
生産性を上げるのではなく、時間を“増やす”方法
【瓦版書評】時間術大全
人生が本当に変わる「87の時間ワザ」
<生産性を上げよう!>。働き方改革が叫ばれて以降、もはや仕事をする上での常識といえるくらいこのフレーズは飛び交っている。残業代が高収入を支えていた時代からは180度の方向転換といえるこの風潮に理屈は分かっていても戸惑うビジネスパーソンは少なくないはずだ。生産性を上げるとはつまり、時間当たりのアウトプットの量や質を上げることだ。
最も単純な方法は、今までよりスピードを上げることだろう。1時間で5のタスクをしていたのなら、10出来る様になれば生産性は倍になったことになる。同じ時間でアウトプットの「質」を上げるアプローチで生産性は上げることもできるが、これは眼に見えづらく、量を増やすことに比べると証明しづらい難点がある。
もっとも、これらが本当の意味で生産性を上げることにつながっているかは、仕事の仕方で大きく異なる。もしも、あてがわれた業務を受け身でこなすだけの毎日なら、これら施策も本質的な生産性向上に寄与するとは必ずしもいえない。無駄を省いて効率が上がったように感じたとしても、こなせる仕事の総量はさほど変わっていないハズだからだ。
もちろんそれが多くのビジネスパーソンにとって仕事をするということなのは否定しない。あてがわれた仕事を無駄なくそつなく処理し、定時を目安に帰宅する。働き方改革における残業削減の模範ともいえるかもしれない。だが、それでは辛うじて業績のキープは出来ても、残念ながらその成長には貢献はできないだろう。
これからの時代、そうした主体性のない働き方で向き合うタスク、いわゆる「作業」はその多くがRPAやAIによる代替が可能になる。そうなれば、仕事は主体的に生み出すのが当たり前になり、同時に創造的なものへとシフトしていくのが必然だ。そうなって初めて、本質的な生産性を上げるための方法を真剣に考えるようになるのかもしれないが、それでは遅すぎる…。
本書に書かれている“時間術”は、非常にシンプルだ。一方で極めて独特でもある。その理由は、あまりにも一般的な仕事のやり方とかけ離れているからだ。というよりも、前提を仕事は主体的に取り組むものとしているからといった方がいいかもしれない。一例をあげよう。その日にやることは基本1つ、優先順位はやりたいことが最優先、不調なら思い切って仕事を切り上げる、などだ。選択と集中といえば聞こえはいいが、要は自由気ままなのだ。
日本ではとりわけ、主業務の他に雑用や差し込み業務など、マルチにタスクをこなすことが一般的だ。その方が評価されたりもする。著者にとって、こうした仕事の仕方は、「他者の期待に応えているだけ」。さらにいえば、大事なことに集中する時間を奪われているに過ぎないということになる。
確かにその通りだ。気持ちよく朝を迎え、いい気分で席について「さぁやるぞ」とスタートしても、順調に仕事がはかどることはむしろ例外的。こなすべき予定が固まっていても、なぜかイレギュラーの案件が当たり前のように差し込まれる。
本書にある時間術は、そうした邪魔を徹底ガードし、かつ、やりたいことを最優先する。それが全てといっていい。そのためのコンディショニングやスケジュールの掟までつくっている。そこまでやるから、毎日が100%の充実感で満ち溢れることになる。やりたい放題のようだが、さまざまな経験、そして実験を重ねて編み出された確固たるワークスタイルだ。
さらにいえば、著者はGoogle出身で、革命的な仕事術といわれる「スプリント」を開発。大きな話題となった『SPRINT最速仕事術』も書いている。単に好きなことを集中してやれば生産性が上がる、という単純なノウハウ本ではない。エビデンスに裏打ちされた、集中して仕事をやり抜くための実戦術そのものなのだ。
忖度重視の日本流が染みついているビジネスパーソンなら読後、「やるぞ。でも…」となるのではないだろうか。「そんなワガママ我が社じゃ通らない…」。つい周囲を気にしてしまうだろう。気持ちは分かる。だが、もはや会社も終身社員の面倒見る余裕はない。そもそもその忖度が、効率を大幅に下げ、さらには誤った判断を誘発し、会社寿命をさらに縮めている。
だから、ハラを決めよう。「生産性を上げるのは会社が生き残るため」。そうキッパリ割り切って、あしたからでも主体的に仕事に取り組み、その働き方を令和スタイルに抜本的にアップデートしよう!