
ブラック企業の傾向と対策
ワークスタイル研究室
働き方最前線リポート
ブラック企業に搾取されない働き方
長時間労働、パワハラ、残業代未払い…など、社員を違法にこき使ういわゆるブラック企業がのさばっている。なぜ、悪質企業が生き残り、社員は食い物にされてしまうのか…。“餌食”にならない働き方はあるのだろうか。ブラック企業大賞実行委員会の内田聖子さんにその傾向と対策を聞いた。
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ブラック企業暗躍の背景
――ここ数年でブラック企業の問題が顕著に目立っている気がします。背景には何があるのでしょうか?
内田 8年ほど前の製造業への派遣を解禁した派遣法の“改悪”以降、労働環境の悪化が目立ち始めています。ここ数年は、リーマンショック後の先の見えない不況による企業業績の低下も大きな要因のひとつとなっています。
――残業代を支払わない違法な長時間労働などは、もはや企業が正当に従業員に報いることができないことを証明している訳ですが、なぜこうした企業が淘汰されないのでしょうか。
内田 “違法”に対し、明確な処罰、つまり法律がないというのがひとつ。そして、長時間労働を強いられた社員が立場的に弱く、言い出しにくいということが、もうひとつですね。
ブラック企業大賞の狙い
――それでもブラック企業を糾弾する声は、メディアも注目するようになり、ようやく大きくなり始めている気はします。
内田 やはりインターネットの普及は大きいですね。これまで声に出せなかった人が、匿名であってもネット掲示板などで声を発する。その声に対し、同じような境遇の人が、さらに声を発する。そうした行動が、少しずつ大きくなり始めています。
――ブラック企業大賞のようなアクションも起こりました。
内田 私どもは、実名でブラックな企業名を公表することで、なんとかこうした企業をホワイトにしたい、という思いで動いています。やはり、ブラック企業の場合、従業員が内側からよくしていくということは、現実的には非常に難しい。だから、外側から何かサポートできないものか、そのひとつがブラック企業大賞なんです。
ブラック企業大賞の“効果”とは
――昨年は第一回の授賞式を行いましたが、なにか“効果”はありましたか。
内田 何か言ってくるところがあるかと思いましたがありませんでしたね。もちろん、その後、状況が改善されたということもありません。ただ、私どものホームページには、非常に多くのアクセスがありました。注目度が上がっているという点では、効果があったといえるかもしれません。
――ブラック企業に対する自己防衛手段はあるのでしょうか。
ブラック企業への対抗策はあるのか
内田 ブラック企業に対し、個人ができる唯一の抵抗は「辞める」という選択肢です。しかし、これが簡単なことではないようです。それは仕方がないにしても、入社して「これはおかしい」と思えば、すぐに家族や友人に相談はして欲しいですね。無料で相談に乗ってくれる日本労働弁護団の電話相談や個人でも加盟できる労働組合などの専門窓口もあります。とにかく、ひとりで背負い込んでしまうと、負のスパイラルにはまり込んで、相談する気力を失うほど疲弊し、搾り取られ続けることになります。
――会社に雇ってもらっているという意識が日本人の場合、特に強い。そうした考えを変え、自分の腕一本でもやっていくんだといったような思考を持つことが、一つの打開策になる気はするのですが…。
内田 私どもはブラック企業の見極め方、といったものは教えないんです。ハッキリ言って今こういうご時世ですし、大なり小なりほとんどの企業がブラック、そうでなくてもグレーですからね。それよりも、たとえ入ってしまったとしても「おかしいな」と感じ、アクションを起こす判断力をもつことが大事であり、一番の防衛策だと考えています。
これからの働き方は3類型に
――そうは思うのですが、なかなかそうはいかず“餌食”になる人が後を絶たない…。
内田 例えば、ずっと非正規で30代になっても正社員に一度もなったことがない人は、これまで一度も会社に必要とされて働いたことないんです。そうした人が、冷静な判断力を持てるかというと、難しい。まず職にありつくことが最優先になるわけですから。そうするとこれから先、働き方というのは大きく3つに絞られてくると思います。一つはこれまで通りの正社員、もう一つは技能を生かしたフリーランス、そして3つ目が一生派遣。最初の2つは「勝ち組」といえるでしょうが、一生派遣は「負け組」ですね。
「負け組」にならないためにリスク防衛策を学ぶ
――今後、どの形が主流になるかはともかく、労働者に明確に「負け組」がいるような日本に未来があるとは思えませんね。
内田 就活において、自分である程度のリスク防衛策を学ぶことはもちろん、就活講座などで法律的なことや労働の実態などをしっかりと教えるようにする、というもの対策のひとつでしょう。なによりも確実なのは、法律をしっかりと整備することが、労働市場に「負け組」を出さないひとつの解決策ではあると思います。私どももブラック企業大賞を通じ、もっと大胆な行動を起こし、より多くの人にブラック企業の実態を知ってもらい、淘汰されるようアクションを起こしていきたいとは思っています。
【ブラック企業大賞】
パワハラやセクハラ残業代未払い長時間労働…など、労働環境の悪化が進む日本の労働環境。そうした企業を生み出す背景や社会構造の問題を広く伝え、誰もが安心して働ける環境づくりをめざし、「ブラック企業大賞企画委員会」が立ち上げられた。大賞では、独自の指標を基にブラック企業を決定する。委員会メンバーには、弁護士や作家、大学教授らが名を連ねる。2回目となる「ブラック企業大賞2013」が2013年8月11日(日)に行われることも決まった。