職業

アイディアを形にする方法

投稿日:2014年8月6日 / by
ブータンにて寺井氏

試し書きコレクターとしてブータンで個展を開いた寺井氏(左)

興味が形に変わる瞬間

離婚式&涙活発案者

寺井広樹氏

試し書きコレクターであり、離婚式の発案者。涙活プロデューサーとしても活動する寺井広樹氏。試し書きコレクター? 離婚式? そもそも「涙活」って、という素朴な疑問はもちろん、一体どうやったらそんな職に就けるのか、という興味もある。まずは、謎多き寺井氏が、どのようにしてつくられたのか。本人のインタビューから探ってみる。

「予定通り」3年でピリオドを打った会社員生活

現在30代の半ばの寺井氏の社会人生活は、大学を卒業後、普通に就活の末、入った会社からスタートした。人材派遣系の会社だ。平凡だが、少しだけ人と違っていたことがある。「入って3年で辞める」と決めていたことだ。先輩の助言を受けての決断だ。

入社から3年。寺井氏は、予定通り退社する。予定通りだが、次の行動はぼんやりしていた。再就職する予定はなかった。荷物をバッグに詰め込んだ寺井氏は、旅に出る。3年の社会人生活でためた貯金で世界を巡った。自分探し的な意味合いもあったのかもしれない。その道中、寺井氏はあるものに興味をひかれる。「試し書き」だ。ベルギーの文具店で見つけ、魅入られた。

あてのない旅先で魅入られた世界の試し書き

フランスでは試し書きでも芸術的に見えてしまう…

フランスでは試し書きでも芸術的に見えてしまう…

「たかが試し書きなんですが、これがお国柄が反映されるんですね。ものすごい洒落た試し書きをする国もあれば、真剣に書き味を試したような、筆跡の国もある。貧富や文具への考え方などいろいろなものが、試し書きに投映されるんです。それに気づいてから、世界の試し書きを集めることを旅の目的に加え、各国を回ることにしました」(寺井氏)。

世界放浪から帰国後に転機

コレクターには様々な種類の人がいるが、「試し書き」というのは珍しい。こうしたユニークな着眼点を持つのが、寺井氏の個性であり、ある意味で才能の一端といえる。各国の文化を堪能しながら、試し書きも結構な数が集まった1年後、寺井氏は帰国する。もちろん、特に就職するあてはない。それから半年後、寺井氏は、喫茶店で先輩からある相談を受ける。「離婚」の話だ。

小さい頃の探究心を失わず前代未聞の式を敢行

この「離婚」が、寺井氏の運命に大きな影響を与えることになる。実は、離婚を考える先輩の相談に寺井氏は「離婚式」の開催を提案する。冗談ではない。本気だ。以前から、結婚式があるのになぜ離婚式はないのか、と疑問に思っていた。そうしたこともあり、先輩に持ちかけてみたのだ。快諾してくれたものの、個人だけの問題ではない。結局は奥様の同意もとれ、開催が決きまった。寺井氏は、前代未聞の「離婚式」の準備に奔走することになる。

離婚式の模様

日本初? の離婚式開催が寺井氏の運命を変える

「ふざけたものじゃなく、真剣なものとして考えていました。先輩に恥をかかせるわけにもいかないので、入念に構成を考えました。結婚式のように、親族がすべてそろうとかはないわけですが、会社の同僚なども来ますから、とにかくきちんとしたものにすることを考え、式を執り行いました」(寺井氏)。

離婚式プランナーの誕生

結果、史上初? の離婚式は大成功で幕を閉じる。祝いの儀式は盛大にやりたいものだが、別れの儀式などやりたくもない。ましてや他人に離婚をさらすなんて…。ところが、指輪贈呈ならぬ、指輪をハンマーで破壊する儀式の際の晴れ晴れとしたご両人の笑顔に、寺井氏は「これはいける」と確信する。離婚式誕生の瞬間だった。

「離婚はできれば人にあまり知られたくないものです。しかし、やってみて思ったのは、そうはいってもけじめをつける機会が欲しいというニーズはあるんだな、ということ。次のスタートを切るにしても、そうしたものがあるのとないのでは、踏み出す一歩の力が全然違ってくる。実はその時、参列者の一人から“ご予約”も受けたんです」と寺井氏は当時を振り返る。

過去に例を見ない、離婚式は、マスコミの注目も集め、一気に世に知られることになる。世界を放浪する試し書きコレクターは、こうして離婚式プランナーとして、晴れてワーカーへ復帰することになる。帰国から1年もたたない内の“戦線復帰”だ。偶然のたまものといえばそれまでだが、寺井氏の独特の感性があったからこそチャンスが引き寄せられたことは間違いないだろう。

離婚式で目にした「涙」が生み出した新たな展開

離婚式プランナーとして、順調に事業展開する寺井氏は、講演の仕事が増えるなど、着実に前進する。そうした中、離婚式で涙を流す当事者が、その後スッキリとした顔になることに着目する。さらに、多くの人が、実は泣く場を求めていることを知る。思案の末たどり着いたのが「涙活」。やはり、寺井独特の着眼点によるものだった。

裂人による指輪崩壊の儀

仲人ならぬ裂人(さこうど)が離婚式では別れる二人をサポートする

「実は離婚式で涙は想定していませんでした。特に男性側が号泣することが多かったんです。しかも、その後すごくスッキリとしている。それで泣くことの効果に着目したんです。泣くという行為の活動をしなければいけないのかとも思いましたが、調べてみると泣くことによる効能というのがいろいろ分かってきました。そこで、泣ける場をつくろうと始めたのが『涙活』です。最初は泣ける映画を用意して、それを丸々1本見てもらうスタイルでしたが、予想以上に多くの人が集まりましたね」と寺井氏は“涙活”誕生の経緯を説明した。

泣ける場をつくる活動「涙活」の誕生

こちらはビジネスではなく、毎回無料で行っているが、いまや「涙活プロデューサー」寺井氏の元には、次々と仕事が舞い込んでいる。試し書きコレクターに離婚式プランナー、そして涙活プロデューサー。趣味やボランティアレベルでやっているものもあるが、大きなビジネスにつながっているものもある。世の中の隙間にチャンスを見出し、形にする欲のないビジネスクリエイター。寺井氏の社会人としての軌跡は、どんな小さなことにも可能性があることを示している。

悔いを残さないようやりたいことはできるだけすぐ実行

寺井広樹

やりたいことはできるだけにすぐにやるという寺井氏

「昔から思ったことはすぐに実行する方でしたが、阪神大震災を経験し、いつ何が起こるか分からない。だから、出来ること、やりたいことはできるだけすぐにやるようにしようという思いはより強まったというのはあるかもしれません。安定よりも今やりたいことをやることの方に魅力を感じるし、私のやっていることなんて始めるリスクはほとんどないことばかりですから。とりあえずいまは、集めた世界中の試し書きでルーブル美術館で個展を開きたいですね」と寺井氏はサラリと言う。

仕事にやりがいを感じない〉、〈早く仕事を辞めたい〉、潜在的に思っている会社員も含めれば相当な数のワーカーがそうしたモヤモヤを抱えているのではないだろうか。だが、ハッキリいえることは、モヤモヤを頭の中でめぐらせても1ミリも晴れないということ。晴らす術はたったひとつ。行動することだ。失敗を恐れて踏み出せないなら、いまとどちらがいいのかを比べてみればいい。少しでも「やりたい」が上回るようなら、動くべきだ。会社員人生は長い。だが、ぶら下がっていてはつかめるチャンスも訪れない。(後篇に続く)


〈寺井広樹プロフィール〉

最新刊の「涙活ダイエット」(マキノ出版)

最新刊の「涙活ダイエット」(マキノ出版)

涙活プロデューサー、「涙活」発案者。
「離婚式」の発案者としても知られ、現在までに約200組の式に携わる。
2013年1月から「涙活」をスタート。
現在、泣ける映画、音楽、詩の朗読など毎回テーマを変えて涙活を開催している。
また、泣ける話に特化した人情噺「泣語(なくご)」を発案。
CNN、AP通信、アルジャジーラなどの海外メディアからも注目を集め、世界中に感涙を広めるべく、日々活動に奔走している。主な著書に『涙活でストレスを流す方法』(主婦の友社)、『泣く技術』(PHP文庫)がある。

涙活Official website:http://www.ruikatsu.com/

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