働き方

【瓦版書評】強いチームはオフィスを捨てる(ジェイソン・フリード:早川書房)

投稿日:2014年2月14日 / by

強いチームはオフィスを捨てる

リモートワークは「サボりの温床」なのか

普段は気づかないものが、ちょっとした環境の変化で表出することがある。例えば都心で働くサラリーマンが、地方出張で現地のローカル線で営業先へ向かう時、そのガラガラぶりを目の当たりにし、「なんと殺人的な満員電車で通勤していたのか…」とゾッとする。スキー場で輝いて見えた行きずりの男と、都会で胸躍らせながら再会すると、普通以下にみえ「エッ」と絶句…。

人間には、異常や非日常に対し、惑わされ、そして慣れてしまう性質があるようだ。これは、都合がよくもあり悪くもある。仕事に当てはめれば分かりやすいだろう。連日、3時間以上の残業をしていると、定時に帰ることに罪悪感を感じるようになる。これはまずい。全く会社に貢献していないのに「給料が少なすぎる」と文句をいう。これはひどい。

何のチェックもなければ、こうした状況が是正されることはおそらくないだろう。それが悲しくも人の習性だからだ。「ゾッ」としたり、「エッ」と絶句するには、普段とは真逆の体験が必要になる。仕事における“真逆の体験”とはなにか。その一つといえるのが、リモートワークだ。

仕事はオフィスでするものである、という常識を考えれば、職場以外で仕事をするということはある意味、非日常といえる。すでに実践している企業もあるが、一般的には「家で仕事をするなんぞぬるい」、「上司の監視がなくサボり放題だ」…といった否定派の意見がマジョリティという感じである。本当にそうなのだろうか…。

否定派意見を痛快に論破

同書は、リモートワークをフル活用し、世界中の優秀な人材とチームを結成し、少人数で大企業並みのプロジェクトをこなす「37シグナルズ」が執筆した。前作「小さなチーム、大きな仕事」は、仕事における無駄を見事に喝破。従来の働き方がいかに愚かであるかを痛烈に記し、多くの支持を集めた。その続編だけに期待通り、リモートワーク否定派がひるむほどに痛快だ。

「リモートワークは監視がなくサボり放題」。この否定意見に関しての同書(同社)の見解はこうだ。「オフィスでの勤務におけるワーカーをチェックすると3割以上がユーチューブを閲覧している」とデータを記した上で、逆にリモートワークにおいては、生産性の向上が認められると指摘する。否定意見はむしろ、マネージャーの管理力のなさを露呈しているだけ、と言い放つ。

次から次へと否定意見を木っ端微塵にし、「ゾッ」や「エッ」を誘発する同書だが、立派なオフィスを構え、みなが同じ場所で働く従来の働き方を全否定するわけでは決してない。それでも、リモートワークでは優秀な人材を世界中から確保できることやワークライフバランスが充実し、より仕事の質が向上すること、コスト削減にもつながること…など、あまりあるメリットがあることを主張し、新しい働き方としてその導入を推奨する。

否定派への反論がことごとく痛快な上に、リモートワーク実践企業として素晴らしい実績を残している事実があることで、その説得力は文体の軽妙さと反比例してズシリと重い。導入を悩んでいる企業担当者はもちろん、個人的にリモートワークの導入を切望するワーカーは、こっそり経営者の机の端にでも置いておくことで、“動かざる石”を動かせる可能性があるのでは、とさえ感じさせるほどのメッセージとパワーが同書からはあふれ出ている。

〈キーワード〉リモートワーク、新しい働き方、在宅勤務、フリーアドレス、働き方革命

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