
就活生に必要なのは心のパラダイムシフト【瓦の目】
異状のない就職戦線に潜む危機
就活が解禁となり、各社の採用の動きがあわただしくなってきた――。といっても空々しさは否めない。水面下では学生獲得の動きは終盤戦を迎えているからだ。もう何年もこんな現実と建前が、無秩序に交錯している。就職戦線異状なし、である。
だが、大きな異状はなくとも、地殻変動につながる小さな動きが無数に起こっているのもまた事実だ。フットサル就活や合コン就活、特技に着目した就職サポート、クジ引き就活なるものも登場した。代理人による就活支援サービスは、大きな伸びを示している。企業による仮面就職の提案もある。従来とは一線を画す就活スタイルが、じわじわと浸透し始めている。
背景にあるのは、低空飛行が続くマッチング精度の向上だ。企業は優秀な学生が欲しいが、どこにいるのか分からない。学生はやりがいのある仕事をしたいが、どんな企業があるのかよく分からない。これでは、互いにすれ違うばかりで、天職という名の“運命の出会い”など生まれるはずもない。就活シーンの多様化は、そうした課題に対する涙ぐましい反抗の現れといっていいだろう。
優秀な学生はなぜ優秀なのか
中小企業中心の一風変わった就活イベントに参加していたある学生がこんなこと言っていた。「正直、参加企業のことは知らなかった。でも大きな企業がやっていることとは違う所で勝負している会社があり、そういう仕事があることが分かったのは収穫だった」。彼は、すでに内定持ちで、「気持ちが揺らぐことはない」と話していたが、ユニーク就活にもそれなりの意義があることを裏付ける証言といえるだろう。
ただし、重要なことがある。内定をもらっていたその学生は、それまでに100社の企業を調べ、ここはと思うところへインターンシップで合流。その上で、内定を得ている。若者離職率は3割といわれるが、この3割がここまで就活に力を入れていたのか、というと疑問が残る。「決まったから仕方なく」、入ったのが実態だとすれば、離職率3割も妥当な数字というしかない。
加速する就活シーンの多様化が、企業と学生のミスマッチ低減に貢献することは間違いない。だが、多様な就活イベントや方式が定番化すれば、結局は学生は思考停止となり、再びミスマッチ増加へと転じることになるだろう。要するに、優秀な人材は、内定を得るまでに最大限の努力をするから優秀でもあるのだ。決まったレールに乗っかるばかりでは、真に価値のある“内定”は得られない。あちこちで展開される就活戦線における小さな異状が、大きな地溝変動へと発展するためには、実は仕組みの多様化ではなく、学生自身が心のパラダイムシフトを起こすことが最も重要なのである。