働き方

組織をティール型にする上で企業がつまずきやすいポイント

投稿日:2019年8月8日 / by

ティール型組織に死角はないのか

働き方改革で残業をなくし生産性を高めることに成功した企業にとって、次の課題として浮上するのが組織改革だ。同時並行の部分もあるにせよ、別物として後回しになっているケースも少なくないだろう。その革新的な形態で、ひとつの理想形として注目されるティール型組織。個々が信頼で結びつき、指示命令系統もないそのスタイルは変革を生み出す土壌として理にかなっており、まさに次世代型の組織にふさわしいといえる。

ごくシンプルにいえば、ヒエラルキーをなくし、全員が同じ権限を持つようにすることで成立はする組織形態。そこだけをみれば、トップに強い意志と覚悟さえあれば実現も不可能ではないように思える。もっとも、令和の時代も色濃く残る、上意下達のピラミッド型組織の真逆といえるスタイルだけに、「うちには無理」「成立するイメージが沸かない」といった拒絶反応も多いだろう。

では実際、ティール型組織を実践する上で、どんな問題が想定されるのか。一方でどうすれば、その浸透を推進できるのか。企業としてもともとその素地がある中でティール型組織により近づける独自施策「Natura」を導入し、1年が経過したネットプロテクションズ。その社員の声から、ヒントを探ってみる。

同社が目指す組織像は、事業と組織が対等というもの。従来型が事業のために組織が存在していたとすると、同社では組織が自律し、その中でそれぞれが分散しながらも協調することで、アントレプレナーシップの成長とイノベーションの創造を支援。社員が自己実現と社会発展の両立を目指していく。つまり、会社は個人の想いを尊重し、サポート。個々の集合体としての組織は事業の最大化に全力を尽くす。それが自然のサイクルとして成立し、組織が、そして事業が自律的に成長を遂げていくというワケだ。

ネットプロテクションズのティール型組織

その実現を加速すべく、同社ではいくつかの仕組みが取り入れられている。その最たるものが情報の徹底開示。PL、BS,CF,各種議事録、給与、組織状況などほぼ全ての①社内情報が全社員に開示されている。それはほぼ社長と同じ情報量というから徹底している。ワーキンググループ制度では、社員は業務時間の20%を好きなプロジェクトに投下できる。

さらに「Natura」では、「役割のフラット化」「より安心でフェアな報酬ポリシー」「報酬の適正配分から成長支援へシフトさせた評価趣旨」の3つを軸に、全メンバーの「成果」「成長」「幸福」の高レベルでの両立を目指す。これらにより同社では、ティール型組織を実現する上での環境はほぼ整備されているといえる。

導入企業の1年後社員アンケートから見えてきたもの

その導入から1年が経過。一体、同社にどんな変化があったのか。気になるマネージャー職の廃止は混乱をもたらさなかったのか…。社員アンケートでは「全社的にみんなで育成していこうという機運が高まった」「年次や役職問わず、評価を考えるきっかけになっている」とポジティブな声がある一方で「評価軸がよく分からず、偏った評価になっているように感じる」「多岐に渡る業務の成果が部分的にしか評価に反映されない」など不満や困惑の声も上がっている。

報酬については「他社目線での自分が分かるので反省できるようになった」というポジティブな意見に対し「何を評価されたのか全社に共有してもいいのでは」「スペシャリストには不遇の制度」など、改善を望む声もみられた。質問はほかにもあるが、アンケート全体を通してみると、ネガティブな意見が多い印象を受ける。だが、それは各自が自律しているからこそ出てくる提言であり、初期段階ゆえの困惑と考えれば、“想定内”といえるのかもしれない。

Natura運用改善など広く人事領域を担当する釣巻創氏は「新制度の導入によって会社として定量的な変化があったいえることはないが、業績が停滞することはなく、むしろここまでの右肩上がりになんの影響もないという事実は、ひとつの成果と捉えていいと考えています」と評した。

その上で、他社が同様の組織づくりを目指す上で重要なこととして次の3つを挙げた。「トップがこういう組織を目指すという強い意志を持つこと。そして、明確なミッション・ビジョンがあること。さらに採用のところで、文化風土に共感しているかの見極めは重要になってくると思います」(人事総務グループカタリストの山下貴史氏)。企業文化として全く素地がない場合は、体質改善程度では対処療法にしかならず、血の入れ替えをするくらいの抜本的な改革をする覚悟は必要といえそうだ。

山下貴史氏

ヒエラルキーのない完全フラットで各自が大きな権限を持つ組織形態、ティール型組織。同社のアンケート全体から透けてみえるのは、どんなに優れた仕組みでも不満は避けられないということ。逆にいえば、それをネガティブに捉えるだけでは一ミリも前進もできないということだ。同社はアンケートの結果を受け、すぐに改善策を打ち出している。試行錯誤。まさにその言葉通り、トライ&エラーを繰り返しながら、全員で会社を成長させる。それが、ある意味のティール型組織の醍醐味ともいえるのかもしれない。

これまでは、売り上げ目標に対し、社員が一丸となり、それを達成することが大きな喜びだった。転じて、新時代の働き方では会社とともに個々も成長し、社会発展と自己実現を達することが喜びの源泉になる――。やや抽象的ではあるが、それこそが満足を超えた「幸福」につながる人間の喜びの本質といえるのかもしれない。成熟の時代に必然のように生まれたティール組織は、その実現に最も近い組織形態の一つといえ、目指してみる価値はありそうだ。

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