつきが出る可能性もあると思います。

坂本 その辺りは、組織の問題にもかかわってくると考えています。つまり、部署によって業務量が多過ぎ、遅くまで働くことが常態化しているという場合もあります。個人が自分の力では健康をキープできない状況ですね。こういったケースでは、個人というよりマネジメントの問題である可能性があります。そうした部分までしっかりと踏み込み、マネージャーの指導、教育をするようなこともCWOの役割と考えています。これまでなら、部下が上司に叱られて終わっていたかもしれません。しかしそれでは治療でいえば対症療法に過ぎません。従業員のメンタル面についても同様です。最高責任者の一角として、CWOが関わることで、人事と健保を一致させ、横断的に組織の構造を見直し、組み立てていく。そうやって、出来る限り根治に近い治療ができるようにすることが使命だと思っています。

健康経営導入による効果とは

--従業員の健康の管理という面では素晴らしい効果が期待できそうです。しかし、経営との関連でいうと、どういった効果が期待できるのでしょうか。

坂本 従業員の健康をキチンとケアすることが、イコール業績の向上というのは当初は難しいかもしれません。それよりもむしろ、企業の潜在的なコストを削減することで業績に貢献することになると考えています。つまり、欠勤・遅刻・早退で発生する「アブセンティズム・ロス」、勤務中の効率低下で発生する「プレゼンティズム・ロス」。この2つをなくしていくことで、生産性の低下を防ぎ、さらには向上させ、結果的に利益の向上につなげられると思っています。

--社員の健康にまで踏み込むわけですから、周知にはトップの意思が非常に大きな影響を持ちます。

坂本 当社はトップが元トレーナでその辺りに関しては、最も深い知見と認識があります。私の役割は、そうした方向性を全従業員にキチンと実践し、浸透させることだと認識しています。健康をキープする、つまり自己管理もプロフェッショナルとしての仕事の内ということを従業員に徹底してくことがまず達成すべきミッションと考えています。ですから例えば、それを実行するにあたり、どうしても労働時間が長くなる、ということがネックになるのであれば、少しでも従業員の負担を減らすために家賃補助を手厚くし、通勤の負担を軽くしてあげる、というような施策も柔軟に行っていきたいと考えています。

CWOとして目指すところ

坂本CWO

自身の健康維持に別フロアのプライベートジムを活用することも

--CWOならではの施策ですね。そういう役職がいてくれると従業員も安心して働けそうです。

坂本 この会社に入る前、私はグーグルで働いていました。超ホワイト企業です。いまの職場はベンチャー、その中でも“ドベンチャー”といっていいかもしれません。ですから、業務量はとても多いですし、組織もまだまだ未熟です。そんなゼロのところだからこそやりがいを感じ、自らCWOにも立候補しました。この状況から「ウェルネス経営」というものをしっかり実践する企業として共に成長。さらにそのカギを握るCWOとして、日本一のウェルネス経営企業を目指し、その普及の模範となり、世界へも発信していけるよう、シッカリと実績を積み重ねていきたいですね。

--グーグルから“ドベンチャー”というのは、華麗なるというか、勇気ある転身という感じです。簡単でない決断だったと思いますが、いまはとても輝いています。

坂本 日々の仕事が大変で苦しいな、と感じているビジネスパーソンも少なくないのかもしれません。そういう人に言いたいのは、「もっと素直になったら」ということです。もう少し具体的に言えば、「欲」があるならそれを「志」に変えたらどうですか、ということですね。もしも、仕事が辛いと感じていて、イヤイヤ取り組んでいるなら、それでは心も体も健康にはなれません。もちろん、それでもお金をたくさん稼げているからいい、という人もいるでしょう。でも、やりたいことがあるのに我慢して辛い仕事を続けているとしたら、どうなんでしょう。大事なことは、どちらが自分の中で優先なのかを、しっかりと見極めること。その上で決断をする。その先に本当の意味での心も体も健康な状態で働ける環境があるのではないかと私は思います。

--“勇気ある転身”を果たした人の言葉だけに説得力が違います。本日はありがとうございました。


■プロフィール 坂本奈央 Amy Sakamoto

cwo42011 年早稲田大学国際教養学部卒。米国戦略国際問題研究所 (CSIS) のインターンを経て Google に新卒で入社。中核事業である広告部門の中小企業代理店営業部の立ち上げ時に参画し、5四半期連続売上目標を達成。

2012 年第 2四半期に担当代理店の売上成長率世界一に導く。その後 Google for Work (旧エンタープライズ部門) の中小企業営業部でクラウド型グループウェア Google Apps のマルチチャネル販売戦略の策定とマーケティングに従事。部門内では最年少で昇進し、2014年下半期には上位15%の評価を得る。Google サービスの伝導で講演実績は 100回を超え、メディアには日経WOMAN (日経BP出版)、PRESIDENT (プレジデント社)、AERA (朝日新聞出版)、ワールド・ビジネス・サテライト (テレビ東京) 等複数掲載。2015年2月にFiNCへ参画後、社内公募制度によりChief Wellness Officer に史上最年少役員として就任。現在はウェルネス経営事業本部の立ち上げメンバーとして中枢を担う。


【FiNCの福利厚生】
健康経営を実践する同社の福利厚生は、さすがに健康関連が充実している。水素水の設置、OFFICE DE YASAI の設置、野菜ジュースや豆乳などを設置、定期的なファスティングを実施、遺伝子検査・血液検査補助、3D姿勢分析や体組成計の定期測定、サプリやスムージーなどの社販などだ。全てをキチンと利用しているだけで健康体はキープできそうだ。さらに採用時にウェルネススコアを回答、役員のウェルネススコア、検診結果の従業員への開示という制度もある。今後予定するものとして、ヘルスリテラシー資格取得の補助、年に一度の運動イベント休暇などもある。まさに会社のいたるところに「健康」というキーワードが散りばめている感じである。


【会社概要】
FiNC株式会社FiNC
所在地:〒104-0061
東京都中央区銀座3-9-6銀座マトリックスビル4,5F
代表取締役社長 CEO:溝口勇児
代表取締役副社長 CCO:乗松文夫
代表取締役副社長 CFO兼CSO:小泉泰郎
設立:            2012.4.11
資本金:         2億1150万円
従業員数:      90人(インターン/アルバイト含む)
事業内容:
1.法人向けサービスウェルネス経営ソリューション
2.FiNC ダイエット家庭教師
3.FiNCオンラインワークス
4.プライベートジム事業(銀座/赤坂・永田町)
5.ヘルスケア情報に特化したニュースキュレーションアプリ「WellnessPost」
6.遺伝子及び血液検査等各種検査サービス

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