働き方

企業が社員の健康を放置できない4つの数字

投稿日:2015年7月10日 / by

なぜ経営と健康を切り離してはいけないのか

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健康経営を取り入れる企業が増えつつある。社員が健康でなければ、企業の未来はないーー。そうしたことに経営者も真剣に目を向け始めた。社員の不健康がもたらすマイナスがいかに大きいか。それを示す明確なデータも出ている。そうした数字をみながら、なぜいま健康経営なのか。その要因や可能性について検証する。

長時間労働をさせる本当の問題とは

従業員を酷使するブラック企業が問題視されている。元凶とされるのは、長時間労働だ。だが、問題の本質は意外に見過ごされがちだ。売り上げが伸び悩んでいる。だから、少しでも利益を上げるために従業員にできるだけ長い時間、多くの業務をこなしてもらうーー。これまで、経営層によって、当たり前の様に行われてきた長時間労働の悪の方程式。実は、これは“欠陥”だらけで、根本的に間違っている。

それを実証するためのいくつかのデータがある。在日米国商工会議所(ACCJ)と欧州ビジネス協会(EBC)が共同でさきごろ発表した「ACCJ-EBC医療政策白書2015年版」。この中で算出されている数字は、無理な働かせ方により発生する多くのマイナスが浮き彫りとなるショッキングなものといえる。

従業員が不健康であることの大きすぎる代償

healthworking2まず、従業員が病気欠勤した場合に発生する年間の損失額をみてみよう。これは3,609億円と試算されている。病気がちで欠勤の多い従業員は確かに存在する。その結果、業務が滞ることで、これだけの損失が発生する。穴埋めに同僚が予定外の残業をすることで、体調悪化の波及リスクが高まるという副作用もあるから厄介だ。

疾病を抱えながらも欠勤せずに就業している従業員も潜在・顕在含め、少なからず存在する。当然、パフォーマンスは100%を期待できず、生産性は低下する。結果的に目には見えない損失が発生、その年間の額は2,817億円にも上る。

病気により、やむなく転職する場合には、その損失額は8,939億円、退職となる場合には4,662億円になると試算されている。つまり、従業員が健康のまま働き続けていれば、失うことはなかったと考えられる損失金額は、年間でなんと計2兆27億円にもなるのだ。

白書を発表したACCJとEBCは、このデータをもとに「労働力および生産性を維持するために疾病の予防(一次、二次予防)に加えて、疾病の重症化予防、再発予防にむけた治療(三次予防)への取組みに対して積極的な資源の分配と支援策を講じるべきである」と提言している。つまり、国を挙げて、労働者の健康をしっかり管理しないと、経済的に大きな損失を被りますよ、ということだ。

健康経営が着目される背景

昨今は、福利厚生の充実から「健康経営」へのシフトが進む。背景には、企業業績の長期の低迷がある。コスト負担の大きい福利厚生よりも、経営にコミットした投資としての健康経営の方が、資金の投入価値がある、という判断だ。社員にとっては、健康まで評価に結び付けられる少々厳しい方針転換となるが、上記の労働損失を考えれば、仕方のない流れともいえる。

社員食堂にフィットネスクラブ、サプリメントに有機野菜の提供、PCメガネの支給、出張マッサージ…など、企業の福利厚生はバラエティに富み、従業員の健康や幸福に貢献している。問題は、その利用率がなかなか高まらないことだ。使いたい気持ちはあっても、業務多忙で時間がない、手続きが面倒、などが主な理由だ。そうなると、せっかくの投資も宝の持ち腐れだ。コストを着実に成果へと転換する健康経営へのシフトは、そうした従来型の社員の健康や幸福の支援の仕方が内在する課題を解消する側面もある。

もっとも、企業努力で福利厚生をしっかり機能させているところもある。産業用の流体ガスワンタッチ継手を開発、製造する(株)三輝は「身体を動かして特別手当をもらっちゃおう制度」を導入。1日1回トレーニングルーム15分以上の利用で、400円を給料日に特別手当として支給という内容だ。ローソンは、健診受診率向上のため、受診しないものへのボーナス減額ペナルティを課す。デジタル・フロンティアは就業中に社内でマッサージが受けられる制度で利用率9割超をキープする。

人材の重要性の再認識

healthworking3企業にとって最も大切なのは人材。それは、ほとんどの経営者が理解している。だが、業績の低迷や信頼関係の希薄さなどにより、目先の数字に捉われ、いつの間にか従業員に無理を強いがちになる。仕方がない反面、結果的に大事な人材が、十分に能力を発揮できず、生産性を落とすことにもなる。長時間労働によって、売り上げをカバーしようとするなら、それは経営全体でみれば対症療法でしかない。根治出来るよう、最善を尽くすのが、経営層の役割だ。そう認識できなければ、その企業は、やがて法人として機能不全に陥り、深刻な病魔に侵されてしまう…。

もう10年以上も続く日本の低迷は、人口減少もあるが、なによりも大きな要因は産業構造の変化に企業が対応できていないことにある。働くほどに売り上げが上がり、収入もアップする時代はすでに終わっている。いま必要なのは、いかに社会にとって価値のあるものを創りだせるかという発想力・展開力だ。そのためには、社員はもちろん、企業が健全な状態でなければならない。それを実現できる体制への再構築が、最優先事項なのだ。これからの時代、社員の健康なくして、企業の繁栄はない。

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