働き方

職場にがんの社員がいると分かった時、会社は、上司・同僚はどうすればいいのか

投稿日:2017年2月21日 / by

今後、職場にがん患者が増大する理由

同僚が、上司が、がんになった。多くの人は気の毒に思い、なかには職場復帰を諦める人もいるかもしれない。「がん=死」。いまだこのイメージは強い。普段通り接してくれ。そういわれても、そう簡単ではないだろう。

実際、職場でがんになった同僚がいたことがある人は少なくないハズだ。国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」(2012年、2014年)によると、日本人の2人に1人は癌になるというデータが出ている。

エン・ジャパン開催の人事セミナーでがんの現状を解説する若尾氏

こうした状況を踏まえ、今後、職場でのがん患者がさらに増大すると指摘するのは、国立がん対策情報センター長・若尾文彦氏だ。エン・ジャパンがさきごろ開催した人事セミナー「がん治療と仕事の両立は可能なのか―社員をも守る『がんと就労』」に登壇した若尾氏は次のように明かした。

「30代から55歳までの若い世代では、婦人系のがんによる女性のがん患者が多い。55歳以降になると男性のがん患者が増大するが、今後、定年延長などで、そうした層が職場にいる数が増え、遭遇する機会は増えることになるだろう」。

これまでは、定年により職場を去ることで目にする機会が少なかったシニアワーカーが、社会構造の変化によって職場に増大。その結果、就労中のがん患者率が上がり、必然的にがん患者との遭遇機会が増えるというワケだ。なにせ、2人に1人ががんになる時代。がんと就労は、もはや他人事ではない。

とはいえ、仕事と治療の両立は可能なのか。内閣府の世論調査では「両立可能か」、について6割以上が「そう思わない」と回答。その最大の要因として、「代わりに仕事をする人がいない、頼みにくい」(21.7%)、「休むことを許してくれるか分からない」(21.3%)、「体力的に困難」(19.9%)、「休むと収入が減るから」(15.9%)と切実な声が挙がっている。

それでなくとも、いまだ不治の病の印象が強いがん。宣告されれば、精神面で大きなダメージを受ける。誰に相談すればいいのか、職場ではどう報告すべきなのか、活用できる制度や仕組みはあるのか…。冷静な判断をしづらい状況ながら、やるべきことも多くあり、混乱するとしても無理はない。

体験者が語る、がんと就労の向き合い方

エン・ジャパン人財戦略室に勤務する西口洋平氏は、2年前、胆管癌を発症。ステージ4だった。「自分は恵まれていた」と前置きしながら、がん宣告を受けた後、就労継続するために、どう行動したのかを明かしてくれた。

がん治療と就労を両立する西口氏。エン・ジャパンで働く傍らでがん患者をつなぐ活動も行っている(キャンサーペアレンツ:https://cancer-parents.com/)。

「社長に全て話しました。なにが出来て、何ができないのか。そして何がやりたいのかを。もし受け入れられなければ、会社はそこまでのものだったんだなという覚悟を決めて」。結果、細かい点をすり合せながら、可能な限り提案を受け入れてもらった。

若尾氏が補足する。「西口さんの事例は確かにラッキーな側面はある。社長に直談判というのは普通は難しい。しかし、そうやって話しやすい風土を築いておくことは、がん患者が職場に増える状況においては重要なポイントになってきます」。

西口氏の上司、木田章範氏は加えてこうフォローする。「受け入れは意外にすんなりできました。すでに西口の精神状態が安定していたこともありますが、なにより会社の方針として、<縁があって入った仲間を大切にし続ける>、という理念がありましたから」。マネージャーとて人間。いきなりがんの部下をあてがわれても困惑する。理念という大枠が重要というのは当たり前のようだが、意外な側面だ。

西口氏は、がんと向き合うワーカーの一人として、同僚や上司に望むことを「特別視しないでほしい」と明かす。<がん患者だから>と腫れ物に触るように対応されるとやりづらい。実際、西口氏自身も、時短勤務を拒否し、週一回の治療を受けながらもフルタイム勤務を選択。そうやって、しっかりと会社の一員として職務を全うすることで、がんとも正面から向き合った。

がんは今や国民病といっていい病。一方で、5年生存率が6割を超えるという事実もある。治療と仕事の両立は、決して他人事ではない。がんだから、と企業が雇用契約を解除した場合、新たに人を採用する方がコスト負担が大きいとのデータもある。子育てや介護の問題同様、がんに向き合う社員の就労継続をどう受け止め、支援するかも、これから企業が取り組むべき課題のひとつとして、しっかりと認識しておく必要がありそうだ。

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