働き方

退職の概念を変える「アルムナイ制度」とは

投稿日:2014年4月28日 / by

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離職を戦略に転換する

人材流動化時代の注目制度

オンユアマーク 代表

井上幸一郎氏

人材の流動化が進んでいる。背景には正社員比率の減少やグローバル化の進展など様々な要因が横たわる。不可避の流れの中でいま、そのソリューションのひとつとして注目されている制度がある。「アルムナイ制度」だ。日本ではまだ聞きなれないこの制度について、人事マネジメントの専門家で、オンユアマーク代表の井上幸一郎氏にそのポテンシャルを聞いた。


終身雇用制度の崩壊と並行し進む人材の流動化

国内労働市場がいま、ゆっくりと着実に流動化している。衰退産業から成長産業、海外からの人材流入、大企業リストラ組の浮遊…かつての安定した地盤が、終身雇用制度をベースに成り立っていたことを踏まえれば、それが崩壊したことで、人材市場に大きなうごめきが起こるのは自然の流れといえる。

「人材流動化が進んでいる理由は大きく3つあります。ひとつは企業が安定雇用を約束できなくなっている点。もう一つは、それに関連して人材輩出企業の人気が高まっていること。そして3つ目が外国籍人材の流入です」と井上代表は指摘する。

人材流動化で発生する企業リスクとは

終身雇用制度というそもそものベースが崩れ、“正社員神話”は消滅した。その結果、給与や知名度よりも自分の成長を重視する求転職者が増加。さらにグローバル化の進展により、会社への所属意識が薄い外国人の流入が増大する。定年まで人材を雇用するというベースが崩れることで、労働市場の“安定地盤”はいとも簡単に軟弱になる。問題は、こうしたことにより発生する企業へのリスクだ。

井上幸一郎氏

人材流動化の3つのリスクをしてくする井上氏

「人材が流動化することで企業は3つのリスクを受けることになります。高コスト・ミスマッチ・硬直化です。吸引力の落ちた企業は、離職率の上昇により、人事コストが上がります。欠員を中途で補うにしても企業風土や業務慣習になじめないケースも多く、ミスマッチが起こりがちです。さらに中途は主に即戦力、専門職として採用するため、ジョブローテーションを行いづらく、組織が硬直化しやすくなります」(井上氏)。

ポスト終身雇用制度として注目の「アルムナイ制度」

どうやら日本企業の行く末に暗雲が垂れ込めそうな流れだが、これら課題を解消するソリューションとしての制度がある。それが「アルムナイ制度」だ。「アルムナイ」は、本来は「卒業生、同窓生、校友」の意味。転じて「企業の離職者、OB/OGの集まり」を指す。その名から想像できるように、一度離職した社員を再雇用する人事制度だ。

「育児や介護を理由に退職した社員を再雇用する制度は昔からありましたが、『アルムナイ制度』はこの制度の概念を拡張し、その対象に(1)私事退職も加え、さらに(2)再雇用以外の目的・目標を持ち活動する、としています」と井上代表。退社理由が限定的な単なる再雇用制度と一線を画すことで、同制度には様々な可能性が広がる。

(1)私事退職でも受け入れることにより、当然だが、マッチング精度が上がる。退職理由が例えば、「MBAをとって独立」や「上司とそりが合わなかった」としよう。こうした人材は優秀である場合も多く、企業にとっては簡単には手放したくないのが本音だ。なにより、社風を知り尽くしており、再雇用後、すんなりと馴染めることの価値は想像以上に高い。(2)再雇用以外の目的では、離職者を介しての人材紹介がある。これも社風を熟知したOB/OGゆえに必要な人材を見極める精度が飛躍的に高まるメリットがある。

アルムナイ制度を語る井上氏

井上氏はアルムナイ制度の最大の意義について、離職を戦力に転換できる点と主張する

アルムナイ制度の意義とは

こうした様々なメリットがある中で、その最大の意義について井上代表は次のよう指摘する。「離職ケースにもよりますが、人材紹介などはこれまで暗黙知で行われていました。その意味で、アルムナイ制度を導入する最大の意義は、離職後の人材を企業資産としてマネジメント可能になる点と考えています」。

具体的には、離職時に面接を行い、その理由をヒアリング。タイミングをみて再雇用を打診する。離職者の人材紹介に一定の報酬を与えることで、その活動を促進する…など、離職者に関する情報をデータベース化し、併せて成果目標も設定して運用、マネジメントする。こうすることで、企業にとって本来ならマイナスとなる離職者の発生をプラス要因へと転換でき、人材戦略として計画的に盛り込むことが可能となる。

導入の課題はないのか…

もっとも、辞めた社員を再雇用することに抵抗がある人は少なくないだろう。理由はともかく、一度は会社に見切りをつけたことに変わりはないからだ。「感情的にそうであっても実は、出戻り社員はロイヤリティが高い。なぜなら一度離れたのに受け入れてくれる会社に恩義を感じないハズはないからです。さらに外を経験し、成長もしています。こういう時代だからこそ、企業は優秀な人材確保を実現するために発想の転換が必要だと思います」と井上代表は話す。

去る者は追わずから、出た者にもオフィスのカギをーー。終身雇用制が前提の時代が終わり、グラグラに緩んでいる日本の労働市場。その中で確実に戦力の維持や強化を図るには、これまで通りのやり方では難しい状況にある。同制度採用により中途人材採用コストを8割削減できるという試算もある。退職者にいつでも戻れるよう、その門戸を開放する「アルムナイ制度」。ポスト終身雇用制度の有力で合理的なシステムのひとつとして、今後企業に広く定着する可能性もありそうだ。


オンユアマーク井上氏【プロフィール】
井上幸一郎 有限会社オンユアマーク 取締役社長
2000年立教大学経済学部卒。
eラーニングベンダーにて、米国の学習管理システムのローカライズ、販売等に従事。米国民間資格の普及推進にも努める。
また、大原学園の資格対策eラーニング講座の法人販売やeラーニング管理システムの法人販売にも従事。
2005年、人事コンサルティング企業に転職し、企業研修・人事制度コンサルティングなどの営業・講師・コンサルタントなどを歴任。
2007年、3か月の育児休暇を取得。
2010年11月、「日本の人事にイノベーションを」をコンセプトに独立。
・日本ワークライフバランス研究会会員
ホームページ:http://onyourmark.r-cms.biz/


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「アルムナイ制度」の詳細が書かれた小冊子、「人材流動化時代のタレントマネジメント」が現在、無料でダウンロード可能。人材が流動化し始めた要因や従来の企業の働かせ方の限界など、現在の労働市場を俯瞰し、鋭く分析。正社員としての在り方を見つめ直す上でも参考になる。

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