テクノロジー活用で生産性向上を実現するための7つのポイント

~業務効率化のエキスパートが指南~
【前編】最新ツール導入で失敗しないためのスタンス

時代はAI。その目覚ましい進化は、“仕事奪う論”の信ぴょう性を増幅する。だが、ビジネスシーンで重要なことは、テクノロジーをどう活用し、生産性を向上させるかだ。使いこなしてはじめてその効果を発揮する最新テクノロジーの職場活用のキモを、業務効率化のエキスパート、サイシード・中村陽二社長に聞いた。

目的をコスト削減にしない

かつて、職場ではコスト削減がトレンドとなった。ムダを削って、利益の純度を高める。そんな理屈で、照明は暗めに設定され、エアコンの温度も弱冷房が標準となった。だが、中村社長は、テクノロジー活用における業務効率化や生産性向上においてはコスト削減を目的にしないこと、と明言する。

「エアコンの温度を下げたり、コピー用紙の裏紙も活用したりするという行為は、断面だけをみれば確かに経費削減になるかもしれません。しかし、その不自由さや不快さによって社員がストレスを感じたり、テンションが下がるようでは、生産性の面ではかえってマイナス。最新テクノロジーを活用して生産性を高めるのなら、いかに業務を快適にできるかに重点を置くべきです」。

例えば、クレーム電話への対応が社員のストレスと時間の消費になっているなら、チャットボットに切り替えてクレームをシャットダウンする。あるいは、経費精算や企業情報の収集などのルーティンワークをRPAに置き換え、浮いた時間をクリエイティブな時間に充てるなど、テクノロジーが代替する業務を明確に区分し、労力の最適化を図る。そうしたことに注力することで結果的に生産性アップを実現するのが、最新テクノロジー導入の有効な使い方であり、正しい姿というわけだ。

費用対効果を考えない

コスト削減を目的にしないとはいえ、そもそも最新テクノロジーの導入には多大なコストがかかる。担当者が、その内容や機能に満足していても、投資対効果の面で、導入に二の足を踏むことも少なくないだろう。だが、中村社長は「目の前の費用対効果だけに焦点を当てる検討は無意味」と断言する。

「一番の理由は、明確に効果の部分を可視化しづらいということです。テクノロジー活用によって、社員の業務効率が高まったとしても、感覚的な側面も多く、数値化するのは難しい。そうした弱い根拠に依存した経営ではスピード感を失ってしまう。それよりも見るべき指標というのは、導入よって現場が働きやすくなったのかどうか。そしてその先にある顧客が満足しているのかどうか。そういう実態をみることが重要です。『費用対効果』で登場する指標をどれだけみても本当の実態はつかめない。ではこの判断をするためになにが必要になるのか。それは厳密なデータ取得でなく、どのような経営をしたいのか、ということ。その意味では、テクノロジー導入による生産性の向上は、フェーズとしては経営課題として捉えるべきといえるでしょう」。

トレンドを見極める目を持つ

いまはAIがブーム。右も左もAIの導入で騒いでいる…。そうしたトレンドに敏感であることは重要だが、それよりもここでいう「トレンドの見極め」は、どのツールが自社や自社の事業領域にとって有効なのか、これからどんな方向へ進んでいくのかを見極める目を持つということだ。

「デザイン性や話題性も判断の指標としては重要ですが、だからといって自社で導入するかは別で考えるべきです。仮に、同業他社で導入により大きな成果が出ていたとしても、必ずしも自社にフィットするとは限らないからです。それよりも重要なことは、ツールが流行っている背景やその技術的方向性が今後どこへ向かうのかなどの流れをしっかりとリサーチし、見極めることです。なぜなら、それが分かれば、例え現時点の技術が未成熟でも他社に先駆けて先進的な技術が導入できる。逆にトレンドが分からないと将来性のない技術の導入に多大なコストをかけることになりかねません」。

そもそも自社にAI導入が本当に必要なのかに始まり、必要だとすればどの分野にどんな効果をもたらしてくれるのか。そうした視点をしっかりもった上で判断しなければ、トレンドに振り回された挙げ句、ムダに大枚をはたくだけに終わりかねない…。専門分野でなくとも、トレンドへのアンテナを常に張り巡らせておくことは、どんな事業においても必須といえるだろう。(後編へ続く)


<プロフィール>
中村陽二 なかむらようじ
東京大学工学部、同大学院工学系研究科修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーでM&A、成長戦略の構築に携わった後、株式会社サイシード創業。100社以上の業務効率化、ツール導入に携わった実績を持つ。HP:http://www.sciseed.jp/

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