
クラウドソーシングに秘められた可能性
世界中の優秀な人材をたくみに使いこなし、スケールの大きなビジネスを展開する――。こうしたプロジェクトの遂行は、もはやグローバルな大企業の専売特許ではない。能力さえあれば、1人でも不可能ではない。
必要なのは、プロデュース能力、語学力、そしてクラウドソーシングを使いこなすスキル、この3つ。実際に活用する際のイメージはこんな具合だ。プロジェクトの内容が決まれば、クラウドソーシングで人選。それぞれの役割をこなせる人材を世界中からかき集める。そして、指示を出し、まとめあげる。拠点は、カフェでも自宅でもどこでもいい。数台のパソコンと回線があれば、それでOKだ。
ヴァーチャルオフィスと呼ばれるこうしたスタイルで、極めて効率的に大きな案件をこなし、大金を手にするワーカーも数多く出始めている。大きなポイントは、例えば大企業よりも優秀な人材を集めることが可能であることだ。ネットを介し、世界中の頭脳を集め、多言語を駆使し、的確な指示で進めるプロジェクトが、自宅で一人のワーカーが行う。そうなると、従来の会社は一体どうなるのだろうか…。
そもそも会社は本当に優秀な人材の集合体なのか。皆がオフィスに集まって仕事をする必要はあるのか…。ヴァーチャルオフィスは、そうした疑問に答えるどころか、一気に吹き飛ばすほどのインパクトを持つ事実といえるだろう。
東京工業大学イノベーションマネジメント研究科の比嘉教授はこう予測する。「クラウドソーシングの普及によって、オフィスが消滅することはないだろうが、立派な自社ビルは無意味になる。稼ぎ方も変化するかもしれない。例えば、とてつもなくプロデュース力のある人がいたとしたら、いくつものプロジェクトを回し、大金を稼ぐ。つまり、10人で10億ではなく、1人で1億のプロジェクトを10やって、10億稼ぐというようなパターンも増えてくるかもしれない」。
能力のある人間が、効率的に稼ぐ。クラウドソーシングが普及すると、お金は能力に集まることになる。つまり、会社ではなく、能力のある個人が、より収益を上げられる環境が整うことを意味する。そうなると、“会社だからできる”という強みや魅力は相対的に下がってしまう。その結果、会社からはすぐれた人材が流出し、力が弱まり、ますますクラウドソーシングが優位になる。
行き着くところには、会社という概念の消失、ということもあるのかもしれない…。会社のカタチを変え、会社の存在意義をも変質させてしまう――。これがクラウドソーシングが秘める本当のすごさであり、現状に対しては、かつてない“脅威”ということになる。
第一回 クラウドソーシング革命がもたらす破壊的創造
第二回 アメリカの事例からクラウドソーシングを学ぶ
第三回 クラウドソーシングがもたらす労働市場への影響
第四回 労使双方にメリットをもたらすクラウドソーシング
第五回 クラウドソーシングに秘められた可能性
第六回 確実に世界中に浸透するクラウドソーシング
第七回 日本型クラウドソーシングとは
第八回 クラウドソーシングによる人材育成
第九回 クラウドソーシング時代に待ち受ける現実
第十回 クラウドソーシング時代に取り残されないために…
<東京工業大学 比嘉邦彦教授 プロフィール>
米国アリゾナ大学から1988年に経営情報システム専攻でPh.D.を修得。以来、同大学講師、ジョージア工科大学助教授、香港科学技術大学助教授を経て1996年に東京工業大学経営工学専攻助教授に、1999年より同大学理財工学研究センター教授。テレワークおよびクラウドソーシングをメインテーマとして、組織改革、地域活性化、e-コマースなどについて研究。それらの分野における論文を国内外の学術誌や国際会議などで多数執筆・発表。企業へのテレワーク導入ガイドブックの編集委員長、テレワーク推進フォーラム副会長を含めテレワーク関係省庁の各種委員会の委員および委員長を歴任。
最新著書紹介→『クラウドソーシングの衝撃 雇用流動化時代の働き方・雇い方革命』