
人事のプロが指南する“残業体質”を抜本改善する極意
発生原因を先まわりして潰す、一歩踏み込んだ残業ゼロ術
なかなか残業が減らせない…。業務量そのままで時間だけ短縮の“働き方改革”に苦闘するビジネスパーソンは少なくない。そんな中、「会社員の働き方は無駄が多過ぎる」とズバリ切り込むのが経営コンサルタントの新井健一氏。最新の著書「先まわり仕事術」(ダイアモンド社)では、自身の時短スキルを大公開している。
本当は仕事は減っているハズなのに減らないカラクリ…
多くの企業が働き方改革に取り組み、着実に職場は改善へ向かっているーー。「いやそんなことはない、むしろ厳しくなった」、「やってる様だけど何も変わらないし、風呂敷残業が増えた」…。周囲から漏れてくる声は、どうも芳しくない。過渡期とあって、まだまだ改革による恩恵よりも“痛み”を感じているビジネスパーソンが多数派、というのが現実なのだろう。
その元凶といえるのが、上辺だけの残業ゼロミッション。誰だって遅くまで働いて疲弊するよりは、残業ゼロで早く帰宅し、趣味に勤しんだり、英気を養う方がいい。残業ゼロは歓迎だ。だが、現実は、業務量そのままで残業だけがなくなるなどあり得ない。工夫するにも限界がある。当然、数式には誤差が生じる。結果、余剰業務は持ち越しとなる。状況によりけりだが、風呂敷残業となることも珍しくないだろう…。職場全体にどんより感が漂うのは、そうしたことの影響も少なくないハズだ。
ムダだらけの働き方に真っ向切り込むさきまわり術
一体どうすればこの負のスパイラルを抜け出せるのか。新井氏の見解は痛快だ。「そもそも、ネットが登場した1990年代後半あたりから、業務って8時間もなくて終わるくらい効率化はされているはずなんです。ところが、残業は一向に減らない。これって結局、上司の問題なんです」。なんと一向に減らない残業は、無駄を誘発する悪しき組織構造にあるという。
具体的にみてみよう。例えば、上司の指示でレポートを作成するとする。「こないだの案件のレポートつくっといて」(上司)、「分かりました」(部下)。「できました」(部下)、「こんなんじゃだめだ、やり直し」(上司)…。こうしたやり取りが数回続き、最終的には最初に提出したレポートに毛が生えた程度のものでGoサインが出る。無駄のリフレインの末にそれなりのものができる悪循環。
新井氏が解説する。「これって結局、最初に上司にどんな体裁のどういった内容のものが欲しいかをキチンとヒアリングしていないから起こるんです。日本の場合、指示があいまいなことが多いですが、事前にしつこく聞いてしまう。内容はG(目的)+5W2H。先回りして質問することで、指示が明確になり、ムダが省かれ、効率が一気にアップします」。確かにその通りかもしれない。つい忖度して、深く聞かず、何となく作業を進めてしまう。その結果、ムダにやり直しが繰り返される…。
あらゆる業務にプロ意識で取り組むことでなくなるムダ
とはいえ、上司にしつこく聞くのは気が引ける…。怒られるくらいならやり直しの方がまし。そんな忠犬のような人も少なくないだろう。新井氏が助言する。「実は業務量は減っているハズなんですが、それを埋めるように上司が“上司面”で仕事した感を出しています。でもこれほどの無駄はありません。言いにくいかもしれませんが、聞きながらPCを叩いてメモしてその場でメールして確認してもらえばいいんです。その上で作業に入る。これが無駄を減らすのに最も効果的です」と新井氏は秘策を教えてくれた。
時間浪費の象徴にされがちな会議についても「先回り」が有効と新井氏は指南する。「会議って、せいぜいアジェンダが決まっている程度で始まる場合が多いですが、事前に回答を用意しておいてもらう。会議って本当はキチンと設計して開催するものなんです。先回りして、準備しておいてもらって開催する。場当たり的なダメ出しじゃなく、解を導くのが目的なんだから。そうでないとやる意味がない」。
著書では、その他、勉強法やスケジュール術など、6つのスキルを惜しみなく公開し、残業をゼロにする極意を明かしている新井氏。自身は外資系コンサル会社で入社1か月クビ宣告されながら、「先まわり仕事術」の実践でV字回復を果たしているだけにその説得力は十分だ。<仕事をやる前に準備する>。一見当たり前のことだが、突き詰めれば、仕事に主体的に取り組むという道筋にもつながっていく働き方。その内容は、単なる生産性向上ノウハウに留まらない、新旧の働き方のギャップを埋める奥深さがあり、悩めるビジネスパーソンには大いに参考になりそうだ。
<プロフィール> 新井健一(あらいけんいち)
経営コンサルタント。株式会社アジア・ひと・しくみ研究所 代表取締役
1972年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大手重機械メーカー、外資系コンサルティング会社、同ビジネススクール責任者、医療・IT系ベンチャー企業役員を経て独立。外資系コンサルティング会社時代には入社1カ月でクビ宣告されるものの、自ら考案した「先まわり仕事術」を実践することで、わずか4カ月で最高評価を獲得。以後、先まわり仕事術を武器に、これまでに大企業向けの人事コンサルティングから中小企業の起業支援まで、300社超の企業戦略に携わる。
著書に『いらない課長、すごい課長』、『いらない部下、かわいい部下』(日本経済新聞出版社)、『すごい上司』(ぱる出版)などがある。