働き方

AI採用で優秀人材を獲得できる企業は何が違うのか

投稿日:2018年11月14日 / by

成功事例から探るAI採用の失敗と成功の分岐点

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AIを活用した採用が浸透し始めている。大量の応募者を効率的にさばき、質も低下させたくない場合、現状で最も有効な手段のひとつだからだ。一方で、アマゾンが差別的な分析への懸念からAI採用を中止した事例もある。AIが採用プロセスに不可欠なツールとなりつつあるだけに、その活用にはより慎重さも求められる。どうすれば採用における理想のAI活用は実現できるのか。成功事例から探ってみる。

AI採用を工数削減ツールで終わらせないためのポイント

ユニリーバが採用プロセスにAIを導入したのは2017年。新卒採用の通年化に伴い、採用の仕組みを変革。世界中どこからでも応募可能な新たな採用制度「UFLP365」(UNILEVER FUTURE LEADERS PROGRAMME)に進化を遂げ、その選考過程に組み込まれた。AIによる判定は、その精度をGlobalで慎重に精査。一定の基準に達したと判断した上で正式導入に至っている。

その活用場面は、選考プロセスの初期段階(下図参照)だ。まず志願者がウェブ登録。次に、ゲーム選考、デジタル面接と続く。デジタル面接では人の目が入るが、ここまでの対応のほとんどはオンライン上で完結する。同社人事マネジャーの福井茂貴氏が証言する。「1人が数百枚レベルものエントリーシートを読み込む必要があったことを考えれば、業務削減効果は大きい」とその小さくない効果を認める。

通年採用は採用担当者の負担増につながるだけに、こうした効率化がなければ踏み込みづらい。その意味でAI採用は単なる効率化に留まらず、採用戦略を支えながら優秀な人材の確保にも貢献しているといえるだろう。

とはいえ、採用のファーストステップには規格外の金の卵が埋もれている可能性もある。そこを自動化することに不安はないのか…。新制度導入が反映された2018年4月入社の同社新入社員は、そうした懸念へのひとつのエビデンスとなる。福井氏が明かす。「新たな採用システムの影響かどうかは一概には言えないが、2018年入社の社員はこれまで同様にポテンシャルの高い学生を採用できたように感じています」と現場感覚ながら一定の評価を下す。

AI採用の成果を語る福井氏

本当の答えは今後の活躍ぶりでしか証明しようがないが、AI採用は同社にひとまず上々の成果をもたらしたといってよさそうだ。では実際にどうやって志願者を選別したのか。最初のパイメトリクス社のゲーム選考では10ほどのゲームを行い、リスク意識などその特性を診断。次にハイアビュー社の動画面接では、課題に対する回答を総合的に判断し、判定。ともに驚くほどシンプルな印象だが、どちらも導入企業の指針やそこで実際に活躍している人材のコンピテンシーがアルゴリズムに組み込まれ、それらが審査のベースとなっている。

ユニリーバのAI採用はなぜ金の卵の発掘に成功したのか

気になる精度はどうなのか。これについては確実にデータにマッチした人材を選別しているとしかいえないだろう。それはドライゆえのメリット、つまり、バイアスにとらわれないことによる厳格さは確かということだ。人間が面接する場合、ある種の偏見はぬぐい切れない。しかも、その多くは無意識だ。結果的にそれがポテンシャルの高い人材を採りこぼす原因にもなりかねない。その点だけでいうならAIは人間以上に“優秀”といえるかもしれない。

加えてAI採用では学習による精度向上が期待される。回を重ね、その実績が蓄積されていくほど、AI審査を通過した志望者と実際に内定を勝ち取った志願者間の特性ギャップがより鮮明になる。こうした知見をもとにAIがさらに学習していけば、マッチング精度は飛躍的に高まることが想定され、AI採用はますますその存在感を増していくことになるだろう。

AI採用

もっとも、ユニリーバのAI採用が成功した要因は、もっと深いところにありそうだ。福井氏が力を込める。「採用軸と教育軸にズレがあると、たとえどんなに採用システムが優れていても意味がない。AI採用は今後広がっていくでしょうが、採用にあたり会社としてどんな人材を育ていきたいのかという視点が欠落していれば、有効なものにはならないと考えている」と採用における本質的な課題を挙げつつ、人材活用のキモとなる視点を明かす。同社においては、まさにこの点を実践していることこそが“成功”の最大の要因といえるだろう。

AI採用は今後、着実に広がっていくことが予測される。企業にとって、その導入により優秀人材を発掘しやすくなるかもしれない。だが、マッチング精度を高める入力データは、自社の実績に基づいて積み上げられたものであって初めて実効性を持つ。<こんな人材が欲しい>という理想のデータを入力し、AIに学習させても選別されるのはあくまで理想のデータが合致する職場で活躍が期待される人材でしかない。それが健全なのかどうか…。まともな“リアル知能”を持つ経営者なら、その前に何をすべきかは容易に判断できるハズだ。

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