働き方

失敗しないコワーキングスペースの選び方

投稿日:2019年4月3日 / by
佐谷恭

日本の黎明期にCWSを立ち上げた佐谷恭氏

職場以外で仕事をするビジネスパーソンが珍しくなくなりつつある。自宅やカフェ、サテライトオフィス、コワーキングスペース(CWS)など、その選択肢は多様になり、百人百様のオフィス外ワークスペース選びも可能だ。特にCWSは、ここ2年でこれまで少なかった都心一等地に続々と大型施設が誕生。注目度が高まっている。そこで、東京に初のCWS「PAX Coworking」をオープンし、関連の著書もある「旅と平和」の佐谷恭氏に、正しいCWSの選び方/活用法を聞いた。

第二次ブーム到来のCWSの波にうまく乗るポイント

コワーキングスペース(CWS)が大増殖の気配だ。2012年後半から小規模タイプが急増したが、次第にシュリンク。コミュニティづくりに失敗した準シェアオフィス的なコワーキングは撤退した。代わって2017年前半から都心一等地、豪華内装の大型タイプが急増。ニューヨーク発のCWS「WeWork」が本土でのノウハウと大資本をバックに出店を加速すると、国内大企業も追随するように洗練された空間の提供を始めている。

WEWORK

NY発のCWS「WeWork」の上陸で日本市場も一気に過熱:©︎WeWork

働き方改革の浸透で、自社オフィスにこだわらない働き方が定着しつつあることも追い風だ。企業にとってはオフィススペースの削減でコストを抑えられる一方で、多様な人材を採用する環境整備にもつながる。職場以外での労働により、新たな人脈が生まれることもメリットだ。企業にも従業員にもメリットがあるCWSが今後、新しい働き方の受け皿としてさらに増床していくとは確実といえるだろう。

とはいえ、島国根性の染みついている日本人に本当にCWSは馴染むのか。しっかりと使いこなせるのだろうか…。日本のCWS黎明期に東京初のCWS「PAX Coworking」を経堂にオープンした佐谷氏はズバリ言う。「日本のCWSにおいては9割が本当の使い方を理解していない」。その真意は、「同じ場所に他社や異業種の人がただ集まって仕事しているだけ。それだと異業種交流会と何にも変わらない」ということだ。

自分に合ったCWSの選び方

では、これだけ活況のCWS市場にあって、企業や利用者はどうCWSを選び、どう活用すればいいのか。佐谷氏が指南する。

「評判やマーケティングの上手さだけでスペースを選ぶと出費が嵩み、得るものがあまりないことにもなりかねない。今話題のWeWorkはオシャレだし、コミュニティマネージャーがいる点はとてもよさそう。企業で商業ビルを借りて占有スペースを設けるよりは安く済むかもしれない」とWeWorkを評価しつつ、雰囲気や感覚だけで決めることには注意を促す。その上で、CWSを熟知するものとして次のようなアドバイスを送る。

「大切なのは、個々人の仕事やタイプで本当に合うかどうかを見極めること。いろいろなタイプのコワーキングがあることを知ってほしい。そして、気分や状況で複数の場所を選べると、より効果的にスペースを使えることになるでしょう」。自社オフィスに縛られないのが、CWSを利用する大きなメリット。それを最大限に生かすために、しっかりと自分軸で選ぶことが重要というワケだ。

調査結果

東京における新規床面積(コワーキング・スペース対サービス・オフィス)開設時点ベース 出典:JLL

そこで重要になるのが、肌感覚、つまり、雰囲気とのマッチングだ。「CWSは手軽に利用できることが大きな魅力。ほとんどの施設がドロップインという単発での利用が可能なので、いろいろまわって雰囲気を見ることは大切でしょう」と佐谷氏は場所の選定プロセスでの視察を推奨する。どんな人がいて、どんなムードなのか。コミュニケーションは活発なのか…。イメージとのすり合わせは、長く世話になる前提なら、より重要となる。

佐谷氏運営の「PAX Coworking」では、「パーティーするように仕事する!」をキャッチフレーズに掲げ、楽しく仕事をすることを大切にしていた。決して押し付けることなく、あくまで自然にそうしたムードが醸成されることを心掛けた。

「シンプルなことでいえばあいさつ。これが自然に出る空間でないと、コミュニケーションもうまくいかない。アイディアって実際のところ、100個のうち99個は捨てられている。でも、それは一人で考えた場合であって、別の人にとってはできることかもしれない。だから楽しく、気軽にコミュニケーションが取れる環境ってすごく大事で、そこにCWSで働く本当の意味がある」と佐谷氏は熱く語る。

CWS選びで最も重要なのは「利用目的」

CWSと混同されがちなものにシェアオフィスがある。CWSが気軽にコミュニケーションが生まれる場だとすれば、シェアオフィスはどこかよそよそしさがあり、話しかけづらいムードがある。「もちろん、シェアオフィスみたいなムードがいい人はそっちを選べばいい。仕事がはかどることは重要な要素だから。でも、会社以外の場所で働くのによその人と交流もあまりなく黙々と働くなら、なんの意味があるのかな」と佐谷氏は、首をかしげる。

Singularity HIVE

目的で選ぶには申し分なし。Singularity HIVEはブロックチェーンに特化したコワーキングスペースだ

第二次ブームといえるトレンドで、CWSも多様で特徴的な施設が登場し、利用者の選択肢は大幅に増えた。うまく活用することで職場を凌駕する成果を生み出すことも可能なだけに、検討している人にとっては申し分ない環境が整いつつある。「どこがベストか。それは、利用者それぞれによって異なります。大事なことは利用目的。人脈を広げることなのか、クリエイティブティを刺激したいのか、こじんまりした小規模スペースがいい、あるいは単に家から近いからというのも立派な理由であり目的。会社以外という観点でいえば、地方という選択肢だってある」と佐谷氏。

働くといえば自動的に「自社オフィスで」、が頭に刷り込まれている日本のビジネスパーソン。目的を軸に“職場”を選ぶという考えは、にわかには馴染まないだろうが、そのことによる生産性向上は計り知れない。そこで働くことで、自然とコミュニケーションが生まれ、ちょっとしたこともどんどんはかどり、相乗効果が生まれる――。従来の日本の働き方を物理的にも一変させ得るCWSのポテンシャル。それを最大限に活かせるかはズバリ、利用者の意識が全てといえそうだ。

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佐谷恭(さたにきょう)
1975年神奈川県秦野市生まれ。両親の影響でホームスティ受け入れなど幼い頃から積極的に国際交流をし、19歳から旅を始める。現在までの訪問国数約50カ国。98年京都大学総合人間学部卒業、2004年英国ブラッドフォード大学大学院(平和学専攻)修了。富士通で海外関連人事や新卒採用の責任者(西日本)として働き、退職後、友人設立の会社で営業部門の立ち上げを経験。その後、英国留学を経て、ライブドア・ニュースの立ち上げに参画するなどし、2007年8月9日、それまでの旅の経験を日本社会に還元するため「旅人が平和を創る」という信念のもと株式会社旅と平和を立ち上げる。最初の事業として”交流する飲食店”パクチーハウス東京を開き、2010年7月にPAX Coworkingを立ち上げた。著書は『ぱくぱく!パクチー』(2008年9月27日、情報センター出版局)、『つながりの仕事術 「コワーキング」を始めよう』(共著、2012年5月11日、洋泉社)など。最新刊は、「ありえない」をブームにするつながりの仕事術: 世界初パクチー料理専門店を連日満員にできた理由 (絶版新書)。

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